ぼくも36才になってしまった。同じ企業に13年勤めている。最近、「ぼくの価値は何なのだろう。」と問い、不安に思うことが多くなった。「唄では生活できない・・・。宝くじを買っても当たらない。」という現実がある一方、「ぼくは・・・・のプロだ!」と声高に主張できるほどの何物かを自分が持っているか。勤務先の仕事の関連でそういうもんがあるか・・・・。と問いを発する時、はたと立ち止まることが多いのだ。
幸いなことに勤務先は、成長産業だし、注目されることは多い。また、刺激を与えてくれる若い人たちもたくさんいる。もともと人見知りと人の好き嫌いの激しいぼくのような者にも得難い友人もできた。そして、今の労働市場を考えれば・・・、アウトプットのわりにずいぶんといい待遇をしてもらっているとも思える。「あっ、ぼくは守りの姿勢に入っているんじゃないかな。かつて、嫌悪した30代、40代のてにをはマネジャーさんたちと同じ様な感じになっているのかな。」と思う時も多い。マズイ・・。
企業組織が大きくなると、ある機能に特化せざるを得なくなる。規模が大きければある機能を果たすのに処理量が膨大になるからその機能を深掘りせざるを得なくなる。企業経営の全般を見渡すことが難しくなる。ミドル・マネジャーはそれぞれの機能や事業領域のヒト・モノ・カネの右肩上がりの成長を維持するための利益代表としてふるまうようになる。マーケット、顧客と接触する人の数が相対的に小さくならざるを得ない。
しょうがない。そう、しょうがない。しかし、しょうがないままでその大組織のなかでその秩序を、その待遇をあたりまえだと思ったときに、スポイルされてしまい、組織にすがり、自分が空洞化する。これもマズイ。実にマズイ。労働市場における自分自身の価値の低下がはじまる。これから確実に出費はかさむのに・・。
そんな気分の時に出会った一冊だった。
この本は、大前研一さんがはじめた起業家養成講座から生まれたアウトプットだ。第1部理論編は、大前さんをはじめ、ベンチャーで成功をされた実際の経営者たち、そして、大前さんのマッキンゼー時代の同僚であり、現在、さまざまな分野で独立して活躍される人たちの講義内容である。このなかには、大組織に勤めることを自明とし、「うちの会社は大丈夫だろう」と思っているぼくのような人が陥りがちなさまざまな頭脳をさぼらせる怠惰さに対する戒めと代替案にあふれている。
第二部・実践編。これはアタッカーズ・スクールにおける起業シミュレーションだ。スクールへの協力各社に対し、実際にスクール生たちがグループを作って提案した事業計画書、そして、協力企業からの講評にわかれている。さまざまな事業が提案され、その思考プロセスがわかるし、また、そのグループによる思考をもとにそれを事業計画書としてまとめている。さまざまな事例がある。自分で何かの事業をはじめる時に、これらの事業計画書は参考になる。自分たちが「よし、これをやろう」。ぜひ、これを事業として進めよう・・という魂のこもった事業計画書だ。
「飯より好きな分野を発見する」(p37:大前さん)これが大事なのだ。・・・まずはここなんだなあと思う。このホームページをはじめたり、唄を作って歌ったり、ネットでさまざまなコミュニケーションをしたり・・。雑文を書いたり、レビューまがいをしたり、書評もどきをしたり・・・。ぼくの好きなことはこのあたりなのだけれども・・・。そして、人と人とがさまざまに出会い、そこから何かを始める場を作ったり・・・。そんなことが好きなのだ。このあたり、この周辺にぼくにもはじめられそうな何かがありそうだ。
時々、この本に立ち戻ったり、【アタッカーズ・ビジネススクール】のホームページを覗いて見よう。いつか、このスクールに出かけよう・・・。そんなことを思った一冊であった。
執筆:970222 中川一郎