ヒドリガモ


 バードウオッチングを始めた学生の頃、兵庫県伊丹市の昆陽池によく通った。大阪府池田市のボロアパートから原付で約20分。車のびゅんびゅん走る国道を、寒風の中、鼻をずるずるいわせながら通った。
 昆陽池にはカモが沢山いた。餌付けされているので足下まで寄ってくる。したがって、新品の双眼鏡はあまり出番がなかった。カモたちは10月初めに渡ってきた。オナガガモ、ヒドリガモ、マガモ、コガモ、ハシビロガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ・・・いろんな種類のカモがやって来る。11月に入ると、水面はカモたちでいっぱいになった。渡ってきた当初、地味な羽だった雄ガモは、あっという間に鮮やかな装いに衣替えした。最初、よく分からなかったカモの種類も、雄の羽が変わっていくにつれて覚えることができた。カモたちの日々の変化を眺めていると、飽きることがなかった。
 カモたちを見ていて一番驚いたことは、その鳴き声だった。アヒルのように「ガーガー」とか、「グワグワ」とか鳴くものだと思いこんでいたら、ヒドリガモが「ピユー」と鳴いたのにはびっくりした。口笛のように「ピユー」と鳴く。鳴いているのは雄ガモのようで、負けてはならじとこちらも口笛で「ピュー」とやるのだが、寒くて唇が乾いているから、思うような音にならない。「シュー、シュー」と蛇が這うような音しか出ない。雄ガモはそんな僕の努力を知ってか知らずしてか、元気な声で「ピユー」と鳴いては雌ガモのお尻ばかり追い回しているのだった。 
(1999/10/17)