ミステリの形式を使って「家庭の悲劇」を描いたといえばロス・マクドナルドだが、彼に通じるものがある作品だと思う。というのもこの作品、事件の構造が異様なまでに手堅く図式化されているからだ。ただし事件の全貌が明るみになった瞬間の虚無感は、マクドナルドのそれとはやや異質。これはきっと、「当事者」だった3人と、事件の観察者であるリュウ・アーチャーとの違いだろう。
それはさておき、ミステリを出版することに関して、版元はかなり無神経だと思う。少なくとも後半にならないと判明しない主人公らの過去を上巻見返しに書いてしまうのはどうかと思う。あれを伏せていれば、読者への「引き」もかなり強くなっていただろうに。というわけで、未読の方はあの余計な見返しを見ないようにしましょう。 |