オオソリハシシギ


 兵庫県西宮市の夙川河口は、ちょっとした暇さえあれば立ち寄ってみる身近なフィールドの一つだった。取り立てて珍しい鳥がいるわけではない。埋立地と阪神高速湾岸線に取り囲まれた池のような海。そんな海でも立派に潮の満ち引きがあって、大潮の日など意外に大きな干潟が河口部に現れた。干潟の泥は異臭を放っていたが、そんな海辺でも水に触れるのは楽しいのか、ウインドサーフィンやジェットスキー、犬の散歩に水遊びと、休日には多くの人出で賑わっていた。
 8月に入ると干潟にはシギやチドリもやって来た。コチドリやトウネン、ハマシギのような小さな種類が殆どだったが、毎年1羽や2羽はオオソリハシシギが来てくれた。体長約40センチ。シギの中では大きい部類に入るだろう。その名の示す通り、長い嘴は上向きに反っている。フィールドスコープを覗くと、シギは泥の中に嘴を突っ込んで器用にゴカイを引っぱり出している。手探りならぬ嘴探り。一体どうやって泥の中の餌を探り当てるのだろう。そういえば、シギの嘴は上に向いてグニャッと曲がるから、泥の中で嘴をクネクネと動かしているのかも知れない。グサッと泥の中に嘴を刺してグニャグニャッと探り、またグサッと刺しては探る。考えてみれば何とも気の遠くなるような作業だ。人や犬に邪魔されながらも、忙しそうに獲物を探している。こんな干潟でも泥の中には生き物が沢山いるのだろう。
 夕暮れ時、潮が満ち、最後の干潟にオオソリハシシギは取り残された。いつの間にか人影まばらになった海岸。足下の砂をザパンザパンと緩やかな波がさらい始めると、シギは意を決したように沖合に飛び立った。夙川河口の平凡な一日が終わった。 
(2000/8/20)