稲盛和夫「稲盛和夫の実学 経営と会計」



読み進めながら、ある感覚が蘇ってきた。真の経営者のマインドに触れたようなあの感覚。それは、真藤恒元電電公社総裁の「電電ざっくばらん」を読んだ時のあの感覚である。それは、大前研一氏の「企業参謀」を読んだ時のあの感覚である。

それは、工学部出の人が実際に事業に関わり、顧客と関わり、現場を知り、「どうすればいいか」と真剣に考え抜いた末に試行錯誤をする。その探究心が経営というより大きなシステムに向けられた時の「ホンモノさ」なのだと思う。経営に向けられる時、それは人の営み、モノの流れ、そして、そのお金の流れに対する意味合いの探究であり、それがわかるのが経理であり、会計であり、だから重要。という、そもそも、なぜ、経理であり会計なのかということを説き明かす。そこからはじまっているように感じるのである。

工学部出の人が方法論として確立しているらしい、「本質」へのアプローチ、「本質」を極めたと確信できた時の信念をもった改革行動。それである。 それは、日本の工学部出の人たちの質の高さを示していると思う。モノ作り。戦後の日本の経済の発展を支えてきた、イノベーションを支えてきたのはこういう人たちであり、平成に入ってから忘れかけられていた大切なことであり、そして、ソフトとか、システムとか、ハードではないことが中心になったとしても、基本のアプローチとして応用できることなのではないだろうか。

日本の金融業界とかの弱さ。それは、工学部出の人が経営陣にいないことなのではないかと思う。それは、金融業界の監督官庁にも工学部出の経営者がいないので、本質的でないところでものごとを決めてしまっているあたりに原因があるのではないか。これは、偏見だろうか?

ビジネスに関わるようになってから、幾冊か、おりにふれて仕事を進めるうえで必要であると思われる智恵を与えてくれる実務者による著作に出会うことがあったが、これもその一冊であり、おりにふれて、ふりかえることになるのだろう。勤務先のオフィスの机に忍ばせ続け、「ああ、今のやり方のここを直そう」というヒントが与えられ続けるような一冊である。

981129 中川一郎 




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