ウソ


 「フイッ、フイッ」彩りを失った冬の里山に、柔らかく鳥の鳴き声が響いていた。山頂へ向かう谷道には少し雪が積もっている。足を止め、息を整える。吐く息で双眼鏡のレンズが曇らぬよう、気をつけながら声の方向を覗いた。雪をかぶった冬枯れの梢に、まるで小さな赤い灯がぽつぽつ点っているようだった。頬から喉だけがうっすらと赤い小鳥が桜の木に群れて止まっていた。ウソだ。冬芽を一所懸命囓っている。「うわー・・・」初めて見る小鳥だったわけではない。ただ、雪の白とウソの赤があまりに見事に調和していた。無彩色の世界で、小鳥達だけが生命の温もりを発散していた。
 僕にとって、この日の出会いは冬の里山を印象づける決定的な出来事だった。もう、10数年前の話だ。
 この日以来、雪が降る時期になると気が気でなくなった。学生時代も、会社に入ってからも、天気予報で雪マークがつくと、すぐにでも山に向かって走りたくなった。関西に住んでいて、スキーもしないのにスタッドレスタイヤを履いているのは、雪が降ったらいつでも出動できるようにだ。
 年が明け、もうじき関西でも雪の降る季節。北風を心待ちにし、天気予報をワクワクしながら見る季節がやって来た。さあ来い、雪雲! 
(2000/1/9)