コゲラ


 体長15センチの小さなコゲラ、北は北海道から南は沖縄まで日本全国に生息し、キツツキの仲間では最も隆盛を誇る。市街地の公園でもよく姿を見かけるので、バードウオッチャーならずともご存知の方は多いに違いない。「ギ〜」という壊れた扉のような声で鳴く。たまに「キーッキッキッキッ!」と鋭い声で鳴くこともある。小さな身体でチョコチョコ木を登り、コツコツ枝をつつく姿は愛らしい。

 春先、山道をぶらぶら歩いていると、道ばたの枯れ木から不意にコゲラが飛び出してきたことがあった。見ると、ほんの手の届きそうな所に真円の穴ぼこ。地面には木屑が散乱している。ちょっと離れて双眼鏡でその木を見ていると、「ギ〜」と鳴きながらコゲラが帰ってきた。穴ぼこに入り、しばらくすると顔をのぞかせ木屑を撒き散らす。巣穴堀りの真っ最中らしい。コゲラは枯れ木にしか巣穴を掘らないそうだ。林道沿いは風がよく通るためか、立ち枯れした木があちこちに見られる。そんな中から日当たりや風向き、傾斜角まで、ありとあらゆる観点から気に入った枯れ木を選び、彼は巣穴堀りを始めたのだろう。ただ、週末の人混みまで彼が計算したかどうかは疑問だ。ザックを背負ったハイカーがひっきりなしにコゲラ家の前を通り過ぎる。その度、彼は慌てたように巣穴を飛び出して、林の奥に姿を隠す。これでは建築工事もなかなか進まないに違いない。
 数週間後、同じ場所を訪ねてみると、案の定巣穴はもぬけの空。グロテスクなアシダカグモが穴の入り口で不気味な瞳を光らせていた。「うーむ、やはり駄目だったか・・・」日本で最大の勢力を誇るコゲラでも、住宅事情は厳しいらしい。「おまえは得したな!」アシダカグモがニヤリと笑った。
(2000/4/16)