アカゲラ


 針葉樹林帯の未舗装路を車でガタゴト走る。11年目になるポンコツ車は、風邪をひいた身体のように節々が痛むらしく、あちこちからミシミシと変な音を立てていた。乾いた林道は埃っぽく、開いた窓から砂埃が入ってきて、ダッシュボードはうっすら白くなってしまった。
 「ホー、ホケキョ」モミの木のてっぺんにウグイスが止まっていた。「ホーホケキョ!」喉を膨らませ、高らかに囀る。林道から見ると、木のてっぺんが丁度目の高さくらいで、撮影にはもってこいだ。カメラを用意してレンズを向ける。「ホー」カシャ、「ホケキョ」カシャカシャカシャ。木の梢は風に揺れ、鳥もなかなか良いポーズをしてくれない。とにかく沢山シャッターを押す。一枚くらいは写って欲しい。
 と、その時、近くの枯れ木で鳥影が動いた。横目で見ると、枯れ木をキツツキが登っている。慌ててカメラを向けた。ファインダーに捉えた鳥はアカゲラだった。なんともキツツキらしいキツツキだ。日本人の90パーセントくらいが、キツツキと聞いて心に思い浮かべる姿、それはアカゲラだろう。赤と白と黒のコントラストが緑に映える。何度見ても嬉しい鳥だ。
 シャッターを切ろうとした瞬間、もう一羽アカゲラが飛んできた。身体をスーッと細くして、臨戦態勢だ。最初の一羽を威嚇している。最初の一羽は「ありゃ、見つかってしまった・・・」とどうにもばつの悪そうな顔。どうやら、最初のやつは後から来たやつの縄張りに侵入したらしい。カシャ。何とか一枚シャッターを切った。さあ、これからどうなるんだろう?枯れ木のリングでの小さな格闘技。カメラを握る手に力が入る。
 勝負は一瞬だった。後から来たアカゲラが最初のアカゲラの止まっている木に飛び移った瞬間、最初のやつは何のためらいも無く飛んで逃げてしまった。「うーん・・・」何とも拍子抜けの闘い。勝者は勝者で餌も採らずに枯れ木から飛び去った。
 何となく消化不良だった僕は、第二ラウンドのゴングが鳴るのをじっと待ち続けたが、結局二度とアカゲラが来ることはなく、ポンコツをゴトゴト走らせて帰路についたのだった。    
(2000/6/25)