ライチョウ
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| 初めて本格的な登山をしたのは、大学1回生の夏休みのことだったから、かれこれ15年前のことになる。場所は南アルプスの北岳だった。白鳳三山と呼ばれる山々を大阪からの行き帰りを合わせ、のべ5日間の行程で歩いた。家の裏山のような低い山しか登ったことのなかった僕にとって、「日本で2番目に高い山」、「標高3192メートル」と言われても、全くピンと来なくて、初めて担ぐアタックザックの重さにただ閉口していた。メンバーは4回生の先輩1人と、同級生2人、男ばかりの計4名で、登山の経験者は先輩ただ1人だった。顎と言わず、頬と言わず無精髭を蓄えた先輩は、頑丈そうな鉄製の背負子に食料の入った段ボール箱と小さなアタックザックをくくりつけ、傍目にもただ者でない雰囲気を漂わせていた。 山は果てしなく高かった。沢筋をただただ登っていくのだが、あれが山頂だと指し示す先輩の指先は、いつまで経っても天頂に向いているように見えた。照りつける陽射しの下、テントと寝袋とカメラと着替え等々が入ったザックは肩に食い込み、汗が滝のように流れ出る。体力の無い僕は、何とかしてこの苦行から逃れたいなどと情けないことを考えながら、体力に自信のある同級生の後を死にそうな思いでついていった。 高い木が無くなり、足下がガレ場になると、ようやく登りが終わった。眼下に見える急斜面には、黄色い花を敷き詰めたお花畑が広がっていた。陽射しはきついが、風は随分涼しい。ザックを下ろして休憩していると、すぐ側にスズメのような小鳥が飛んできた。「イワヒバリや」先輩が教えてくれた。イワヒバリは全く人見知りもせず、花をついばんでいた。「さあ、テント張る所までもうすぐや。行こか」先輩の声で一同立ち上がる。頂上には翌朝登る予定だ。平坦な道になると皆、元気を取り戻し、ざくざくと軽快な音をたてて歩いた。「あ!ライチョウ、ライチョウ!」同級生の1人がライチョウを見つけた。双眼鏡で見ると、ハイマツの間を雌のライチョウが動いている。先輩も同級生もグングンスピードを上げ始めた。「待ってくれえー」情けない声を出しながら、僕はみんなの背中を追いかけて行った。 |
| (2000/7/30) |