Next – The Future Just Happened

 

【書肆情報】

マイケル・ルイスの作品は、それぞれ、「日本語訳が出ていない」タイミングで、英語で読んできた。「Liars Poker」、「The New New Thing」、そして、この「Next」が三冊目である。

Liars Pokerでは、80年代後半のウォール・ストリートの投資銀行における自身の債券ディーラーとしての経験をもとに、ファイナンスの教科書にも出てこなければ、また、ビジネス・スクールにおいてもおおよそ教えられることのない、投資銀行でディーラー、セールスとして働くことの実態、意味合いが、単なる経験談のレベルにとどまらず、そのミクロな世界の構造と、その中で働くということのもたらすメンタリティとが、一人称でクリアに語られていた。

「あの本を読んだらねえ、とても、ウォール・ストリートで働く気にならなかった。」私の知人で、90年代初頭にハーバードMBAとなり、その後、MBAらしからず、実産業でのキャリアを展開することになった人が語っていた。「なるほど」と思った。ぼくも、「生き馬の目を抜く」とはこういうことだろうが、華々しいキャリアと喧伝されていることの実態がこれであるとすると、生活の糧を、投資銀行のクライアントとなる事業会社から得ることになっているぼくも、実に、このLiars Pokerの読後感としていだいたものである。

New New Thingを読んだのは、ネット・バブルにかげりが見え始めた頃であったが、シリコン・バレーのベンチャーの構造と機能とを、これまた、密着取材のうえ、的確な問いを発することを続け、対象となったジム・クラークとの間で信頼関係を築いたがゆえに可能であったと思わせる、本人の弁に彩られた、ダイナミックな「語り」が展開されていた。

この「Next」は、マイケル・ルイスの方法論が、「インターネット」の出現がこれまでにありえなかったことを可能とさせた事例の意味するところ、をこの2001年の時点で明らかにする、という意図を具現化するために実に的確に応用されている。

センセーショナルな報道だけでは、決して汲み尽くすことのできない意味合いを、それぞれの対象となる人物との間に築かれた信頼関係ゆえに語られることをベースに、より、深く、より、明確に引き出すことに成功している。

ちなみに、この「Next」に登場するのは、次のような時代を画した身体年齢の若い(としか書きようがないだろう)人たちだ。

·          Jonathan Lebel:15歳、New Jersy州 Ceda Grove在住:ネットの掲示板を使った「株価操作」をSECにとがめられ、一部の取引の利益約30万ドルを操作によるものとして没収された。そのネット掲示板への書き込みたるや、彼の通う高校の教師や友人、さらには一般の投資家が提灯をつけたくなってしまうのも仕方ないというほどの見事な分析と扇動的な書きぶりで、とても、「14、5歳の子供のやることとは思えない」代物であった。

·          Marcus Arnold:15歳、California州Perris在住:AskMe.Comサイトの刑事法相談部門において、百数十名のプロの弁護士を抑えて、大人の相談者からの相談に的確に数多く対応し、ランキングで1位を獲得。

·          Daniel Sheldon:Old Ham, UK:14歳:Gnutellaの解説サイト主宰者であり、かつ、Gnutella運動で年上の活動家・プログラマーと全く対等に活躍。

これらの事象を通暁することとして、既存の中心、周辺、インサイド、アウトサイドとの間の力関係を、インターネット以降のさまざまな動きが、まさに転覆せしめているものであり、若い人たちは、失うものがなく、また、偏見にとらわれていない分、インターネットがもたらす潜在的なパワーを遺憾なく発揮させるという事例として引かれている。

マイケル・ルイスは、米国において、このような中心と周縁との位置関係を覆すこと自体が資本主義の主要活動となったと洞察しており、ここしばらくのドットコム・クラッシュはほんのうわべの出来事に過ぎないという。それを体現しているのが、元投資銀行で現在は、VCとなっているAndy Kesslerであるとする。Andy Kesslerの投資テーマに関するメモと、そのアルゴリズムは、端的に今後のイノベーションのありようを示しているものと思われる。

 

P157

·          Pentagon General vs. Exodus Data Hosting Center

·          Madison Avenue Creative Director vs. E-mail Spammer

·          France Telecom vs. Vodaphone

·          Public Schools vs. Home Schooling

·          BBC vs BskyB

·          Newspaper publisher vs. eBay Techie

·          Corporate Security vs. Hacker

·          Library of Congress vs. Akamai

·          Car Dealership vs. Carsdirect.com

·          Microsoft vs. Linux

·          Washington Post vs. Matt Drudge

·          Hollywood Distribution System vs. George Lucas

P160

Kessler Algorithm:

 

1.       Rules are established to create order and maintain profits for incumbents.  Examples of rules are: social mores, professional licenses, government regulation, locked-up distribution channels.

2.       Cheaper Technology suddenly allows for the bypassing of the rules.

3.       Incumbents are fat and dumb and happy with current monopolistic profits and their general situation,  so they bad-mouth any new stuff which threatens their incumbency or profits, or both.

4.       Fringe players emerge to use this ever cheaper technology to simply ignore the rules.

5.       Fringe companies attract venture capital since there are great profits to be made underselling the incumbents.

6.       Incumbents are in denial until their profits are really threatened and/or market share begins to erode meaningfully

7.       Chaos ensues; fringe players are threatened with lawsuits, government regulation, public shaming, etc.

8.       Growth at the fringe accelerates, as it is the right way to do business using new technology.

9.       Incumbents co-opt the fringe, or fringe players become the new incumbents and seek to establish new rules.

10.   GO TO 1.

 

今、起こっていること。このもつ意味。マイケル・ルイスの取材と編集とで、経済・社会を見るうえで、周縁と中心との力関係がネットによって劇的に変化したということが、くっきりと明らかになったと思う。

010816 中川一郎




 
 
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