20世紀をめぐる研究会について


21世紀まであと5年ということで,来世紀へ向けての準備と展開を兼ねて,残りの5年間で20世紀の100年間を再び生き直す,という主旨で研究会を行おうと思います.つまり,20世紀の100年間を5年間に縮減してその諸活動と思想を俯瞰しつつ学習・研究しようというものです. この20世紀研究会のタイム・テーブルを,以下のような形で考えてみようと思っています.

 年度         研究対象とする時期
1996年      1901〜1920年
1997年      1921〜1940年
1998年      1941〜1960年
1999年      1961〜1980年
2000年      1981〜2000年

上記の成果の如何を,2001年にまとめることができれば,と思います.研究会自体は月に1回,年に12回程度行うことにして,1回につき1〜3人程度の人間がその時代を対象とした研究内容についてレジュメを作り発表する,という感じではないかと思います.取上げる内容については思想を中心に考えたいと思っていますが,よほどのことがない限り原則として自由とし,各諸分野の横断的な交流と触発を生み出すことができれば,と考えています. なお,そうした研究活動の参考例としては,磯崎新や浅田彰らによるANY会議(1991〜2000)やNTT出版で出ている『テクノカルチャー・マトリクス』などがあります. 以上のような形で5年間,研究会を継続的に行いながら刺激的な議論を重ねてゆければ,と思います.関心のある人は一緒に参加して下さい.

ちなみに,私が去年まで主催していた研究会(新思想研究会)では,次のような思想家を取り上げて勉強していました.ジャック・デリダ,ミシェル・フーコー,レヴィ・ストロース,ポール・リクール,ロラン・バルト,ジャック・ラカン等.結果的に構造主義以降のフランス現代思想を閲覧するような形になりましたが,今回はもっと幅を広げた形で横断的に議論できれば,と思っています.




これまでの簡単な内容紹介

第0回 19世紀思想潮流の概説(1995/12/16)

20世紀におけるの思想の展開を準備し、その基盤を作った19世紀全体(1801〜1900)の時間フレームの概観と考察。マルクス主義の台頭や進化論(ダーウィン)の動きを中心に、19世紀半ばを基準として都市・建築の近代化が進んでいく状況を素描する。

第1回 1901〜1920年における思想潮流の概説(1996/1/13)

20世紀初頭(1901〜1920)を中心とする時間フレームの概観と考察。第一次世界大戦(1914〜1918)やロシア革命(1917)といった世界的な変動の中で、ウィーンを中心とした思想や芸術が多様に展開していく状況を俯瞰する。

第2回 生命主義の展開(1996/2/10)

今世紀初頭の思想状況をよりよく理解するためのキータームとしての「生命主義」(生命という概念を世界観の基本原理とし、目的論・機械論的な自然征服観に対立する思想傾向)。ぞれと同時に起こった日本における大正生命主義のフォロー。

第3回 論理と記号(1996/3/9)

20世紀初頭の数学基礎論、論理主義を中心とした思想の系譜について。ライプニッツにさかのぼる記号論理学の源流、および集合論の発生を基礎前提として、ヒルベルト、ポアンカレ、フレーゲ、ラッセル等による数学基礎論の展開とその思想的な影響を考察する。

第4回 パリを中心とする芸術活動(1996/4/13)

20世紀初頭のパリを中心とする諸芸術活動について。プルースト、サティ、コクトー、ピカソ、コルビュジェ等の動きを辿りながら、パリにおいて展開した絵画、文学、建築、音楽について社会的な動きをにらみながら振り返る。

第5回 還元と構成(1996/6/15)

現象学と抽象絵画、構成主義を中心とする諸芸術との関連について。フッサールにおける現象学がローマン・ヤコブソンを経てロシア・フォルマリズムに与えた影響を考察。また、シクロフスキーやパウル・クレーなど の人達が、様々な形でラディカリズムとしての現象学の問題系を共有していたことを明らかにする。

第六回  戦争について(96/7/20)

西谷修の「夜の鼓動にふれる―戦争論講義」をテキストに取り上げ、20世紀前半に起こった2度に渡る世界大戦を主要な考察対象としながら、戦争のもたらした思想の変容について議論する。

第7回  宗教は必要か?(96/8/24)

20世紀初頭に隆盛を見せた神秘思想について、グルジェフおよびシュタイナーの思想を中心に、宗教がもたらした様々な現象と諸問題について考察する。

第8回  社会と都市(96/10/19)

20世紀初頭の社会学について、その中心をなしたデュルケーム、ジンメル、ウェーバーの基本的な思想を概観し、同時にシカゴを中心に起こったアメリカの初期都市社会学について考察する。

第9回  都市計画その1(96/11/16)

20世紀の都市計画潮流を読み解く前提として、ギリシャの都市国家から近世の理想都市に至るまで、紀元前から19世紀にわたる都市計画の流れを総論的に俯瞰し、その計画論の変遷を考察する。

第10回 都市計画その2 (1996/12/21)

前回に引き続き、1920年前後までの近代都市計画思潮を概観し、同時に現代における都市のあり方を考察する。トニー・ガルニエやル・コルビュジェ等の都市計画案を学習しながら、磯崎新等による1960年代の都市論やコーリン・ロウ等の都市観などについても言及する。

第11回 フーコー・権力・知 (1997/2/8)

フーコーの権力論をめぐって、彼の晩年のインタビューを参照しながら考察・研究する。『監獄の誕生』において語られた支配権力の機能のあり方について、その身体論、都市論を学習し、国家や権力と名指されるものの全体がいかに調教の技法を組み立てていくかを考える。

第12回 フーコー・事態の描写から受容のメカニズムの解明へ (1997/3/22)

前回に引き続き、フーコーの権力論その他の思想について学ぶ。『性の歴史』以降のフーコーの思想展開について言及しつつ、1977年におけるドイツのクロワッサン事件に対するフーコーの反応を議論し、国家と個人の安全保障の関係が以下にあるべきかを考える。また、社会解放のためのシステムを意図した建築家の事例について、フーコーのコメントを確認し、その是非を改めて検証する。

第13回 機械台頭時代における知覚の変容 (1997/4/19)

20世紀前半、機械台頭時代とみなされる両大戦間の時期に起こった様々な芸術運動について、1920年から1940年までを中心に概観し、その中で身体の知覚がいかに変容していったかを演劇・建築・写真等を通して考察する。ここではバウハウスの諸活動やキースラーの舞台デザイン、フラーの建築案、あるいはマン・レイの写真等が議論された。

第14回 20世紀中庸の思想とテクノロジー (1997/5/24)

1920年から1940年までの思想状況について人文社会科学、自然科学、都市・建築関連の各々を概観しその連関性を考察する。また、主催者(南泰裕)がその作成を行った『インターコミュニケーション・20号』(NTT出版)の「20世紀スペクタクル年表」を参照しながらこの時代のテクノロジーの展開を学習し、合わせてハイデッガーの技術論およびカントの空間論を読み合わせる。なお、「20世紀スペクタクル年表」はNTT出版のホームページにて閲覧可能。

第15回 エヴァンゲリオン上映会 (1997/6/7)

エヴァンゲリオン(第1話〜第26話)を、三橋正邦氏によるレーザーディスクで約10時間かけて一気に鑑賞。20世紀研究会に挟み込まれた、オフ活動としての一度だけの「21世紀研究会」。

第16回 戦争の20世紀 (1997/7/12)

20世紀前半の戦争をめぐる状況について考察。19世紀末のビスマルクによる国際秩序が解体し、ロマンティックな戦争観を経て第一次大戦へと至る過程を、ベネディクト・アンダーソンやベンヤミン等の思想を参照しながら検証する。合わせて、発表者(堀江宗正氏)の『現代思想・1997年7月号』(青土社)における論文を紹介。

第17回 空間の文化史をめぐって (1997/8/23または24)(予定)

スティーブン・カーンの『空間の文化史・時間の文化史』をテクストに、20世紀における空間とメディア・テクノロジーの関連を考察する予定。




・これまでの参加者の専門分野および職業

建築、都市計画、宗教学、芸術学、美術、科学哲学、社会学、その他
ゲームデザイナー、建築家、学生、研究者、イラストレーター、その他

・これまでの参加大学

東京大学、早稲田大学、日本大学、日本女子大学、芝浦工業大学、その他




自己紹介
1967年生まれ.京都大学工学部建築学科卒業.現在,東京大学大学院博士課程修了.専門は都市・建築に関する計画理論および設計.

南 泰裕
この研究会への連絡は以下のアドレスにお願いします。
nam@blue.ocn.ne.jp



Mitsu HomePage