チーフ・ソフトウエア・アーキテクト

 Feb. 11, 2000

By KAZUHIRO SHIMOURA


マイクロソフトのビルゲイツ氏が、CEOをやめてチーフ・ソフトウエア・アーキテクト(CSA)になるという。1991年の8月に本店から岸和田営業所に異動となった私は少々失望し、それまで興味を持っていたパソコン関係の雑誌を良く読んだ。異動や昇進は人類には小さな一歩であるが、サラリーマンにとっては大きな一歩である。ちょうどWindows 3.1が発売された頃であったことを記憶している。若きゲイツ氏はInformation at your finger chip(指先で情報を扱う)という標語のもと、小型の情報端末(Wallet computer)から自由に情報を引き出せる世界についてのビジョンを語っていた。彼はあくまでも個人のビジネスや生活をエンパワーすることを求めた。


 その後、1995年頃からインターネットが爆発的に普及しだし、マイクロソフトは少々出遅れた。それでOSにブラウザを組み込み、先行するネットスケープをOSの独占力で踏みつぶした、という事で司法省から独占禁止法で訴えられている。それと前後してLinuxが拡大し始めた。これはオープンソースという新しいコンセプトのもとに開発されたOSであり、信頼性、継続性等で従来の開発手法を根本的に改良するものであった。

 こういった状況のもとでゲイツ氏は今後のマイクロソフトのソフトウエア戦略を練り直すため上記のポジションについたのである。ネットワークが出現した現在、情報の流れは、メディアから個人、といったものから、グループ内部での交換に移行している。WEBベースのグループウエア、特に目的志向型のメーリングリストは、まさに社会のオペレーティングシステムとなろうとしている。あらゆるグループ、組織がネット上に再生されつつあるのである。これはゲイツ氏には馴染みにくい領域だ。これからのソフトウエアは組織をエンパワーするために存在するのである。

 現在のソフトウエアは、まさに社会システムと不可分の関係となってきている。社会の活力や可能性を引き出すことが求められている。その意味で彼は同時に、ソーシャル・アーキテクトでもあるのだ。これが「プログラマの社会的責任」という新しい概念であり、ソフトウエアシステム上で集団的意志決定、すなわち政治、経済、法律、教育、等さえ遂行されようとしているのである。彼はいったい技術者に留まることができるのであろうか?


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