ヤマガラ
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| 1985年の春、大学進学のため、僕は大阪で一人暮らしを始めた。卒業までを過ごした6畳一間の木造アパートは、トイレは共同、風呂など勿論なく、暗い廊下を歩くとミシミシ音がするオンボロだった。道行く人が皆、関西弁を発する恐ろしい町で、広島出身の自分は暮らしていけるのだろうか?不安な気持ちを抱いて学生生活は始まった。 入学してまもなく、新入生の歓迎オリエンテーションが開かれた。いろんなサークルがあちらこちらの教室で勧誘活動を行っている。その中に、「生物研究会」というサークルを発見した。教室内には、北海道の大雪山で撮影したナキウサギ、信州の山で撮影したホシガラスや高山植物の写真が展示してあった。これまで見たことのない野生の世界が、学生でも手の届く所にあるのだということを僕は初めて知った。高校の頃から虫や花の写真を撮っていたので、何の迷いも無く「生物研究会」(略称生研)に入会した。 生研の活動で最初に出掛けたのは、4月の終わり、大阪・箕面での探鳥会だった。この日は関西の大学で構成された「関西学生野鳥サークル連盟」(略称関鳥連・かんちょうれん)の合同探鳥会だった。借り物の双眼鏡を首からかけ、先輩の後をノコノコついていく。先輩の中にはフィールドスコープの乗った三脚を肩に担いでいる人もいる。総勢20名以上だったろうか。春の陽射しの下、谷道を大勢で歩いていくのは、何かしら新鮮な感じだったが、困ったのは、双眼鏡の使い方がよく分からないことだった。先輩に「おい、あれや!○○や!」と指さされても、さっぱり目的の鳥が見つからない。「うーむ、あんまり面白くないなあ・・・」そう思っていた時、オレンジ色をした鳥が目の前の木に止まった。肉眼でもはっきり見える距離だ。「あ!ジョウビタキ!」思わず叫ぶ。オレンジの鳥といえば、ジョウビタキしか知らない。「ええ?こんな時期にジョウビタキ?」先輩がいぶかしげに振り返った。「これは、ヤマガラや。カラの仲間や。」「ヤマガラ?」先輩が図鑑をザックから引っ張り出して、違いを説明してくれた。初めて見るヤマガラは素早く枝から枝へ飛び移り、森の奥に消えて行った 。 生まれて初めて書いたこの日のフィールドノートには、25種類の鳥の名前が記してある。サシバ、アオゲラ、カワガラス、オオルリ、コサメビタキ・・・全く記憶にない。多分、自分自身の目では見ていなかったのだろう。この日出会った鳥で思い出すのは、ただヤマガラだけだ。 バードウオッチングを始めた人にとって大切なのは、鳥の珍しさでも何でもない。どれだけしっかりとその鳥を見ることができるかだと思う。新入生を迎える野鳥関係サークルの先輩諸氏には、何種類見せてあげられるかを競って足早にフィールドを歩き回るのではなく、近くに出てきた鳥に立ち止まり、しっかり見せてあげる余裕を持って欲しい。きっと鳥好きの新入生が増えると思うよ。 |
| (2000/3/26) |