標記の書籍は、街の本屋で平積みになっていたりもしますから、すでにチェック済みの方も多いことかと思いますが、書肆情報ならびに感想を。
日本語版の発売開始が、NASDAQの急落の時期と微妙に重なる時期でもあったことから、今も多くの書店で平積みになっている様子です。
著者たちは、カリフォルニアのベンチャー企業、ベンチャーキャピタルの関連雑誌として評価が高い「Red Herring」誌の編集長たちなのであります。
人脈をフルに活かし、数多くの重要人物に対してインタビューを行い、この間までのネット相場がいかにバブリーであったか、また、誰がどのように仕掛けてきたのかを明確にしております。インタビューを通じて明かに描き出しております。
私にとって、プラスになったのは、シリコンバレーのベンチャーキャピタルの歴史、有力VC、投資銀行にどのような人たちがいて、どのような実績をあげ、何が得意分野なのか。その姿勢はどうか・・ということが読みやすく整理されていたことでありまして、この書名はセンセーショナルですが、むしろ内容のほとんどは、地道な「シリコンバレーにおけるネットベンチャー企業投資の歴史とプレイヤーの相関図」とでもするべきと思われるほど充実した内容でありました。
ベンチャー企業系のバブル相場というものは、このネット株ブーム以前からあり、本書の中でも・・
1910年代アメリカには500社も自動車会社があった」
とか
PC株ブームの時にも、PCメーカーは40数社株式公開を試みたりした。が、デルや、コンパックなどが創業をはじめる前であり、ほとんどどの会社も残っていない
等々の歴史的経緯が語られておりまして、この面の認識も新たにいたしました。
この間までのネット・バブルが主にクライナー・パーキンスというベンチャー・キャピタル、とりわけ、そして、その主要人物であるジョン・ドウアーの豪腕と人的ネットワークによって支えられていたというような記述があり、こういう洞察はやはり、この分野に特化したジャーナリストならではのものと強く印象づけられました。
また、Yahoo創業者のジェリー・ヤン氏のソフトバンクから出資を仰いだことを後悔まじりに、「まったく働かなかった人たちに大もうけの機会を与えてしまって実に残念」というコメントなどもございまして、これも問い掛ける人たちが、シリコンバレーでも信頼を得た業界誌の人たちであるがゆえに引き出せる本音のコメントであると思われました。
ネット株のバブルの試算は、主にアマゾン等のブランド勝負をしているところが中心でありまして、メッセージとしては、「現在のアマゾンの株価を正当化するには、向こう5年間にわたって売上が毎年80%ずつ成長しなければならないことになる。」(だから、今の・・というか99年11月当時の相場はバブルである)という論調かと思われました。
試算方法を検証されるとすれば、
http://www.redherring.com/internetbubble
にて、考え方、前提条件、当時の株価、企業価値試算等が掲載されております。
2000.6.6 中川一郎 mailto:nakagawa@aa.uno.ne.jp