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[2004-12-01 新聞 第15号より]



(写真) 小野寿弥さん
そもそも、台風というヤツは秋に来るとばかり思っていた。だが、最近では、気の早いヤツもいて夏にやって来て暴れていったりする。

今年は、まだ初夏というのに早々と来た。「日本は台風の通り道」と幼い頃に学校の先生に聞いた。

今年の台風22号は非常に大きく、関東地方に上陸する恐れがあると報道されていた。テレビで台風情報があるたびに画面にピッタリと張り付いた男が浦安にいた。

その人とは、このオレであるが全身麻痺の障害者。台風が上陸する恐れがあるというのに施設のショートステイを切り上げ、浦安の自分の家に帰っていた。なぜか。

身障者のオレが・・・

オレは車椅子、介助の人がいなければ、どこにも行けない。口も不自由だ。浦安には私と同じ右麻痺の人が、「ルパン文芸」という文学サークルを主宰している。オレもそのサークルの仲間だから、ゼミに出るため台風情報を気にしていたのだった。

ゼミの日、テレビのニュースでは台風が夕方に関東地方に上陸するので厳重な警戒をするようにと言っていた。確かに、空はどんよりした灰色だったが、別に風雨が強く吹いているわけではなかった。

オレがゼミに出かける頃には台風も一休みしていたので、お山の大将のオレとしては「台風なんかに負けてたまるか」と、いきがってゼミに行くことにした。 

でも妻は「帰ってくる頃が一番ひどくなるみたいなの、終わったら直ぐ帰ってきなさいよ」と心配して言った。

ところがどっこい、ゼミの会場に行ったら、ルパンの仲間は誰もいなかった。「きっと台風が来ているから皆も遅れるんじゃないの」と介護の人と話した。それでも誰も来ない。「中止」という二文字が脳裏に浮かんで消えた。

オレの介護の女性が会場を管理している人に確認をしてくれた。ルパンの仲間には「台風のためゼミは中止」だった。他の仲間には言ったが、オレはショートステイに行っている予定だったから連絡はしなかったそうだ。

「やっぱり中止か。考えてみればルパンの仲間のほとんどが身障者だから台風で風雨が強くなれば中止が当然かな」とオレは思った。

でもオレは「台風であろうと豪雨であろうと、たとえ『槍』が降ってきても折角、外出したのに直ぐに帰るのはもったいない」と思った。お山の大将は一人ぼっちなのだ。

雨にも負けず風にも・・・

別に欲しいものがあるわけでもないが、急に欲しいものが見つかるではないか。オレは百円ショップに行った。

「コーヒーでも飲んでいきませんか?」と介護者に言ったら「奥さんが心配しているからまた今度にしましょう」と言われてしまった。

外に出たら台風が近づいているせいか、来る時よりも、風雨が強くなっていた。「行きはよいよい、帰りは怖い」とは、このことかな。

オレは「宮沢賢治」の詩「雨にも負けず風にも負けぬ」を口ずさみ『お山の大将、オレ一人』と叫んだ。オレが家に着いたら、すごい台風が千葉に上陸した。

「自分一人だけでも頑張るぞ、お山の大将なのだ。人は人に生かされていればもっと強くなるぞ」とオレは思った。

これがオレの得難い「台風騒動記」だった。


【ルパン文芸会員・著書に「面白きこともなき世を面白く」(共著)「ドラの冒険」など。】

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