ハヤブサ

 天気がパッとしないので、鳥見に行くのを止め、年賀状を印刷しながら録画していたビデオを見つつ、一日を過ごした。先週日曜日の「神々の詩」はソウルの都心で子育てするハヤブサの仲間・チョウゲンボウの話だった。高層ビルの看板の裏や、マンションのベランダの植木鉢など、およそ住み心地が良いとは思えない場所で子育てするチョウゲンボウたちを、カメラは追っていた。まったく野生はたくましい。

 大阪の中之島に勤務していた頃、執務室は12階建てビルの8階西側にあった。夕刻は西日がまぶしいので、窓にブラインドを下ろしていたが、午前中は大きな窓から順光に照らされた隣のビルが良く見えた。
 冬のある日、朝からワープロを叩き続けて疲れたので、ちょっと伸びをし、窓の外に目をやった。隣のビルでは相変わらず忙しそうによその会社の人が働いている。あちらからは、こちらもきっとそう見えるのだろうな、などと思っていると鳥影が横切った。一瞬息を飲む。「ハヤブサ!」思わず声をあげた。ハヤブサは隣のビルの屋上をあっという間に通り過ぎ、都会の冬空を一直線に駆けていった。「中田君、何や?」急に立ち上がった僕に上司が問いかけた。同僚もじっと僕を見ている。「いや、あの、ハヤブサという鳥がその・・・」「ふーん・・・」誰も感心がない。仕方なく席に座り、再びワープロを叩き始めた。
 その後冬の間、執務室の窓から時折ハヤブサの姿を見かけた。ある時はドバトを追いかけ、ある時は2羽のハヤブサが連れ添って飛んでいた。

 今頃、あのハヤブサたちはどうしているだろう。大阪の冬空を今年も元気に駆け回っているだろうか。春が来る頃、ソウルのチョウゲンボウのように市街地で子育てする姿を想像すると、ちょっと楽しくなる。 
(1999/12/5)