ミツユビカモメ


 本日夕刻、六甲山でオオルリを観察した後、浜甲子園を覗いてみることにした。干潟には春の渡りのシギやチドリがいるはずだ。機材を背負って堤防沿いを歩く。昨シーズンまで沢山あった仮設住宅は全て撤去され、元通りのグラウンドや駐車場になっている。震災の爪痕は、時と共に徐々に見えにくくなっていく。
 向こうから伊丹のOさんが走ってきた。血相を変えている。きっと何か珍しい鳥がいたに違いない。「こんにちは。何か出たんですか?」「問題です!出たのは何でしょう?」「うーん・・・」考える僕を尻目に「正解はミツユビカモメです!カメラ取って来まーす!」と叫びながらOさんは駆け抜けて行った。
 
 堤防の上でフィールドスコープを覗いている鳥屋さんは、殆ど知り合いだった。干潮で遠浅となった浜にカモメの群が下りている。「おお、中田くん!ミツユビカモメやで!こんなん来ると思えへんかった。Mさんの奥さんが見つけはったんや!」浜甲子園のすぐ側の団地に住み、もう何十年来この浜で野鳥を観察しているSさんが興奮した様子で教えてくれる。発見者として紹介されたM夫人は照れくさそうだ。Sさんは携帯電話を取り出し、知り合いに次から次へと電話をかけ始めた。野鳥の会兵庫県支部でこの浜を観察しているNさんも「珍しい記録ちゃうか?」と興奮した様子だ。皆、口々にミツユビカモメを讃えている。
 フィールドスコープで何百メートルも離れたカモメの群を見ると、ユリカモメとカモメが沢山。その中に、ひときわ短足で頭でっかちのミツユビカモメがいた。成鳥の夏羽なので頭は真っ白。つぶらな瞳がより小さく見える。

 僕がミツユビカモメを初めて見たのは千葉県の銚子だった。学生時代、鈍行列車を乗り継ぎ辿り着いた銚子。3月の港を軽快に飛び回る小さなカモメに感激したことを覚えている(写真はその時の一コマ)。その時見たミツユビは冬羽だった。頭には黒い模様があった。
 「随分印象が違うものだなあ・・・」繁殖期を控え真っ白にお化粧したミツユビに、しばし見とれる。
 
 「ミツユビや!ミツユビカモメやで!びっくりや!来れるんやったら来て!」Sさんは相変わらず満面に笑みをたたえ、知り合いに電話をかけている。長年観察し続けてきた浜に初めてやって来たお客さんだ。震災で干潟が沈み渡り鳥が激減した浜に、今年は珍しくオオソリハシシギが28羽、ダイゼンもチュウシャクシギもキョウジョシギも姿を見せてくれている。Sさんにとっても、Nさんにとっても、本当に嬉しい春の渡りに違いない。 
(2000/4/22)