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[2002-02-11 新聞 第11号より]

 I 飾られたい絵 

 
 フラメンコの絵を見るたびに思い出すことがある。それは20年前のイギリスから始った。スコットランドへ行くためロンドンのキングスクロス駅へ着くと、階段下から軽快なリズムが聞こえてきた。踊り場で鮮やかな色彩のドレスの女性がギターに合わせてフラメンコを踊っていた。思わずクレヨンを取り出しスケッチブックにデッサンし始めると、男性が空き缶を差し出しチップを要求した。5ポンド紙幣を入れたが納得しない様子なので10ポンド支払って堂々とスケッチした。駅の階段は木製で、古くから地方への始発駅となっていた。結局スコットランドへは次の日出発し一週間の滞在後またロンドンに戻り五か月を過ごした。

 帰国後デッサンをもとに踊り子を油絵にしたとき、自宅が火災になりそうになった。練馬で他の絵が売れてこの絵だけを新車に積んで戻る途中、浦安橋で止まっていると、後ろから追突され車のトランクが壊された。ひしゃげたトランクのすき間から見えたまるで明かりを求めるような踊り子の目にゾッとした。

 フラメンコダンサーの絵は飾った方がいいと思い、玄関に掛けると私の店は忙しく良いことが続いた。その後、引っ越したので絵はまたはずされ、トイレの前の廊下に裏返したまましばらく置かれた。そしてついに本当に怖いことが起きた。私が脳溢血で倒れ左半身不随になったのだ。絵のたたりかと思った私はその絵をまた飾ることにし、みんなの目に触れるよう浦安市美術展に出品、入選した。後でキングスクロス駅の火災で百人以上が死んだと知って、あのフラメンコダンサーのことを考え、背筋が寒くなった。  (寿三郎)

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