日本人は本当に農耕民族か?

 

Feb. 9, 2000

By Kazuhiro Shimoura

 

よく日本人は農耕民族であるから、集団指向でノーベル賞を取ったり独創的な発明をしたりする事は得意でない、独創性は狩猟民族である西欧人の専売特許であり日本人は集団の和を尊び、コツコツと改良したりすることの得意な民族である、という主張を聞く。大学工学部のボス的立場の教授がそのように発言されたりする。しかし事実は必ずしもそうではないと思う。ラグビー日本代表監督の平尾誠二氏がどこかに書いておられたが、日本人はチームプレーが下手なのだそうである。日本人が必ずしも農耕的で無い証拠を他にもいくつか挙げて見よう。

 

・極東の辺境にある島国まで、大陸を横切り、荒波を乗り越えてやってきた我々の先祖はよほど冒険心の強い人々だったのではないか?アメリカでも西部までやってきた連中は野心あふれる開拓者であった。

・西欧の町並みは、建物の色調や高さが揃っているのに対し、日本の町並みは全く周囲を考慮しておらず、その結果実に雑然としたものとなっている。

・NHKゴールデンアワーに放映される大河ドラマの主題は、豊臣秀吉とか、徳川家康とか、戦国武将である事がほとんどであり、当時大多数を占めていた農民が主題となる事は無い。時代の先端をいく人気俳優がチョンマゲ姿で出演して驚かされることも多い。

・農業の生産性が低かったころは西欧諸国においても農民が人口の大部分を占めていたはずである。例えばフランスの農業人口比率は日本よりも高い。

 

では、どうして日本人は自分達を農耕民族だと思い込もうとしているのだろうか?多分に戦前の軍国主義的体制や、戦後の共産主義的教育思想の影響を受けており、どちらも集団を重んずるものであった影響だと考えられる。また企業でも社員一丸となって製品を改良し生産に励む事が求められた。それには自分たちは農耕民族だと暗示をかけておいた方が都合良かったのではないだろうか? 廃墟のなかから復興を遂げるには、工業製品を改良して輸出し、稼いだ外貨で石油や工業資源や食料を輸入する必要があった。実際ブラジルなどへ移民した人も多かったのである。

 

逆に農耕文化が独創性に欠ける、という主張も疑わしい。当時の人々は、現代人より大きな家に住み、各種家電製品が無いにもかかわらず地域活動に参画する時間は現代人より多かった。無駄な資料作りや根回しに時間を費やすこともなく、深夜残業や過労死なども少なかった。ようするに巨大組織に押しつぶされずに、本当に必要不可欠な事に時間を費やすことができたのである。地方に伝わる伝統的な民謡や祭りなど、当時の文化的生産性は現代よりも高かったかも知れないのである。

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