ヤマセミ
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| 野鳥観察用のブラインドを初めて手にしたのは、ヤマセミの姿を間近に見たいという一心からだった。ブラインド(とは名ばかりの迷彩の布きれ)、口径の小さな300ミリレンズ、そして割り箸のように細い三脚を提げて、夜も明けやらぬ河原に立ったのは19歳のお正月休み。14年前のことだった。冬の冷たい空気が刺すように痛い。折り畳みイスに腰を下ろし、前日までにおおよそ見当をつけたヤマセミの止まり木に向けてカメラをセットする。布きれ一枚被り、後はひたすら待つだけだ。 水の音以外何も聞こえない河原、夜がしらじらと明け始めたその時、上流から静寂を破る鳴き声が響いた。「ケレ!ケレ!ケレケレケレケレ・・・・」モノトーンの鳥が2羽一直線に飛んできて、目の前の木に止まった。「ケン、ケン、ケレケレケレ・・・」ブラインドの中で息を呑む。鼓動が高鳴る。ファインダーは吐く息ですぐに曇ってしまう。鳥は鳴きながら尾をピクピク上下させていた。距離は8メートル。鳥の息づかいまで分かる距離だ。 ヤマセミの雄が意を決したかのように、水中に飛び込んだ。「ドボン!」カワセミの「ポチャン!」というダイビングとは重量感が違う。水中から飛び出した瞬間、彼は自分の頭よりもはるかに大きいウグイを捕らえていた。「うわあ・・・」ヤマセミは暴れるウグイを嘴に挟んだまま地面に打ちつけた。バシッ、バシッ・・・20センチもあるウグイは背骨を砕かれそのうちに動かなくなった。「うう・・・」声も出ない。 野生の力強さ、鳥を待つ楽しみ、写真を撮る難しさ、その全てをヤマセミは教えてくれた。 ヤマセミの姿を何とかカメラに捉えたのは、それから10年も後のことだ。機材は随分立派になったけれど、夜明け前からブラインドに入って、止まり木に止まるのを待つ撮影スタイルは何も変わらなかった。要領よく撮りたくない。愚鈍でも、じっと待って撮りたかった。あの日の感動をもう一度。ヤマセミはその願いを確かに叶えてくれた。 |
| (2000/1/30) |