米国通信戦争




米国通信法が改正された。それ以降の動きは急である。通信会社に限っても、地域持株会社のSBCによるパクテルの吸収合併、ベル・アトランティックとNYNEXの合併という大型合併が相次いでいる。すでにWeb上でも研究論文が日本語でも入手できるようであるが、そろそろ本の形で通して読んでみて全体観を確立したい。そんな気持ちでいた時に便利な一冊と出会い一気に読み通すことができた。

著者の城所岩生氏は、1986年以来ニューヨークにおいて通信関係の職務に従事し、経営学修士(MBA)、法学修士を修得したのち、現在、米国通信法専門弁護士を目指して試験準備中という方である。単なる条文解説に止まらずに、実務経験を通じて得られたパースペクティブも共有できるところが本書の魅力である。

とくに、前段において本法案に関連した各プレイヤーがどのような思惑で改正に臨み、どのような働きかけを行ったかという点が分析されている点である。筆者はこれまで通信事業者のロビー活動がどのような動因によって行われ、今回の米国通信法改正においてそれがどのように作用したのかを十分に把握しきれていなかった。

しかしながら、本書により地域通信会社のロビーイングが長距離通信会社(とくにAT&T)のロビーイングよりも強くかつ巧みであったという紹介がある。本年後半には、日本においてもNTTの経営形態議論、通信市場における脱規制化を含めた立法が、再度具体的に議論されるだろう。その際にさまざまな形で、この米国通信法の条項がモデルとして引き合いに出されるはずである。

その際に、それぞれの条項について誰のロビー活動の影響が根強いかを見る必要が出てくるだろう。往々にしてわが国では、米国の事例を引用する際、都合の良いことを取り出し、都合の悪いところを隠して「米国では・・・」とか「米国通信法では・・・」などと語られることだろう。「米国通信法」ともなれば神聖にして・・・というように引用する手合いも出てくるだろう。しかしながら、本書において指摘された文脈を把握することで、意図的な操作に対抗できると感じられるのである。

本書における意欲的な取り組みとしては、通信法改正以降のプレイヤー間の競争がどのような要素によって展開され、競争を構成する主要要素の比較分析からAT&Tが最も有利な位置にいるという展望がなされている。業際的な相互参入が可能となって以降は、ブランド力が大きな力となるとされており、また、現時点での事業者ごとの顧客満足度調査の結果が大きく影響するともしている。また、キャッシュ・ポジションが戦略上の選択の可能性を大きく左右するとの指摘もされており、今後のドラスティックな業界再編を展望するうえで興味深い。

本書のタイトルが決して大げさだとは思われない本格競争に米国をベースとする通信事業者が突入しどのような強み弱みをもっているかを概観しながら、事業領域ごとの縦割をすくなくとも向こう1年間は継続せざるを得ないわが国の情報通信業界が抱える潜在的な危機に思いを巡らせることを禁じ得なかった。


目次(大項目のみ)

はじめに
第1章 新通信法の背景
第2章 新通信法の概要
第3章 ローカル通信競争導入のパイオニアたち
第4章 第一次予選 CATV会社対電話会社
第5章 第二次予選 地域ベル対長距離通信会社
第6章 決勝リーグ 本命AT&T、対抗MCI、穴スプリントの争い
第7章 AT&Tのローカル通信参入 -- マッコー・セルラー買収
第8章 AT&T再分割 -- めざすはスーパーキャリアの道
★   わが国へのインプリケーション

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