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[2004-12-01 新聞 第15号より]

  (写真)有村とおる氏
悲劇的なラブストーリー
   謎解きのエンターテイメント  --- 有村さん大いに語る   
入選は「暗黒の城」
(ダークキャッスル)

 「登場人物がロシアの文豪ドストエフスキーを思わせます。」と作家、小松左京さんが絶賛した時、有村とおるさんは顔を輝かせた。五九歳、文壇では久し振りの大物登場なのだ。作家になった有村さんと、ルパン文芸主宰の山本祐司さんとの対話は、こよなく楽しいものだった。


山本 「第5回小松左京賞」の受賞おめでとうございます。59歳で作家という快挙(笑)をなし遂げられたわけですが、以前から小説は書いていらっしゃったのですか?

有村 自分では年齢のことを意識しなかったのですが(笑)、まわりが驚いたようですね。インターネットの2チャンネルでも話題になり、受賞式にはいつもより多くのメディアの取材があったと聞いています。小説は20年前に短編を数編書いただけで、長編は今回が初めてです。

山本 入選作の「暗黒の城(ダーク・キャッスル)」はホラーゲームの世界から始まって、死の恐怖を支配するDNAの謎とか、集団自殺したカルト教団の謎など、ミステリー風の構成です。

本当の謎とは?

山本  主人公の弟の筋ジストロフィーをめぐる挿話や、人間の存在についての哲学的な議論が、作品に奥行を与えていますね。

有村 この作品はミステリー風の物語に託して、「人間の存在の意味」とか「価値」に関して書いた小説です。最初に二人のゲームクリエイターが無残に死んでしまいます。その死の謎を解明するところからストーリーが始まります。早川優作という主人公とゲームデザイナーの佐藤美咲との悲劇的なラブストーリーを軸に、謎が少しずつ明らかになってゆきます。謎解きのエンターテイメントとしても楽しんでいただけます。でも、私の書きたかった本当の謎は、「人の価値に関する言葉はどうやって真偽を決定されるか」、「人間はDNAの配列に従って生きるだけの存在なのか、それとも人間の精神はDNAを超えたものなのか」との問いかけでした。

山本 小松左京先生も受賞式で、登場人物がドストエフスキー的で、重量感のある作品と誉めていましたね。ところで、なぜSFという形式を選んだのですか?

有村 ドストエフスキー的との評価は、最上の誉め言葉ですね。作品のなかで勝手な思想を主張するのは、美咲とカルトの指導者だった首藤光希ですが、この二人には思い入れがあります。SFというのは、実は一番自由な表現形式なんですよ。フィクションの世界でしかありえない物語をリアルに描くために最適なんですね。SFといっても、宇宙空間が舞台ではないし、ロボットも出てきません。「暗黒の城」は数年先の近未来の話で、DNAの話とか、コンピューターのハッカー、バーチャルリアリティ・ゲームなどが登場しますが、できるだけわかりやすく書いています。技術的な部分は多少の誇張があっても、現在すべて実現している内容です。

山本 初めの一章は、ホラーを思わせる出だしですね。

有村 最初はホラーを書こうとしていたんですが、怖くないという批判がありまして(笑)、止めました。発想がどうしてもSF風になってしまうということもありますね。

山本 日本のSF作家や、小松左京先生の本などはよく読まれるのですか?

有村 小松先生の作品は、愛読しています。最近の作品では「虚無回廊」が面白かったですね。若い時には、豊田有恒、堀晃、眉村卓、星新一などの諸先生の作品を読みふけっていました。海外の作家では、アーサー・C・クラーク、特に今はスティーヴン・キングを愛読しています。20年前にスタニスワム・レムの作品「ソラリスの陽のもとに」を読んだことが、SFを書こうとした契機でした。

山本 SF以外の作品はお読みにならないのですか?

有村 もともと活字中毒で(笑)、中学の時は学校の図書室にある本をほとんど読みました。学生(早大)時代は哲学書をよく読んだんですが、現在はエンターテイメントが中心ですね。一番影響を受けた作家はドストエフスキーと、小説家ではないのですが、「暗黒の城」にもでてくるヴィクトル・フランクルです。実は、日本の作家の作品はあまり読まないんです(笑)。

山本 お仕事と執筆時間とか、文学活動は両立しますか?

有村 仕事は会社を経営していますが、あまり儲からないんです(笑)。これからは小説を書く時間が多くなると思います。執筆時間は、誰にも邪魔されない深夜が多いです。わからない点は、インターネットで調べます。深い内容でなければ、即座にわかりますからね。ネットがなければ、今回の作品は違った形になっていたと思います。

山本 浦安からの作家誕生ということで、最後にルパン文芸について一言頂けますか?

有村 ルパン文芸には妻(大野彩子)がお世話になっており、感謝しています。ルパン式を妻が覚えてきて私に講義してくれたため、大変役に立ちました(笑)。私にとって山本先生が間接的な(笑)師であると考えています。賛助会員としてこれからも会の発展に協力させていただきます。

山本 ありがとうございます。


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