映画の部屋

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洋画

1960年代まで

「シベールの日曜日」
1962年 フランス映画
監督 セルジュ・ブ−ルギニョン 出演 ハーディ・クリューガー/ニコール・クールセル

戦争のショックから記憶を失った元戦闘機のパイロット、ピエール。そんな彼が出会ったのは親に捨てられ孤児院に引き取られた少女フランソワーズ。日曜日ごとに美しい森の中でメルヘンチックな出会いを続ける二人たったが、世間の人たちは彼を異常性欲者と判断した……。
無垢と残酷さが入り混じった繊細なガラス細工のような作品だ。詩情溢れるモノクロの映像も印象的。

「卒業」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1967年 アメリカ映画
監督 マイク・ニコルズ 出演 ダスティン・ホフマン/キャサリン・ロス/アン・バンクロフト

大学を優秀な成績で卒業しながらも人生の目的を見出せないベンジャミン。父親の知り合いのロビンソン夫人と情事を重ね、無為な日々を過ごす彼。だが、両親のすすめでデートしたロビンソン夫人の娘エレーヌに次第に惹かれていく……。
まず、この作品が映画デビューとなるD.ホフマンの演技が素晴らしい。前半の空ろな表情、ロビンソン夫人に翻弄される彼のパニックぶりや、有名な教会での花嫁奪取シーンまで、彼の強烈な個性にひきつけられる。また、サイモン&ガーファンクルの音楽も忘れられない。

「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1968年 アメリカ映画
監督 ジョージ・A・ロメロ 出演 ジュディス・オデア/ラッセル・ストレイナー

ホラー映画の巨匠ジョージ・A・ロメロ監督の処女作であり、「ゾンビ」「死霊のえじき」へと続くゾンビ3部作の第一作目となる作品。
米軍の打ち上げた人工衛星から降り注ぐ放射能によって次々に甦る死者。彼らは人肉を食らい次々と増殖していった。舞台はアメリカピッツバーグの小さな田舎町。一軒家に閉じ込められた七人の男女はゾンビとの凄絶な死闘を繰り広げる。やがて人間達は閉ざされた空間の中で悪意、憎悪を剥き出しにしていく……。
この映画はホラー史上に残る名作であると同時に、極限状況における人間心理を描いたドラマとしても見ごたえがある。また、終始漂う終末の雰囲気も印象的。

「真夜中のカーボーイ」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1969年 アメリカ映画
監督 ジョン・シュレシンジャー 出演 ジョン・ヴォイド/ダスティン・ホフマン

ベトナム戦争の泥沼化はアメリカ社会の抱える様々な問題を露呈させる結果となった。映画もそんな時代を反映して旧来の夢物語のハリウッド映画とは一線を画した斬新な作品が次々に制作された。所謂アメリカン・ニューシネマと呼ばれるものだ。「真夜中のカーボーイ」もその流れを汲む作品であり、病めるアメリカの生態をリアルなタッチで描いた傑作である。
テキサスの田舎町で育ったジョーは、自分の男性的魅力を武器にひとはた揚げようと憧れのニューヨークへやってくる。だが、現実は甘くはなかった。行くあてもなくさ迷う彼はひょんなことからラッツォというペテン師と知り合い、奇妙な共同生活を始めることに。肺病病みで足の不自由なその男は、太陽の降り注ぐフロリダへ行くことを夢見ていた……。
大都会の底辺で必死にあがく二人の若者の悲しい友情が胸を打つ。特ににラッツォ役のダスティン・ホフマンの強烈な個性は忘れられない。

1970年代

「小さな恋のメロディ」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1970年 イギリス映画
監督 ワリス・フセイン 出演 マーク・レスター/トレーシー・ハイド/ジャック・ワイルド

舞台は厳格なイギリスのパブリック・スクール。11才のダニエルとメロディは「僕たち結婚します」と宣言して大人達を困惑させる。「若すぎる」と教師や親達は反対するが、彼らはついに子供達だけで結婚式をあげることに……。
この映画は瑞々しい少年少女の恋物語であると同時に社会に向けて放つ過激な爆弾である。70年代における青春のバイブルともいえる作品。
「メロディー・フェア」「若葉の頃」などビージーズの名曲と共に忘れ難い作品だ。
また、注目すべきは原作・脚本を若き日のアラン・パーカーが担当していること。後に「ミッドナイト・エクスプレス」「バーディ」などの名作を監督する彼の原点がここにある。

「ベニスに死す」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1971年 イタリア映画
監督 ルキノ・ヴィスコンティ 出演 ダーク・ボガード/ビョルン・アンドレセン

十代後半から二十代の前半にかけてビィスコンティ作品にかなり心酔した時期がある。退廃的で絢爛な映像と、滅びの美学といったものに魅せられていた。なかでも強い衝撃を受けたのが「ベニスに死す」だった。
物語は、ギリシャ彫刻のような美少年に魅せられた老作曲家(トーマス・マンの原作では作曲家ではなく小説家だった)の苦悩を描いている。苦悩はやがて絶望そして恍惚へ…。全編に流れるマーラーの交響曲も官能的な美しさに満ちていた。

「わらの犬」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1971年 アメリカ映画
監督 サム・ペキンパー 出演 ダスティン・ホフマン/スーザン・ジョージ/ピーター・ボーン

主人公はダスティン・ホフマン演ずるひ弱な数学者。暴力がはびこるアメリカを逃れて妻の故郷であるイギリスの片田舎に移住してくるが、そこにも野蛮な暴力が待ち受けていた。逃れようのないトラブルに巻き込まれ、自己防衛の為に武器を取ることになるが……。
ハイ・スピード撮影を駆使したラスト30分のバイオレンスシーンは迫力があった。また、暴力を嫌悪しつつも次第に暴力に魅せられていくダスティン・ホフマンの演技も素晴らしく、暴力の不条理が見事に描かれていた。主人公の妻を演ずるスーザン・ジョージの肉感的な魅力も印象的。

「フォロー・ミー」
1972年 アメリカ・イギリス合作
監督 キャロル・リード 出演 ミア・ファロー/トポル/マイケル・ジェイストン

チャールズは妻のベリンダが浮気をしているのではという疑念に苛まれ、私立探偵のクリストフォールを雇う。だが、ドジな探偵はすぐに尾行を気づかれてしまう。ベリンダは自分をつけ回すこの男が妙に気にかかった……。
淋しい女と淋しい探偵。二人の間に心が通い合っていく場面はロマンチックだがちょっと切ない。
この映画は、ペリンダ役のミア・ファローの不思議な魅力が溢れていた。また、クリストフォールを演ずるトポルのとぼけた味わいも印象的。

「パピヨン」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1973年 フランス・イギリス合作
監督 フランクリン・J・シャフナー 出演 スティーブ・マックィーン/ダスティン・ホフマン

胸に蝶の刺青をしていることからパピヨン(仏語で蝶の意味)と呼ばれた実在の人物の自伝小説を映画化した作品。
無実の罪で南米・仏領ギアナの監獄へと送られたパピヨンを待っていたのは、灼熱のジャングルと地獄のような強制労働の日々だった。次々に倒れていく仲間達。想像を絶する極限状況下で彼を支えたのは飽くなき自由への意志と親友ドガの熱い友情だった……。
この映画の最大の見どころは、スティーブ・マックィーン、ダスティン・ホフマンという二大スターが共演している点。対照的な魅力を持った二人の個性が噛み合って見事な男の友情のドラマを見せてくれた。

「エクソシスト」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1973年 アメリカ作品
監督 ウィリアム・フリードキン 出演 リンダ・ブレア/マックス・フォン・シドー/エレン・バースティン

12歳の少女にとり憑いた悪魔と、悪魔祓いをする二人の神父との壮絶な死闘を描いた作品。公開当時は、少女の首が180度回転したり、緑色のゲロ(えんどう豆のスープだとか)を吐くなどのショッキングな描写ばかりが話題になったが、人間ドラマとしてもよく出来ていた。なかでも印象に残っているのはカラス神父(若い方の神父)の暗い存在感だ。神父でありながら自分の母親一人救えなかった事が心の傷になっている彼が、命を懸けて悪魔に挑む姿は迫力があった。
余談だが、「エクソシスト2」で少女リーガンに再び悪魔をとり憑かせたことには腹が立った。それでは、カラス神父が報われないではないか。

「悪魔のいけにえ」
1974年 アメリカ映画 
監督 トビー・フーパー 出演 マリリン・バーンズ/アレン・ダンジガー

テキサスの小さな町にドライブで訪れた若者達の身に降りかかる惨劇。とにかくショックショックの連続で、ひたすら怖さだけを追求した作品。なかでもチェーンソーをブンブン振り回す大男がすごい。と、いってもこの映画はスプラッターではない。残酷シーンはむしろ抑えめで、ドキュメンタリータッチの演出が恐怖感を高めている。
この作品、斬新な恐怖描写を評価されてニューヨーク近大美術館に保存されているとか。
後のホラー映画にも多大な影響を与えた作品。

「ジョーズ」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1975年 アメリカ映画
監督 スティーブン・スピルバーグ 出演 ロイ・シャイダー/リチャード・ドレイファス/ロバート・ショウ

海岸に現われた巨大な人食い鮫と人間との壮絶なる死闘を描いた作品。 数ある「動物パニックもの」の中でもこの映画は一味違う。まず、海水浴シーズンを控えて鮫の出現を隠そうとする市長などがリアルに描かれている点が面白い。勿論、鮫が人を襲うシーンでのサスペンスの盛り上げ方や、鮫とのスリリングな対決も秀逸で、一級のエンターテイメント作品に仕上がっている。
アメリカ映画はベトナム戦争などによる混迷した時代背景からアメリカン・ニューシネマなるものが誕生した。その中から名作も生まれたが、同時にアメリカ映画から夢や痛快さなど映画として重要な娯楽的要素を奪う結果にもなった。だが、スピルバーグ、ルーカスらの登場によって見事にハリウッド映画は復活を遂げた。
この映画の中で、政治的なごたごたに疲れ果てた警察署長が、鮫との戦いに恐怖よりもロマンのを感じていく様子が、そのままアメリカ映画の歴史と符号しているのは偶然だろうか?

「タクシードライバー」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1976年 アメリカ映画
監督 マーティン・スコセッシ 出演 ロバート・デ・ニーロ/ジョディ・フォスター/シビル・シェパード/ハーベイ・カイテル

毒々しいネオンに彩られた夜のニューヨーク。咽び泣くサックスの音色。映画はその幻想的な映像によっていきなり観客を非現実的な世界へと誘う。
ロバート・デ・ニーロ扮するトラビスは大都会の片隅でどう生きていったらいいのか判らない孤独なタクシー運転手だ。好きな女ともうまくつきあえない。汚れきったニューヨークの街に怒りが募る。勘違いの正義感は、やがて、「この街を浄化する」という孤独な戦いに彼を駆り立てていく……。
この作品で強く印象に残っているのは若き日のロバート・デ・ニーロの暗い存在感だ。13才の売春婦を演じるジョディー・フォスターの名演技も光っていた。

「がんばれ!ベアーズ」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1976年 アメリカ映画
監督 マイケル・リッチー 出演 ウォルター・マッソー/テイタム・オニール/ヴィック・モロー

かつてはマイナーリーグの投手をしていたバターメイカーは、今ではすっかり落ちぶれて酒浸りの生活。そんな彼が少年野球のコーチをすることに。だが、引き受けた「ベアーズ」はリーグでも落ちこぼれのだめチーム。そんなチームの立て直しにスカウトしたのは、剛速球投手のアマンダ(実はかつての恋人の娘)と、不良少年ケリー。二人の加入によってベアーズは快進撃を続けるが。。。
この映画の面白さは子供達の心憎いまでの存在感。だが、それに一歩もひけを取らないのがウォルター・マッソーの圧倒的な存在感だ。そんな両者のぶつかりあいが笑いを誘い、時にはホロリとさられる。また、いかにもアメリカ的な皮肉にも満ちていて、子供映画といってもあなどれない作品だ。

「トリュフォーの思春期」
1976年 フランス映画
監督 フランソワ・トリュフォー 出演 ジョリー・デムソー/フィリップ・ゴールドマン/シルヴィー・グレゼル

原題は、「LARGENT DE POCHE(おこづかい)」で、邦題は映画の内容と合っていない。
この映画は、フランスの地方都市を舞台に子供達の生活をスケッチ風に描いていく。一貫したストーリーはないが、様々な子供達のエピソードの一つ一つが面白く、また、絶妙のテンポと美しい映像によって、まさに映像詩と呼ぶに相応しい作品に仕上がっている。
子供が出演する映画には興ざめすることが多々ある。大人の考えた子供らしさを熱演する子役の薄気味悪さには背筋が寒くなるが、この映画の子供達は違う。まるでドキュメンタリーでも見ているかのように自然で、しかも、生き生きとしているのだ。
トリュフォーは処女長編「大人は判ってくれない」で、感化院に送られた自らの悲しい少年時代を描いた。それは瑞々しいが暗く寒々としたタッチであった。だが、この映画はあくまで明るくユーモアを交えつつ描かれる。中には不幸な子供も登場するが、それを見詰める監督の暖かい眼差しがスクリーンからも伝わってくる。

「キャリー」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1976年 アメリカ映画
監督 ブライアン・デ・パルマ 出演 シシー・スペイセク/パイパー・ローリー

スティーヴン・キングの処女作を当時新進気鋭のデ・パルマが映画化した作品。
狂信的なキリスト教徒の母に育てられていじけきったキャリーは、学校でもいじめられっ子。だが、彼女が念動能力の持ち主であることは誰もしらない。キャリーの感情が高ぶった時、突如としてそれは爆発する。
キングの映画化作品では「スタンド・バイ・ミー」や「ショーシャンクの空に」などホラー色の薄いものには名作が多いが、ホラーものでは成功作が少ない。と、いうのもキングの小説に登場する悪霊や化け物は、常にシンボリックな意味を持つ。そこに描かれる怪物は人間の心の闇の象徴である。
勿論、読者は小説を読みながらそこに現代社会の病理を分析してみる必要はないし、単なるホラー小説として楽しめばよい。だが、無意識のうちに自分の心の深淵を覗き込むからこそ読者はゾッとするのではないか?
しかし、それも映像になると単なる化け物や悪霊の意味しか持たなくなる。それが、キング作品を映画で見た時の物足りなさなのだと思う。
映画「キャリー」はキングのホラーものでは、一番成功した作品ではないか。
キングは小説「キャリー」で青春期に特有の様々な内なる衝動を超能力という形で描いた。デ・パルマはそれを見事に視覚化して見せてくれた。

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1977年 アメリカ映画
監督 ウディ・アレン 出演 ウディ・アレン/ダイアン・キートン/トニー・ロバーツ/シェリー・デュバル/ポール・サイモン

漫談家として活躍するアルビーは、テニス・クラブで知り合った歌手のアニー・ホールと恋に落ちる。同棲を始める二人だが、いつしか心はすれ違うようになり……。
この作品の見所としては、ウディ・アレンならではのハイセンスな笑いと洗練された表現スタイルがあげられる。主人公がいきなり観客に語りかけたり、回想の中に登場したりという下手をすれば鼻につきそうな手法も実にスマート。それにはフェリーニの影響もあるだろうが、単なる模倣ではなく、完全にウディ・アレンのスタイルとなっている。
ラブ・ストーリーとしての出来も秀逸で、観終わった後に残るほろ苦い思いは誰しも一度くらいは経験があるのでは?

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1978年 アメリカ映画
監督 マイケル・チミノ 出演 ロバート・デ・ニーロ/クリストファー・ウォーケン/メリル・ストリープ

1960年代末期。美しい山なみに囲まれた米ペンシルベニア州の小さな鉄鋼町から三人の若者たちが徴兵されてベトナムに旅立つ。愛する妻や恋人に別れを告げ、地獄のような戦場で彼らが体験したものは……。
戦争という過酷な現実にぶつかった若者達がどうやってその危機を乗り越えていくか。この映画はそんな男たちの人間ドラマである。共に戦い傷ついた男達。その熱く切ない友情が胸を打つ。なかでもクリストファー・ウォーケンの鬼気迫る演技は生涯忘れることがないだろう。
ベトナム戦争の描き方についてはちょっと意見があるが、ここで述べるのはやめておく。この映画は戦争映画というよりむしろ青春映画の傑作である。

1980年代

「シャイニング」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1980年 アメリカ映画
監督 スタンリー・キューブリック 出演 ジャックニコルソン/シェリー・デュバル

外界から遮断された雪山のホテルで一冬管理人として過ごすことになった作家とその家族。だが、そのホテルには悪霊がとり憑いていた。
ステディカムを駆使した映像や斬新な音楽の使い方など、キューブリックならではの恐怖表現が話題になった作品。だか、スティーヴン・キングファンとしては大いに不満が残った。小説で重要な人物を簡単に殺してしまったり、原作をむちゃくちゃにしてしまったという印象を受けたからだ。なかでも、小説ではアル中から立ち直ろうとする主人公が閉ざされた屋敷の中で次第に狂気に蝕まれていく悲しみを描いていたのに対し、映画のジャック・ニコルソンは最初から狂っているかのように見えるのに当惑した。実際、キングはこの作品にかなり腹を立てていたらしい。
と、いうわけで後年になってキング自らがプロデュースして映像化した作品もある。だが、こちらの方は確かにストーリーは原作通りなのだが、キューブリックの映像と比べると物足りなさは否めない。
改めてキューブリック版を見直してみたが、キング作品とは別物と考えればこれはこれで傑作なのではという気がしてきた。

「エレファント・マン」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1980年 アメリカ・イギリス合作
監督 デビッド・リンチ 出演 ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス

19世紀のイギリスに実在した人物、ジョン・メリックの数奇な運命を描いた作品。その奇怪な容貌から象人間と呼ばれ、見世物小屋で鞭打たれていた彼が、アンソニー・ホプキンス扮する外科医との出会いによって初めて人との交流を知る。彼の悲しみに満ちた生涯には涙を禁じえない。だが、この映画を単なるお涙ちょうだいの難病ものと思うのは間違いだ。一見ヒューマンなストーリーの背後に流れる偏見、差別、憎悪、恐怖、偽善、それらが悪夢のようなイメージとともにモノクロの画面の中で展開する。これは、怪奇な雰囲気に彩られた真実の人間ドラマだ。

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1983年 アメリカ映画
監督 マーティン・スコセッシ 出演 ロバート・デ・ニーロ/ジェリー・ルイス

スコセッシとデ・ニーロのコンビと言えば、「タクシードライバー」や、「レイジング・ブル」が有名だが、これは一風変わったコメディだ。
デ・ニーロが扮するのはコメディアンになるのを夢見るしがないメッセンジャーボーイ。そんな彼が、「一生下積みで終わるなら、一夜だけでもスターになりたい」と、人気コメディアンを誘拐、ついには、テレビに出演してしまう。誘拐されるのがジェリー・ルイスというのも面白い。だが、この映画、単純に笑える映画が見たいという人にはおすすめできない。デ・ニーロがあまりにも痛まし過ぎて笑えないのだ。しかし、その物悲しさと妙なおかしさがマッチして不思議な味わいを醸し出している。

「クジョー」
1983年 アメリカ映画
監督 ルイス・ティーグ 出演 ディー・ウォーレス/エド・ローター/ダニー・ピンタウロ

スティーヴン・キングによる同名小説の映画化。
炎天下の中、故障した車に閉じ込められた母子を襲う狂犬病のセントバーナード。と、いうひたすら怖い映画。しかし、背後には家族の問題も描かれていて深みがある作品となっている。ラストは小説とは異なるが、ストーリーをなぞることと原作に忠実ということは違うと思う。映像と小説の違いを考えた場合、ラストを変更したのは正解だと思う。ネタバレになるので具体的にいうことは避けるが。
映画化されたキング原作のホラーものの中では成功した作品といえる。

「バーディ」
1984年 アメリカ映画
監督 アラン・パーカー 出演 マシュー・モディン/ニコラス・ケイジ/ジョン・ハーキンス

鳥に憧れ、鳥のように空を舞うことを夢見るバーディ。彼はベトナム戦争で心に傷を負い、精神病院の檻の中で鳥のように体を丸くしてうずくまっている。親友のアルは、なんとか彼の正気を取り戻そうとバーディに語りかける。青春時代の思い出を……。アルも戦闘で顔に傷を負い、バーディーを必要としていたのだ。物語はアルとバーディの現在と過去を交錯させつつ二人の青春と挫折、友情を描いていく。なかでもバーディーの内的世界を描いた幻想的な映像は素晴らしい。ピーター・ガブリエルの音楽も印象的。

「ブルーベルベット」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1986年 アメリカ映画
監督 デビッド・リンチ 出演 カイル・マクラクラン/イザベラ・ロッセリーニ/デニス・ホッパー/ローラ・ダーン

同じD・リンチ監督の「エレファントマン」では異形の存在への倒錯した嗜好のようなものが見てとれたが、それはヒューマンなドラマによってオブラートに包まれていたように思える。だが、「ブルーベルベッド」では、D・リンチの変態趣味が遺憾なく発揮されている。全編が退廃的で官能的な美しさに満ちており、彼の才能がこの一作で一気に開花したといえる。
物語は主人公のジェフリーが切り落とされた人の耳を拾った所から始まる。その謎を解こうとして踏み入れたのは、異常な世界だった。次々に登場する不気味な人物達……。なかでも、吸入器から麻薬を吸いながら女を犯すデニス・ホッパーが強烈なインパクトを残す。また、イザベラ・ロッセリーニの妖艶な魅力も光っていた。

「スタンド・バイ・ミー」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1986年 アメリカ映画
監督 ロブ・ライナー 出演 ウィル・ウィートン/リバー・フェニックス/コリー・フェルドマン/ジェリー・オコンネル/リチャード・ドレイファス

原作はS・キングの自伝的色彩の濃い中篇小説。
郷愁を誘う「スタンド・バイ・ミー」の音楽をバックに描かれるのは12才の少年四人の冒険の物語だ。行方不明の少年の死体を捜しに出た悪ガキ達の二日間。それは彼らの人生に大きな意味を持つ体験となった……。
この作品は、大人になってからは決して得る事の出来ない胸踊る冒険の喜び、そして友情……そんなかけがえのない「子供の時」を見事に映像化した傑作だ。演ずる少年達の存在感も素晴らしい。
また、原作のイメージに忠実なところもキングファンとしては嬉しい。

「ザ・フライ」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1986年 アメリカ映画
監督 デビッド・クローネンバーグ 出演 ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイビス/ジェイ・ブーシェル

天才科学者セスは物質転送装置(テレポッド)という大発明の実験を行っていた。だが、自らの肉体を転送しようとした時、装置の中に一匹の蝿が紛れ込んでいることに気づかなかった。テレポッドは蝿とセスの肉体を遺伝子レベルで融合させてしまう……。
古典的ホラーである「蝿男の恐怖」(’58年製作)をリメイクした本作は、前作をはるかに凌ぐホラー映画の傑作となった。
映画の見所は、セスの肉体が醜く崩れていく様を描いたSFX技術だけではない。彼を愛する恋人(ジーナ・ディビス)とのラブストーリーとしてもよく出来ている。グロテスクな恐怖描写と悲しい恋の物語が相俟って、なんとも知れない味わいを残す。
主人公を演じるジェフ・ゴールドブラムの特異なキャラも印象的。

「大災難 P.T.A.」  Amazon.co.jpで詳細を見る
1987年 アメリカ映画
監督 ジョン・ヒューズ 出演 スティーブ・マーチン/ジョン・キャンディ

出張先のニューヨークから家族の待つシカゴに帰ろうと空港へ急ぐニール。なんとしても感謝祭は家族と過ごしたい。しかし、空港では大雪に見舞われ、その後も次々と災難が降りかかる。だが、最大の災難は偶然行動を共にすることになったデルというデブ男。彼の無神経な行動によってニールのストレスは次第に高まる・・・果たして彼は感謝祭までに家に辿りつくことが出来るのか?と、いうおかしなおかしなロードムービー。
とにかくスティーブ・マーチンと、ジョン・キャンディのコンビが最高。神経質なマーチンと、無神経だがどこかにくめないキャンディが実にいい味を出している。また、最後にはちょっとホロリとさせられる落ちもあり、人間ドラマとしてもよく出来ている。とにかく思いっきり笑えて後味爽やかな傑作コメディ。

「ロボコップ」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1987年 アメリカ映画
監督 ポール・バーホーベン 出演 ピーター・ウェラー/ナンシー・アレン

近未来のアメリカ。デトロイト市警に配属されたばかりのマーフィーは相棒ルイスと犯人追跡中に無残な死を遂げる。だが、マーフィーは、脳以外は全て機械という無敵のロボコップとして甦り、デトロイトの治安を守る為に戦う。
こう書くとまるで子供向けのアニメのような設定だが、内容はブラックなユーモアや風刺に満ち、大人の観賞に堪えうる作品に仕上がっている。

1990年代

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1991年 アメリカ映画 
監督 ジョナサン・デミ 出演 ジョディ・フォスター/アンソニー・ホプキンス/スコット・グレン/テッド・レビン/アンソニー・ヒールド

「プロファイリング」「心理分析官」、昨今のサスペンスドラマや小説でよく耳にする言葉だが、それはこの映画のヒットによって一般化したものだ。この作品が後のミステリーやサスペンスに与えた影響は計り知れないものがある。
物語は、猟奇殺人犯を追うFBIの女性捜査官の奮闘を描いている。それだけ聞くとありふれた設定に思われるかもしれない。しかし、この作品の最大の見どころは主人公のクラリス(ジョディ・フォスター)が、事件のヒントを得ようと会いに行く天才精神科医にして連続殺人犯、ハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)の異様なまでの存在感だ。ジョディ・フォスターとアンソニー・ホプキンスという二人の名優による心理的駆け引きは緊張感に満ち、二人の間に奇妙な心の交流が生じて行く所など見ごたえ充分。一級のサイコサスペンスに仕上がっている。

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1992年 アメリカ映画
監督 カーチス・ハンソン 出演 アナベラ・シオラ/レベッカ・デ・モーネー/マット・マッコイ/アーニー・ハドソン

診察中の猥褻行為を訴えられた産婦人科医が自殺をする。ショックで流産したその妻ペイトンは、全てを失った。財産も家族も……。夫を訴えたその女、クレアは無事に出産をして幸福な家庭を営んでいる。復讐を誓ったペイトンはベビーシッターとしてクレアの家庭に入り込むのだった……。
この映画には派手なショックシーンも血みどろの残酷シーンもない。だが、観客を怖がらせるのにそんなものは必要ないことに改めて気づかされる。緻密な伏線と日常性に根差した恐怖によって最後まで緊張感が続くのだ。
また、注目すべきは脚本家が女性(アマンダ・シルヴァー)であること。いかにも女性らしい生理的な恐怖描写には思わずぞっとさせられる。また、観終って後味の悪さを残さないあたりも流石。
「スクリーム」に代表されるティーン・エイジャー向けスリラーとは一線を画した大人の観賞にたえるサスペンス・スリラー。

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1994年 アメリカ映画 
監督 フランク・ダラボン 出演 ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン

無実の罪で投獄された銀行員のアンディ。絶望的な状況の中でも彼は狂気に犯されることなく、自らの尊厳を懸けて戦い続けた。それは、彼が常に希望を失わなかったからだった……。
原作はスティーヴン・キングの小説「刑務所のリタ・ヘイワース」。映画は原作に忠実で、それもただストーリーをなぞっただけではなく、原作のムードを見事に映像化している。
主人公の親友に扮するモーガン・フリーマンもいい味を出しており、爽やかな後味を残す作品だ。

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1994年 ニュージーランド・アメリカ合作
監督 ピーター・ジャクソン 出演 メラニー・リンスキー/ケイト・ウィンスレット/サラ・パース/ダイアナ・ケント/クライブ・メリソン

規律の厳しい女子校に通うポーリーンと転校生のジュリエット。繊細で、鋭敏過ぎるが故に周囲とは溶け込めない二人の間に友情が通いあうのに時間はかからなかった。通俗的な世間を軽蔑し、空想の王国で遊ぶ二人。友情はやがて同性愛的な感情へと発展し、二人だけの世界を邪魔された時、彼女達がとった行動は……。
前作、「ブレインデッド」では破天荒なストーリーと凄まじいスプラッターで映画ファンの度肝を抜いたピーター・ジャクソン監督だが、この作品では作風をがらりと変え、繊細な思春期の少女の内面を見事に描き切った。その美しくも残酷な世界は鮮烈。
また、主役を演ずる二人の少女の存在感も光っていた。ジュリエッタを演じいるのは「タイタニック」のヒロイン、ケイト・ウィンスレットだ。

「レオン」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1994年 アメリカ映画
監督 リュック・ベッソン 出演 ジャン・レノ/ナタリー・ポートマン/ゲイリー・オールドマン

家族を麻薬組織に殺された12才の少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)。孤独な少女が愛したのは、孤独な殺し屋レオン(ジャン・レノ)だった……。
派手なだけで味わいの薄いハリウッドの大作映画に食傷気味で、かといってヨーロッパ映画のテンポもかったるいと思っていた頃にこの映画を見た。ハリウッド映画でありながらベッソン監督によるリトル・イタリーを舞台にした映画ということで、ヨーロッパ映画のようなムードがいい。尚且つテンポもよくアクション場面も迫力満点。レオンとマチルダの切ない愛の物語も胸にしみる。
尚、リッック・ベッソン自らが編集し直した完全版もあるが、こちらの方がマチルダのレオンに対する感情が明確になっており、また、レオンの過去が語られるなど作品としての深みを増している。見るなら完全版をお薦めする。

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1994年 アメリカ映画
監督 ケネス・ブラナー 出演 ロバート・デ・ニーロ/ケネス・ブラナー/ヘレナ・ボナム・カーター

生命の創造という神をも恐れぬ研究にとりつかれたフランケンシュタイン博士の物語についてはいまさら説明する必要もないだろう。
映画はこのあまりにも有名な古典的ホラーを絢爛たる映像美と豪華なキャストによって第一級のエンターティメント作品として仕上げた。なかでもクリーチャーを演ずるロバート・デ・ニーロが素晴らしい。愛されることなく生まれた醜悪な怪物の深い悲しみが胸を打つ。

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1997年 アメリカ映画
監督 ジェームズ・キャメロン 出演 レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ウィンスレット/グロリア・スチュアート/ビリー・ゼイン/キャシー・ベイツ

タイタニック号の悲劇を空前のスケールで描いた大ヒット作品。
豪華客船の上で展開するのは、「ロミオとジュリエット」を思わせる身分違いの男女のラブストーリーである。やがて、二人の恋は沈没する船からの脱出という大スペルタクルへ向って激しく燃え上がる……。
物語は事件の生き証人である老女の回想として描かれる。海底の底深く沈んだ彼女の想い出が時の流れを越えて鮮やかに甦る。その切ないまでの美しさが胸に迫る。
ヒロインを演じるケイト・ウィンスレットは近頃では珍しく存在感のある女優だ。

「スリング・ブレイド」 Amazon.co.jpで詳細を見る
1997年 アメリカ映画
監督 ビリー・ボブ・ソートン 出演 ビリー・ボブ・ソートン/ルーカス・ブラック/ドワイト・ヨーカム/J.T.ウォルシュ

スリング・フレイドとは草を刈るナイフのことである。知的障害者のカールはその刃物を用いて母親とその不倫相手を殺害し、精神病院に収容されていた。25年ぶりに故郷に戻ったカールはそこでフランクという少年と出会い、二人の間には友情が生まれる。周囲の温かい励ましもあって、平和な暮しが送れるかのように見えた。だが、それを乱すのはドイルという粗暴な男。彼はフランクの母親の恋人だった……。
ほのぼのした雰囲気と緊張感の同居した不思議な味わいのある作品である。人間ドラマとしても見応えがある。
主演のビリー・ボブ・ソートンの強烈な個性も印象深い。

「グリーンマイル」 
1999年 アメリカ映画
監督 フランク・ダラボン 出演 トム・ハンクス/マイケル・クラーク・ダンカン/デヴィッド・モース

グリーンマイルとは電気椅子に送られる受刑者が、最後に踏む緑色の廊下のこと。人間は誰しもがグリーンマイルへと続く道を歩いている……。1935のある日、大男の黒人がコールド・マウンテン刑務所に送られてくる。双子の少女を惨殺した罪で死刑が確定しているその男には、実は特殊な能力があった……。
キングとダラボンのコンビといえば、「ショーシャンクの空に」という名作があるが、本作もそれに匹敵する出来となっている。
映画は、奇をてらうようなところがなくむしろオーソドックな作りだが、細部にまでこだわった丁寧な演出から原作への愛情が伝わってくる。三時間を越える作品ながらだれる部分が一つもないのも凄い。ミスター・ジングルズ(ネズミ)の名演技も忘れられない。

 

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