コンピュータ関連の翻訳で遭遇する訳しにくい用語の数々

 長年翻訳をやっていると、苦手な単語というものに遭遇する。いわんとしていることはだいたいわかる、辞書にもいくつか訳語が載っている、以前にも何回もお目にかかったことがある、しかしどうもうまい日本語訳が思い浮かばないといったたぐいの単語である。私にとって、provide、implement、interact、proprietary、point to、transparent、legacy、runなどがこうした言葉にあたる(すべてコンピュータ関連の文脈で使われる場合を想定)。

 「英語の単語とその日本語訳は一対一対応の関係にない」いうのが私の基本的な立場だ。「定訳」という言葉がある。「業界で定まった訳語はそのまま採用すべき」というのがこの言葉の意味するところであろう。確かにそのとおりなのだが、これも一律には適用できない。たとえば"application"の定訳はおそらく「アプリケーション」だろう(新聞などによっては「応用ソフト」とされることもあるようだが)。しかし、コンピュータの書籍の中でも、これが(ソフトウェアではなく)普通名詞として使われることが少なくない。この場合にはもちろん、「アプリケーション」ではなく、「用途」ないし「応用」と訳したほうが適切だ。ことほどさように、すべてはコンテクストの中で決まり、「この語にはこの訳」と決めてかかるのは危険である。ではひとつひとつ見ていこう。

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