スズメ


 青森への転勤が決まった。6年半暮らした神戸の街を離れることになった。15年間を過ごした関西も、大切な仲間達もフィールドも、しばしのお別れだ。

 いざ引っ越しの準備をするとなると、妻と二人暮らしとは言え、結構大変だ。段ボール箱に詰められた独身時代の訳の分からない荷物や、捨てるに捨てられない没写真の山。片づけても片づけても減らないゴミに暑さも手伝って、妻は半狂乱状態だ。
 
 チュチュン、チュチュチュン・・・庭からスズメの声が聞こえる。小さな庭の真ん中には1本のビワの木があって、夏のこの時期、たわわに実をつける。スズメたちはビワが熟れて美味しい頃合いをよく知っていて、青い実が黄色くなり始めると、目ざとく我が家にやってくる。
 チュチュン、チュチュチュン・・・「ああ、駄目だ」片づけの手を止めた。窓辺に三脚を据え、望遠レンズをセット。カーテンをそっと開け、そろりそろりと窓を開ける。スズメとムクドリが、目の前で熟れたビワをついばんでいた。キュルル、キュルルル。ムクドリの喜びの声。チュチュン、チュチュチュン。スズメも嬉しそうだ。小鳥たちは辺りをきょろきょろ気にしながらも、満腹になるまでビワをつつく。僕の目の前にやってくるのはスズメもムクドリも色の薄い若いやつばかりだ。大人の鳥は人目につかない木のてっぺんや裏側で静かにビワをついばんでいる。
 
 思えば神戸に住み着いて6年半、庭の鳥にシャッターを切ったのは今日が初めてだ。これが、最初で最後だ。ガタゴト・・・妻が隣部屋で片づけを続けている。ガタゴト、ガタ!妻の不満が蓄積されていくのがよく分かる。よく分かるけど、ちょっとだけ待って。

 結婚、地震、我が家にやってきた白いネコ・・・ボロ家に詰まった思い出が一つ一つ蘇る。
 さよなら、神戸のスズメ。元気でね、神戸の小鳥たち。ありがとう、神戸の生き物たち。      
(2000/7/1)