重い一冊だ。書いて下さって本当にありがとうございました・・・と表明したくなる一冊だ。
日本をベースとする企業組織に勤めていると、それが、大企業であったりすると・・・。さまざまな価値観の尺度が、その企業組織が中心となってくる。
日本をベースとするその企業活動が日本国内にとどまる限りにおいて、それはあまり大きな問題とならない。しかしながら、いざ、その企業が外国に出ていく。その状況では価値観の尺度は、一人一人の個人が確立しなければならない。
井口さんの記録は、そのことを身を以て示し、この点が日本企業のグローバル化においてボトルネックとなるのだということを教えてくれるのである。
80年代の終り、アメリカでビジネスにおける倫理が問題とされたことがあった。インサイダー取引や大型のM&A案件と関連し、さまざまな逮捕者を出したのだ。そうそう、「ウォール街」というインサイダー取引関連の犯罪を扱った映画もあった。の関連し、ビジネス・スクールのカリキュラムのなかにも「倫理」を取り入れるべしとの議論が巻き起こり、そのような動きに至ったようにも記憶している。
組織の活性化や、いかに、イノベーションを起すか。さまざまな経営書がこのことを論じている。しかし、ちょっと待って。その前にしておかなければならないことがあるのだ。そこには前提があるのだ。
企業のマネジメントは犯罪が起りにくいような仕組みをきちんと確立し、点検し、機能し続けさせなくてはならない。これがひとつ。
そして、その企業組織に関わる個人の在り方だ。上司が違法行為を命令した時に、従うか否か。その答を自信をもって否とできるだけの覚悟と、その覚悟を支えるだけの準備が必要なのだ。
多くの日系企業はその活動をグローバル化する。その際、国内における組織と人との関係は通用しなくなるのだ。たとえ、違法行為であったとしても企業組織の命令に従ったのであれば社会的制裁が情状酌量される。極端に言えば、これが今までの日本の、それも規制と保護の厚い「内弁慶産業」の「内弁慶会社」のムードだろう。
しかし、そのままではグローバル・スタンダードではもたないということだ。本書で著者は身をもってそのことを示している。そして、このような企業に勤める個人も、「寄らば大樹の陰」だと思っていたら、大樹に落雷→大感電・・・といった間抜けなことにならないような備えが必要なのだということだ。
安い料金で、日頃から相談でき、いざとなったら動いてくれる弁護士がとりあえず必要だ。そして違法行為を命じる上司には弁護士を差し向ける・・・くらいの覚悟で勤める・・・ところからはじめてみようと思う。
このように書いてしまうと、あまりにも軽薄か。いずれにせよ、さしあたり日本企業を通じてしか生活の糧の稼ぎようもない中川は、これから何度か悩んでは原則を確認するために何度もこの本に戻ってくることだろう。
970216 中川一郎