ノスリ


 里の紅葉が盛りを過ぎ、うるさいくらい飛んでいた赤トンボの姿もめっきり減った。町外れの休耕田ではタカの仲間・ノスリの数が急に多くなった。北海道で夏を過ごしたノスリたちが、北風に追い出されて青森までやって来たに違いない。

 昨冬まで足繁く通った京都市南部に広がる巨椋池干拓地は、かつて冬の間、ノスリ、チョウゲンボウ、コミミズクの舞う関西屈指の猛禽類生息地だった。あちこちの電柱の上にはノスリが鎮座し、休耕田や畦道、水路にネズミはいないかと眼を光らせていた。ほんの10年前の話だ。その後、干拓地からハタネズミが駆除され姿を消すと、時期を同じくしてノスリたちの姿も見えなくなった。そしてここ数年、干拓地の主役は小鳥を主食とするコチョウゲンボウやハイイロチュウヒ、ハイタカに取って代わった。

 今、青森の休耕田を見るとき、僕は10年前の巨椋池干拓地を思い出す。ノスリが畦道の杭に止まっている。翼に風をはらませフワリ飛び立つと、草むらに舞い降りてネズミをその足に捕らえる。ご馳走を手に入れた仲間が気に入らないのか、他のノスリが飛んできては追いかけ回す。そんな風景が懐かしかった。
 
 ノスリはどちらかといえば地味なタカだ。鳴き声も「ピーヒョ」とトンビの尻切れトンボ。ワシタカファンの間で人気投票をすれば、かなり低い位置に甘んじることになるだろう。だが、じっくり見ればなかなか愛嬌のある顔をしている。個体によって色も随分違いがあるようだ。それに、巨椋池干拓の例を持ち出すまでもなく、沢山いたと思った生き物が、ある日姿を消してしまうことなんてよくある話だ。身近な鳥は、身近にいるうちによく見ておかなければ。田んぼが雪に覆い尽くされ、餌を求めてノスリが南下を始めるまで、しばらく彼等とつきあってみようと思う。どんな表情を見せてくれるかちょっと楽しみだ。  
(2000/11/5)