クリステンセン「イノベーターのジレンマ」(Christensen)

>Christensen, Clayton, "The Innovator's Dilemma", (HBS)との出会い

ここのところ、自分の勤務先の業界を突き動かすことが何なのか。今後、どのような変化があるのか。何をすべきで、何をすべきでないのか。そのヒントを求めるべく、ジョージ・ギルダー執筆のGilder Technology Reportを読んでいる。最近、ギルダー・テクノロジー・レポートにおいて、ハーバード大学ビジネス・スクールのクリステンセン教授の理論枠組みが使われることが多くなっている。

「突破的イノベーション」(disruptive innovation)、「Technology Overshoot」等々の概念装置が用いられて、通信産業における技術の持つ意味合いが解説されているのである。

これはと思い、アマゾン・ドット・コムで注文し、ぼくが手にしたのは連休明けであった。かつて、エクセレントと賞賛されていた会社がその数年後に赤字に転落して、挙句の果てには消滅してしまう。往々にして、メディアにおいてはマネジメントの堕落が原因という解説をされる。しかし、しっくりと来ない。かつて経営の専門家の目から見て、「エクセレント」とされてきた経営陣が2〜3年のうちにいきなり堕落してしまうものだろうか。Gilder Technology Group主催のテレコズム・コンファレンスにおいて、クリステンセン教授はその動機を表明している。

これは、ぼくが持っていた疑問でもあった。そして、これまでの経営アカデミズムもジャーナリズムも「盛者必衰の断わり」という視座以上のことは示してこなかったような気もする。「堕落しないように気をつけよう」という言っても、言わなくても変わらない、その程度の無価値なことしか伝わってこなかった。

クリステンセン教授は、ハーバード流の徹底した実証手法によってこのメカニズムを明かにする。企業経営に携わる多くの人たちにとって、このパースペクティブは役立つのだろうと思う。

以下、読みながらとったメモである。何らかのご参考となれば幸である。


クリステンセン教授の出発点
  そして、その失敗の原因は、この優れた経営そのものにある。
  - 顧客の声に謙虚に耳を傾け
  - 顧客の求める、より優れたプロダクトをより多く提供し
  - 市場トレンドを注意深く研究し
  - 最大のリターンをもたらすイノベーションにシステマティックに投資する
  これらの優れた経営それ自体が、Excellent Companiesを失敗に導いた。

Christensen, Clayton, "The Innovator's Dilemma",  p xii
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テクノロジーの定義
  組織が、ヒト、モノ、カネ、情報を、より価値の高い製品やサービスに変容させ
る過程

  このテクノロジーは、エンジニアリングや製造に限定されず、マーケティング、
投資、マネジメントの過程などの広範な範囲に及ぶ。

  これらのテクノロジーの要素のひとつが変容することを、イノベーションと呼ぶ。

Christensen, Clayton, "The Innovator's Dilemma" , p xiii
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Sustaining TechnologyとDisruptive Technology

Sustaining Technology
    - 主要市場の主流の顧客が歴史的に価値をおいている既存製品の性能の向上をも
たらす
 - Excellent Comapnyが、このSustaining Technologyのイノベーションの導入に失
敗し、それが、失敗の原因となったことはなかった。

Disruptive Innovation -- Disruptive Technology
 - 短期的には、製品の性能は低い
 - しかしながら、Excellent CompaniesはこのDisruptive Technologyの導入に失
敗し、それが、失敗の原因となった。

Disruptive Technologyは、
 - 従前に市場に存在しなかった価値をもたらす。
 - 主流の市場の既存製品よりも性能は低い。
 - しかし、少数の周辺的(一般には新しい)顧客は価値を見い出す。
 - 製品は、安く、より単純であり、より小さく、より使い勝手が良い

  例:オートバイ産業におけるHonda, Yamaha, Kawasaki vs Harledy-Davidson, BMW
            将来的には、インターネット家電 vs PCソフト、ハード

  Innovator's Dilemmaにおける実証
    - HDD
            -   掘削機械

Disruptive Technology vs. 企業における合理的意思決定
 主流企業、Excellentとされている企業が合理的意思決定を行うとdisruptive tech
nologyは採用されない。
 1)製品がよりシンプルであり安い:マージンが低く利幅が小さい
 2)disruptive technologyは最初にemerging marketか重要性のない市場で商品
化される。
 3)主流企業に最大の利益をもたらす顧客は、初期段階において、disruptive tec
hnologyにもとづく製品を欲しないし、初期においては要求仕様が満たされないため
、使いようがない。

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チャート

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Disruptive Technologyによって引き起こされる変革のプロセス

step1  最初、主流企業においてdisruptive technologyは開発される。
step2    マーケティング部門が主要顧客の反応を探る。
                  --  顧客の仕様を満たす段階にない
      -- disruptive technologyがテイクオフするために必要な資源投入と
いう意思決定が主力企業ではなされない。
step3   主流企業ではSustaining Technologyの開発により既存主力顧客の要望に応
え続けようとする。
step4   新たな企業が設立され、Disruptive technologyを用いた市場が試行錯誤を
経て、発見される。
step5   新規参入企業は、徐々に主力顧客にも食い込む
step6   (旧)主流企業は主力顧客ベースを防衛するために遅ればせながらdisrupti
ve technologyを使った製品/サービスを投入するが・・・手遅れになる。

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主力企業がDisruptive Technologyを活用することができた事例

1. 主力企業がしたがわなければならない原則
1)資源の依存性:順調な企業の資源配分は顧客が効果的にコントロールしている。
2)小さな市場は、大企業の成長を満たせない。
3)disruptive technologiesの究極の市場は、予めわかるものではない。失敗は成
功に向けた必要なステップと認識しなければならない。
4)テクノロジーがもたらすものが需要と一致するとは限らない。既存市場において
disruptive technologiesを魅力的になしえない特徴(欠点)が、新たな市場におい
ては大きな価値をもたらすこともある。

2.成功した企業がしたこと
1)disruptive technologiesを必要とする顧客を有する組織に、disruptive techno
logiesの開発と商品化を担うプロジェクトを設置する。マネジャーがdisruptive tec
hnologiesを「適切な」顧客とマッチさせることができれば、その顧客の需要がdisru
ptive innovationを発展させるためのリソースをもたらす。
2)disruptive technologiesのプロジェクトを小さい組織に埋め込み、小さい事業
機会、小さい成功にも喜びを見い出しうるようにした。
3)disruptive technologiesに適する市場を特定するにあたっては、できるだけ早
期にかつ大きな損失をもたらさずに失敗できるように計画した。市場は、試行、学習
、さらなる試行というインタラクティブなプロセスを通じて形成されるものであるこ
とを発見した。
4)disruptive technologiesの商用化にあたっては、disruptiveな製品の特徴に価
値を見い出す市場を発見するか開拓するかした。主流市場で新たなsustaining techn
ologyとして競争しうるようなブレークスルーを探索しようとはしなかった。
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通信産業におけるdisruptive technology  -- VOIP, Internet VPN, IP over DWDM

通信産業の新サービスが顧客となるさまざまな業界にとってのDisruptive Technolog
iesの主要構成要素ともなる。

99.06.11 中川一郎記す




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