ジョウビタキ


 朝、窓を開けると、冷たい空気と共に「ヒッヒッ」という鳥の鳴き声が飛び込んでくる。今年もジョウビタキがやって来た。
 体長14センチ、日本で冬を過ごすために大陸から海を渡ってやって来る冬鳥。嬉しいのはこの小鳥が里に暮らす鳥だということだ。市街地から低山まで、人のすぐ側で暮らしている。秋風が吹く頃、この鳥の渡来を心待ちにしているのは、きっと僕だけではないだろう。

 高校生の頃、モノクロ写真に凝った時期があった。マニュアルのカメラを肩に川沿いの道をブラブラ歩いていると、まるで自分がいっぱしの写真家にでもなったかのようだった。パシッ、パシッと冬枯れの風景を撮っていると一羽の小鳥がすぐ近くの枝に止まった。直立した姿勢で尾をプルプル震わせている。「うわ、鳥!」鳥の名前など何にも知らない頃のことだ。150ミリのレンズを向けると小鳥は不思議そうな顔でこちらを見た。パシッ。一枚撮った。急いでフイルムを巻き上げる。パシッ、パシッ。数枚シャッターを切ると小鳥はふいに飛び去った。
 翌日の放課後、物置を改造した学校の暗室でフイルムを現像した。酢酸の臭いが立ちこめる中、早速昨日の小鳥を探しだしてプリントする。暗く赤い光の下、現像液の中の印画紙に、背中に白い紋を二つつけた小鳥の姿が浮かび上がった。小鳥は真っ白な空をバックにして、こちらを見ていた。少しピンぼけだったが、初めて野鳥が撮れたことが嬉しくて、その写真を早速友達に見せびらかしてやった。

 ジョウビタキとの小さな出会いをきっかけに、鳥好きになった人は沢山いるに違いない。この秋、できるだけ大勢の人に、できるだけ身近な場所で、ジョウビタキと出会って欲しいと思う。  
(1999/10/31)