タゲリ

 冬枯れの農耕地、畑の中をススッ、ススッと動く影がある。カナブンのように緑に光る背中、頭のてっぺんには派手な冠羽。冬、大陸からやってくるチドリの仲間・タゲリだ。チドリの仲間といっても、大きさはハトほどある。冬鳥のくせに何となく南国ムードを漂わせたこの鳥は、びっくりする程大きな声で鳴く。「ミュウー!」???最初にこの声を聞いたときは、鳥とは思わなかった。飛ぶ姿も変わっている。翼の先が丸いのだ。しゃもじのような翼をフワフワ羽ばたかせ、「ミュウー」と鳴きながら飛ぶ姿は何となくユーモラスだ。
 一昨年の冬、枯野のタカたちに会うため、岡山に遠征した。ノスリ、ハヤブサ、チョウゲンボウ、ハイイロチュウヒに只のチュウヒ。農耕地にはネズミや小鳥を狙う猛禽類があちこちにいた。そんなタカを探しながら車をゆっくり流していると、数百メートル前方で鳥の固まりが舞い上がった。タゲリだ。何百羽というタゲリが飛び立っては、田んぼに舞い降りることを繰り返している。車をゆっくり近づけると、脇目もふらずタゲリを撮影している男性がいた。「こんにちわ、すごいですね」声をかけると、男性が振り返り、にかっと笑って答えた。「そうじゃろう。ここで越冬しとるんよ」広島弁のその方は、枯野の猛禽の写真を各方面で発表しているIさんだった。「今年はあんまりタカがおらんけえ、タゲリを撮っとるんよ」これでタカが少ないなら、多い年はどんなだろう、そう思っていると、Iさんが車から写真を出してこられた。「これがタゲリのねぐらじゃ。冬のタゲリの生活はあんまり調べられとらんけえね」土塊の上で夕暮れの光を浴びたタゲリの群がうずくまっていた。そうか、タゲリの冬の生活は知られてないのか。
 身近な鳥だからといって、その生活が全て分かっているわけではない。特に、繁殖と関係の無い冬の生活は尚更だ。あまりスポットライトの当たらない鳥を地道に観察している人がいる。今日もIさんは枯野でタゲリと向き合っているだろうか。
(1999/12/19)