アトリ
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| 世界最北限のサル生息地として有名な脇野沢村は、下北半島の西南端に位置する。青森からだと高速艇に乗れば片道50分。こちらに越してきて以来、いつかは訪ねたいと思っていたこの場所に、年明けから通い始めた。目的は北限のサルとカモシカ。なぜ彼らがこんな北の地で暮らしているのか、その理由までは分からなくても、同じ土地の空気を嗅ぎ、何かを感じてみたい。そんな思いを抱き続けていた。 初めて訪れた脇野沢は、思いの外穏やかな気候だった。対岸の青森は黒い雪雲に包まれているのに、ここは小雪がちらつく程度。そういえば雪の量は吹き溜まりでもせいぜい30センチ程度と、青森の半分もない。 海岸沿いの小高い丘を歩く。サラサラした軽い雪とはいえ、足をとられながら坂道を20分も登ると、背中に汗がにじんでくる。「キュン、キュン、キュン・・・」聞き覚えのある声が空から降ってきた。雪の照り返しで小鳥たちの姿が曇り空に浮かび上がる。「アトリや」40羽ほどの群れが冬枯れの梢に止まった。年によって数は違うが、冬になれば日本全国に渡来する小鳥。関西でも楓やカラスザンショウをついばむ姿を冬の里山でよく見かけた。その小鳥たちがこの本州の最果てでも元気に暮らしている。馴染みの鳥との出会いに、何だかほっとする。 丘の頂上までたどり着き、息を整える。眼下に海が静かに広がっていた。まだ新しいカモシカの足跡を辿って、林の中へ入っていく。途中で草が折れている。ここでカモシカが食んだのだろう。丸くへこんだ雪のくぼみは座って休んだ跡に違いない。カモシカの行動をひとつひとつ想像しながら歩く。一歩一歩辿って行くと、足跡は急な斜面を下っていた。仕方なくあきらめ、来た道を引き返す。 「キュン、キュン、キュン、キュン」アトリが再び頭上を通り過ぎた。口をポカンと開けて見上げる。そのとき、前方の林の中に何かの視線を感じた。「あ・・・」カモシカがまっすぐこちらを見つめていた。彼は鼻で何かを嗅ぐような仕草をすると、物憂げに雪を掻き分け歩き始めた。「あ、ちょっと待って!」カモシカは脇目もふらず遠ざかってゆく。こちらも一所懸命急いでいるつもりなのに、追いつくことができない。後姿はユサユサと林の中に消えていった。「あー、行ってしまった・・・」じっくり見ることができなかったのは残念だが、仕方ない。それよりも、何か新しいドラマが始まったような気がして、気分は高揚していた。「キュン、キュン、キュン、キュン・・・」仰ぎ見ればアトリの群れが一段と数を増し、風のように梢の上を通り過ぎていった。 |
| (2001/1/14) |