カイツブリ


 子育ての季節、親鳥たちはとても敏感になっている。人家の軒先に巣を造るツバメでさえ、そばでじっと見ていると親鳥たちが落ち着かない様子でいることに気がつくだろう。そのくらい親鳥は雛のことを、自分のことを心配しながら暮らしている。
 数年前、大阪の万博公園にカイツブリの子育てを見に行った。人通りの多い園内のハス池で営巣しているカイツブリは、人慣れしてまったく物怖じしない。その姿を求め、カメラマンが大勢集まっていた。カメラマンはハス池に架かる橋の上にずらり陣取っている。その数約20台。僕もその列に加わった。親鳥は、親指ほどの大きさの雛に餌をやったり、背中に乗せて泳いでみたり。その愛らしい姿にカメラマンは大喜びだった。そのうち、どうしたことか親鳥の表情が少し曇ってきた。どうもカメラに恐れをなし、橋の下をくぐって反対側に行くことができないでいるようだ。雛も日射を受けすぎたのか、少々疲れた顔をしている。「まずいな・・・」そう思ったとき、後ろから声がかかった。「さあ、カメラ動かして、通してやろうや!」箕面のMさんだった。掛け声と共に、カメラマンはさっと橋から離れた。カイツブリ親子は急いで橋をくぐり、池の反対側に泳いでいった。
 人など何とも思っていないように思える鳥でさえ、子育て中はとても敏感になっている。その表情を読み、撮りたい気持ちを抑えることができないようでは、鳥を撮る資格はない。鳥に対する思いやりを欠きそうになったとき、Mさんのあの掛け声を今も思い出す。Mさんの一言に救われたのはただカイツブリ親子だけではなかった。  
(1999/5/30)