074「シリーズ武蔵の好敵手B超能力剣士」



松山大吉(?―1635)


源丞、主水。二階堂流平法の道統者。美濃の国人松山氏の出身。竹中半兵衛は母方の従兄弟にあたる。祖父主水の創始した二階堂流平法を継承。佐々木小次郎の没後、細川家に剣術師範として招かれたといわれるが、実際には御鉄砲頭衆として五〇〇石を給されている。高弟には細川忠利のほか、小姓頭村上吉之丞らがいた。その後、忠利の父忠興の腹心によって謀殺されたと伝わる。


◆武蔵の強さの秘密のひとつは、相手の実力を的確に見抜くという点にある。このために、立ち会う前に相手の実力を推し量り、勝てるとわかった相手に挑んでいった。なんて卑怯なと思われるかもしれないが、これは重要なことである。「男は負けるとわかっていても戦わなければならないことがある」なんてのは、甘ったるいロマンティシズムだ。

◆武蔵が相手の力を見計らい、敵わないと知って敵前逃亡した事例がある。その相手というのが、松山主水だ。

◆強いと評判の主水を、道場の外から見ていた武蔵は黙って姿を消してしまったという。しかし、このあたりは微妙だ。敵わない(あるいは五分五分)と知って勝負を避けたのか、それともはるかに格下の相手だったので、試合する気もおこらなかったのか。

◆とにかく松山主水の実力のほどが、きちんとした記録には残されていないため、よくわからないのだが、逸話だけ見れば、相当変わった剣士である。彼の流儀は、平法という。兵法ではない。これは一文字、八文字、十文字という奥義の頭の漢数字「一」「八」「十」をあわせると「平」になることから発している。

◆この奥義がどんなに凄いものかを示すエピソードがある。

◆ある日、主水が主君の細川忠利ともうひとりの弟子である村上吉之丞に対して二階堂平法の奥義のうち「一文字」と「八文字」を伝えると言った。そこで道場では人払いがされ、三人のみが残った。間もなく、道場でドシンという物音が響いたかと思うと、中から細川忠利と村上吉之丞が顔面蒼白となって転がり出てきた。・・・というほど凄いものなのだ。どこがだ(笑)。

◆さらに凄いのが「心の一方(一法とも書く)」という念動力(テレキネシス)まがいの術。病気で寝込んでいた主水が細川忠興の刺客荘林某に狙われた。さすがの主水も意識朦朧としており、相手の刃を防げなかった。しかし、瀕死の重傷を負いながらも主水は「心の一方」でもって相手を瞬時に金縛りにし、一撃で討ち倒した、という。主水はかけつけた弟子に向かって「こいつ(刺客)はわしを殺そうとした。あっ晴れあっ晴れ。大したやつだ、丁重に葬ってやれ」と感心しながら、自分も死んでしまった(笑)。したがって、彼の「心の一方」と「十文字」は誰も相伝されることはなかったという。

◆松山主水の道統を継いだのが、高弟・村上吉之丞。武蔵が逃げ出した相手というのはこの人のことだったとも言われている。白土三平の劇画にもときどき登場するが、なかなかの美剣士だ。作中で武蔵と数度からむが、いずれも勝敗は決しないものの、主水のほうに分があり、といった感じである。

◆本物はどうだったかわからないけど、二代目村上吉之丞は忠利の近習だったから、外見はよかったかもしれない。細川忠利に従って島原の乱に出陣し、討死してしまった。おそらく彼の死によって新しい剣術師範を細川家が探したところ、因縁のある武蔵に白羽がたったのではないか。島原の乱には武蔵も出陣している。(しかも石にあたって負傷)

◆皮肉なことに、その後、二階堂流を継いだ村上某も、武蔵の門弟となってしまった。二階堂流平法は、やはり超能力剣士松山主水をしてはじめて使いこなせる剣法であったのかもしれない。



*補足調査
竹中半兵衛の母方の従兄弟というのは誤りのようです。竹内半兵衛という人物を誤読したらしいです。
(X-file調査官:三楽堂)


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