海底1万マイル、ラスト1マイ

by  KAZUHIRO SHIMOURA

Feb. 28, 2000

 

ここ数年の通信事業をめぐる動きには非常に激しいものがある。その背景には、インターネット、光通信技術、無線通信技術などの急激な技術革新がある。私はこの5年間、超高速光通信技術の分野で仕事をしてきたが次のような変化があった。

 

5年前は日米間の最新の海底ケーブルの伝送容量は5ギガビットであった。KDDのソリトン研究チームは20ギガビットの長距離伝送実験に成功していたが、100ギガまではいかないだろうと思われた。現在では100ギガの10倍、1テラビットの長距離伝送実験に富士通、KDD、NEC等が成功している。

 

光ソリトン実験の中心は、中沢正隆氏をリーダーとする茨城県のNTTのアクセス網研究所と、鈴木正敏氏をリーダーとする埼玉県のKDD研究所であった。NTTは分割され、中沢氏は横須賀に移った。KDDの研究所は場所こそ同じであるが、研究所は別会社となり、さらに今秋にはDDIに吸収される予定である。

 

KDDは、海底光ケーブルを巡る国際通信事業者間の競争に巻き込まれ、売上高は激減し、とうとう会社が消滅する事態となった。NTTは持ち株会社と3つの会社に分割されたが、グループ全体としては極めて良好である。これは海底1万マイルの光ケーブル建設よりもラスト1マイルの建設の方が難しいという事実を示している。

 

日本の電話料金が高い責任の一端は電力会社にある。電力会社は電柱という資産を十分に生かさなかった。その原因は地域独占の見返りとして電気事業に業務を限定されていた事もあるが、多くは社内体制の不備によるものであった。縦割り組織において経営資源を情報通信分野に集約できなかったのである。

 

その結果NTTはラスト1マイルを独占し、長距離電話会社のみならず、PHSや携帯電話会社など競争相手からも回線使用料を徴収することができた。NTT以外の通信会社はNTTのアクセス網に依存せざるを得なかったのである。

 

今後、無線技術を用いた携帯電話、携帯端末が普及し、既存の電話線はADSL技術の適用により常時接続サービスに活用されると考えられるが、海底1万マイルとラスト1マイルの差がKDDとNTTという兄弟会社の命運を左右したのである。


http://www.asahi.com/0305/news/business05002.html

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