ウミネコ


 シギチドリやタカの渡りが一段落し、冬鳥が来るまでの間、暇に任せて埋立地に通ったことがある。秋晴れの下、埋立地の真ん中には水が満ちていて、まるで大きな池のようだった。海水と真水の混じる大池には、ウミネコやセグロカモメが群で浮かんでいて、ザブザブと水浴びをしていた。
 「あかんかなあ・・・」尼崎のSさんがタバコを吹かしながらつぶやく。埋立地に居着いたハヤブサの観察のため、Sさんも足繁くこの場所に通っていた。ハヤブサはなかなか姿を現さないし、何時どこから飛んでくるか分からないから待つ他ない。
 埋立地の北側を走る阪神高速湾岸線で、覆面パトカーがウーとサイレンを鳴らした。スピード違反の車が捕まったようだ。「あほやなあ。」
 ハヤブサは一向に飛んでこない。退屈な時間が続く。
 水浴びをしていたウミネコは、時折魚を採りに海に出掛けていった。飛行コースが決まっているようで、我々の真上を飛んでいく。空中でブルブルッと羽を震わせると水しぶきが飛んできそうだった。車には丁度、その年の秋に買ったばかりのオートフォーカスカメラとレンズが積んであった。飛ぶ鳥の練習にはもってこいとばかりに、ハヤブサが来るまでの間、ウミネコを撮影することにした。水面を飛び立ったウミネコは、軽やかに翼を羽ばたいて頭上を通り過ぎる。ファインダーに相手をしっかり捉えると、ピントはカメラ任せだ。「ググッ・・・グッ」と、まるでルリビタキがぐぜるような音で、レンズのモーターが動く。バシバシバシ!秒間6コマのモータードライブが翼の動きを分解写真のようにフイルムに刻んでいく。「おー、撮れる、撮れる!」飛ぶ鳥など殆どピントが合った試しがなかったので、シャッターを切るだけで面白い。「わはは、撮れる、撮れる!わははは!」ウミネコはどんどん飛んできた。シャッターをバシバシ切った。フイルムをじゃんじゃん使った。「中田君、撮り過ぎやで」Sさんの制止も聞かず、僕は狂ったようにシャッターを切った。「ワハハハア!Sさん、撮れ ますよ、これ!わははは!」
 
 我が家のスライドファイルに、まるまる一冊分「青空にウミネコ」のカットが並んでいるものがある。あの日の埋立地の写真だ。どれも同じ様な写真ばかりだが、全部ピントが合っているので捨てるに捨てられない。何というお調子者。これに懲りた僕は、その後何年もウミネコに向かってシャッターを押すことはなかった。 
(2000/10/8)