このコンテントをディジタルでほしいと表明する潜在的消費者の購買意思表明運動の可能性---たとえば岡林信康の73年12月31日のライブ盤をCDで・・・とか。

レコードからCD。この流れの中で、やはり良かった。とオーディエンスとして思えることは多いと思います。「ジャックスの世界」というアルバム。アナログ盤は10年以上も廃盤になっていたけれど、CD化されて、今どきの若い人たちはずいぶんとこの素晴しい音源と出会いやすくなったことだろうと思うのです。

ディジタル化して、ネットでアクセスできるような形でアーカイブ化されますと、「ある」「ない」という読者の努力の範囲を超える、あるいはリスナーに超人的探索努力や驚異的な購買力を強いるという既存メディアの問題から、「たどり着く」「たどり着かない」という潜在的読者の「それなりの努力」の範疇の問題に置き換えられるわけであります。

そろそろ、そういうことを呼びかけてみようか・・などと思っております。ディジタル化して、ネットでのダウンロードを可能にしたいもの。それは、やはり、そうでもしないとこれまで絶版になってしまったもの、廃盤になってしまったもの。でありまして、そういうもののリストでもつくり、「ディジタル化されたら、ネットでダウンロードできるようになったら、いくらまで出します」みたいなことを表明したりして、真剣にそういうことを考えている人が一覧できるようになったら、著作権、隣接権をもっている人たちのマーケティング材料にもなるわけであり、コンテントの世界に受注生産方式を持ち込むことになるんじゃないかな。などと思っております。

もしかしたら、そういう新しい形の、「ほしいものを買いたいと表明する」消費者運動とかもすでにネット上で展開されているかもしれませんけれどね。

たとえば、中川の場合、「この一枚を」と問われたら、「この一枚ですよ!」というものがあります。

----- 岡林信康 1973年12月31日 (千秋楽?) CBS SONY --- うろ覚えなんですけれど・・

レコードになっていた時に買わずに、CD化がはじまった時に、「いつかは、いつかは」と思い続けて、何度も音楽ショップに通っては、そのたびに「ああ、まだない・・」とうなだれる。そんなことをもう15年くらい続けているアルバムがあるのです。正確なタイトルは忘れてしまったのですが、たしか、1973年12月31日の岡林信康さんのライブ。「千秋楽」と銘打たれていたかもしれません。これがCBSSONYから二枚組みで出ていたはずなのです。

はじめて、意識して、ラジオ番組を聞きはじめた頃、確か杉田二郎さんが「ぜひ、この大晦日。岡林を観に行ってください。」と言っておられたのを思い出します。また、このライブのことは、私がはじめて買った自由音楽社から出ていた岡林信康特集(74年くらいに出された号だと思うのですが・・)に詳細なレビューが載っていたように記憶しています。そのライブ・レビューに、松本隆さんプロデュースの「金色のライオン」が出た後のライブで、「金色のライオン」からの曲と、そして、「俺らいちぬけた」からの曲が中心であり、最後は、バックバンドのメンバーが呆然とするなか、岡林さんが、弾き語りで「アイ・シャル・ビー・リリースト」を歌っていたと書かれていたことを鮮明に覚えているのです。

はっぴいえんどを聴き続けて、もう、25年くらいになり、松本隆さんのドラムと、細野晴臣さんのベースという組み合わせの音源は、とにかく、全部、いつでも聴けるようにしていたい。そんなはかない願いを抱いているのですけれど、実はこのライブ。バックバンドが、ギター:伊藤銀次、キーボード:矢野誠、ベース:細野晴臣、ドラムス:松本隆というメンバーであったはずなのです。レビューにそう書かれていたと記憶しています。「金色のライオン」では、確か後藤次利さんがベースなのですが、このライブの時には細野晴臣さんであったはずなのです。

「ああ、あの時レコードを買っておけばよかった」。そんな思いが何度も募りながら、その後、CD化されて、救われたという気がする日本のロックを語る上で欠かせない音源は、「村八分」とか、「ジャックスの世界」とか。それはいろいろとあります。せいせいとした気持ちで世紀を越すためには、この松本隆、細野晴臣、岡林信康というその後、決して一同に会することのなかった人たちの、「ああ、確かに人生に一期一会ってあるよね」といえるような、それも、それぞれが有る種のわだかまりを超えたところで、もう一度、ステージで出会え直せた・・とも言える、この一枚。ぜひ、その貴重な音源を次世紀に伝えたいし、伝えてほしい。

さまざまな音源のCD化がはじまって15年くらいになりますけれど、ずっと、そんな思いなのであります。

この雑文は、野田誠司さんが発行しておられる「クラシック・ロック・レビュー」における「この一枚をCD化せんかい!」という原稿募集に応じて執筆し、投稿したものを手直ししたものです。「クラシック・ロック・レビュー」の66号に所収していただきました。おかげで、反響もありました。「クラシック・ロック・レビュー」のホームページのURLはhttp://www3.famille.ne.jp/~lacroixj/musique/です。このようなきっかけをくださった野田さんに感謝します。

99年10月14日 中川一郎




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