クロジ


 今日、九州・四国地方が梅雨入りしたとテレビのニュースで報じていた。関西でももうすぐ雨の季節がやってくる。この季節、山は深い霧に覆われる。

 霧の森が案外好きだ。身体の芯まで染み込んでくるような白い霧。ブナの大木、緑の若葉が空気に溶けて、空も地面も木も草も、その輪郭を失う。足下以外はぼんやりとしか見えない白い世界。小鳥の囀りだけが、自分以外の他の生き物の存在を教えてくれる。「フィーチョイチョイフィー」透明感のある囀りが響く。クロジだ。どんなに目を凝らしてもその姿は見えない。

 森は小鳥たちに優しい。梅雨の季節、木々は大きく葉を広げ、雨やどりできる庇を提供する。よく茂った葉の中で、小鳥の姿は殆ど見えない。囀りも反響して、どこから聞こえるのか特定するのは困難だ。そんな天然の隠れ家で、あどけない雛たちはすくすく育っているのだろう。その姿を想像するのは楽しいものだ。

 一瞬切れた霧の隙間からクロジの姿が見えた。「フィーチョイチョイフィー、フィーチョイチョイフィー・・・」自慢の喉を披露して、クロジは霧の向こうに消えていった。
(2000/6/3)