センダイムシクイ


 大阪は中之島の職場に通勤していた頃のこと。よく晴れた10月の朝、阪神電鉄梅田駅の西側改札を抜け、大阪ヒルトンホテルの前を歩いていると、空から小鳥が落ちてきた。通勤ラッシュの人混みに踏みつぶされぬよう、咄嗟に拾い上げ、掌に包むようにして歩く。小鳥は脳震とうを起こしているようで、目を閉じて動かない。
 小鳥の名はセンダイムシクイ。東南アジアから夏鳥として九州以北の山地にやってくる。この辺りでも春と秋には渡りのため市街地を通過していく。きっと、掌の中のこの鳥も南を目指して飛んでいたに違いない。青い空を映したガラス張りの高層ビルは、本物の空と見分けがつかなくて、一直線にぶつかったのだろう。そして、僕の目の前に落ちてきた。
 小鳥はしばらくすると少しずつ動き始めた。目を開き、僕の指を細い足でしっかりと掴んだ。「こんな身体で旅をするのか・・・」鳥はあまりに小さく軽かった。夏の森に響く大きな囀りが、このか細い身体から発せられているとは、とても信じられなかった。
 旅の行く末を案じつつも、僕は何もしてやれなかった。立ち上がり、僕の顔を不思議そうに見つめる小鳥を遊歩道の植え込みに放し、再び通勤ラッシュの人混みに戻る。昼休み、気になって小鳥を放した場所に行ってみたが、もう影も形も見えなかった。
 あの後、あの小鳥はどうなったのか、大きなハンデを背負った旅は成功したのだろうか。毎年この季節になると、小さなセンダイムシクイのことを思い出す。そして、他にしてやれることはなかったのかと、自分に問いかけている。
(1999/10/11)