WAX Recordsの第二期。徳間ジャパンから80年代の音源を地引雄一さんの監修で再度世に問う。そういうプロジェクトである。その中の一枚にルナパーク・アンサンブルの「虫喰いマンダラ」というコンピレーション・アルバムが世に出ることとなったのだ。ぼくにとって、「虫喰いマンダラ」は、もう擦りへっていくばかりのだんだんと去り行く音となりつつあって、記憶のどこかにだけ残ってある時ふと思い出されるかいなか・・という存在であっただけに、この時機に音源がディジタル化されて世の中に残るのは、実にありがたいことである。
ぼくがルナパーク・アンサンブルを見たのは、87年あたりのクロコダイルでのことであった。絶対零度でマネジャーを務めてくれて、そして、82年5月あたりの絶対零度の最後の瞬間に立ち合ってくれた林原聡太氏とあった時、「おもちゃ箱をひっくり返したような音楽」と形容していたので一度是非聴いてみたいと思っていたのだった。
そのライブで、ルナパーク・アンサンブルはメインだった。新たなクロコダイルで、彼等は、清水ミチコさんが前座をつとめておられ、「この芸はすごい」と思ったのだ。その後、清水ミチコさんは大いに発展された。そして、その時、「上品なバンド」と形容され、そして登場したのがルナパークであった。
その時の印象では、ライブの限界みたいなことを木村真哉氏や大熊亘氏が感じているのではないか・・ということが伝わった程度の、ぎこちない感じの印象しか持ちえなかった。
「虫喰いマンダラ」のミニLPを聴いて、どうも、木村氏や大熊氏の目指すところは、歌ではなくて、むしろ「音」なのではないかと感じた。音の存在感が強く感じられる「恋の中毒」「葡萄の蔓」「ワルツ」は気に入って、購入当時、何度も聴いたものである。特に「ワルツ」は万華鏡というか絢爛豪華な遊園地の、けれど、最新の電子制御とは無縁の機械式のメリーゴーランドという感じがしていた。このCDの中の「虫喰いマンダラ」の音源からはやはり同じ印象を受けた。
大熊氏は「Cicala Mvta」として、そして、木村氏は「Reliable Fiction」(へぼ詩人の蜂蜜酒」として、上記3曲でイメージしていたであろう音の世界(universe)を壮大なスケールと繊細さで完成させたんだなあ・・などと聴く者として思ったのだ。
新鮮なロックとしての魅力が、「虫喰いマンダラ」以前の(木村氏参加以前)のルナパーク・アンサンブルの音源からは感じられる。ひとつひとつの声なり、音なりが、その奥に広がる世界へと心を旅立たせてくれる。そんな感じがする。リバーブのかかったギターと歌が特にそうなのだ。
小山哲人氏のライナー・ノーツと大熊亘氏の解説がその背景や思いを十分に語ってくれているので、音源を彩るテキストとしてこれだけのものはないという位、きちんとしていると思う。
ともあれ、このような形でディジタル音源化されたことで、この音源に出会ってinspireされるべき人に伝わる可能性が相当大きく担保されたわけであり、良かったと思う。
99.01.03 中川一郎@サイバー梁山泊 mailto:nakagawa@aa.uno.ne.jp