原電シナリオは熱交換原理に反している、原因調査を根本からやり直してください

敦賀2号機事故審査に関する原子カ安全委員会への要望書

原子カ安全委員長 佐藤 一男 様

1999年9月11日             

美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会

代表: 小山英之(堺市大美野133―6)  

去る7月12日に起こった敦賀2号機の1次冷却水流出事故は、多大な不安を人々に与えました。どこからどのような状況で流出しているのか、14時間半にもわたってまったく把握できない状態が続いたのです。幸いにも今回は、途中で流出ロが拡大することはなかったものの、実は、配管エルボ部のその付近は傷だらけでした。場合によっては、横割れが拡大していわゆるギロチン状に破断する可能性も否定できません。この部位の破断でもECCSが作動するような重要な事故も起こり得ると想定して、対策を立てるべきだと考えます。
この事故の調査結果が、8月30日に資源エネルギー庁(エネ庁)から貴委員会に報告されていますが、その熱疲労シナリオには根本的な矛盾があると私たちは考えます。ぜひ以下の問題提起を考慮して、慎重に事故調査の審査をしていただくよう要望します。

エネ庁の報告書では、再生熱交換器は設計値どおりではなく、「実運転データ」こ基づく評価値」(以下、評価値)なるものに従っているとしています。この実運転データとは、日本原子力艶電《原電)によれぼ、熱費換器内の流遠や流量の測定デ―タではなく、配管内温度の測定データだということです。
報告書では、バイパス流が設計値の23%ではなく40%だったと、その証拠に第2支持リングの隙間を測定すると2mmではなく3mmだったとしています。しかし、仮にその3mmが事実としても、それより上流側にあって支配的な第3〜第6支持リングの隙間は測定されず不明なため、それだけでは40%流の証拠にならないことは明らかです。
それよりも、熱交換に関して本質的な疑問が生じてきます。この中段熱交換器の充てん側(戻り側)入ロと出ロの温度差ほ、設計値の60℃から評価値では65℃に拡大しており、それに応じて抽出側(取出し側)から充てん側に渡る熱量がほぼ65/60倍に増加することになります。ところが、抽出側では熱交換に参加する流れの部分が77%から60%に減っており、それだけ熱効率が落ちるはずです。それなのにどうして、熱交換量が増えるなどということがあり得るのでしょう(抽出側流量が約5%増えていてもこの矛盾は解消しません)。
そもそも内筒を設けた動機は、熱交換に参加しないバイバス流を減らして熱効率を上げるためだったはずです。このことは、ここで働く熱交換の原理をよく反映しています。上記の結果がこの単純な原理に反していることは明らかです。
熱交換量が増えた、すなわち熱効率が上がったという事実を重視すれば、抽出側で主流の割合がむしろ増えたことになるほずです。その結果、主流とバイパス流との温度差は80℃に拡大するどころか、むしろ逆に60℃程度に低下していなければなりません。
そうすると今回の亀製は、60℃程度の温度差によって、それに恐らく何らかの未知の要
困が加わって生じたと考えるべきでしょう。要するに亀裂の原因はまだ何も解明されていないということです(設計値と評価値とで、熱伝達の基本的性質に関する変更はないことに留意してください。ついでに付加すれば、エネ庁の8月30日付資料4-11頁の流体の流れデータには整合性がなく非常に粗雑なものです。また4―15頁の図では、内筒の第2支持リングの位置が左右対称ですが、これはそのシナリオにとって致命的な欠陥になっています)。
事故原因調査がこのような状態であるにもかかわらず、原電は2重構造が原因であると勝手に「決定」し、再生熱交換器の交換を決定して、その旨を敦賀市長などに手紙で「通告」しています。エネ庁は、他の原発の熱交換器を直ちに検査する必要はないとしています。
しかし、原因が未解明なもとではとりもなおさず、すべての原発について、60℃程度以
上の温度差をもつ流れが交差するすべての部位について、ただちに検査をする必要があります。もちろん内筒をもつ再生熱交換器はただちに炉をとめて詳細な検査を行うべきです。

もし貴委員会が、このような恣意的で非合理な原因説に何も疑問を呈することなく黙認し、原電やエネ庁の動きを黙認しているとすれば、それは原子力の安全を求めるすべての国民の期待に反するものです。そこでぜひ次の点にっいて、適切な指示をだすかまたは見解を表明するかして、この事故調査に慎重に対処していただくよう要望します。

1.日本原電と資源エネ庁の8月30日付け原因脱は熱交換の原理に反しているので、調査を根本からやり直すよう指示してください。

2.原因が未確定なのに敦賀2号機の熱交換器を交換するという、日本原電の方針を直ちに 中止するよう指示してください。

3.独立の事故調査委員会をつくり、すべての会議と資料を公開にしてください。

4.原因が不明な現段階では、60℃程度の温産差に何か別の原因が加わって熱疲労が発生する可能性があると判断し、そのような該当箇所をもつすべての機器を直ちに検査するよう指示してください。内筒構造をもつ熱交換器はもちろん直ちに横査してください。

補足説明――基礎計算

このシナリオの動機は単純で、熱疲労を起こすためには、少なくとも80℃の温産差をもつ2つの流れが必要になるということです。そうでないと、65℃程度の温度差だけで熱疲労が起こるのでは、至る所に熱疲労が発生して困るからでしょう。しかし、80℃の温度差を恣意的的に想定し、それから3mmの隙間を導いた結果は、本文で述べたように矛盾に満ちたものになっています。
温度計算は単純なものですが、それに充てんラインが獲得した熱量計算を付加しておきます。

1.設計値の23%流のとき、主流とバイパス流の温度差が約65℃になること
この温産差をXとすると、比熱の温度による違いを無視し、かっ内筒から出た後の熱交換を無視する場台、次の式が成立。
250×0.23+(250−X)×(1−0.23)=200(胴出ロ温度)
これよりX=65(℃)

2.主流とバイパス流の温度差が80℃となるときのバイパス流の割合
このときのパイバス流割合をYとすると、先ほどと同じ条件で
250×Y+(250−80)×(1−Y)=200(胴出口温度)
これよりY=0.375すなわち 37.5% (83℃で約40%となる)。

3.充てんラインで水が1時間当たりに得た熱量
充てんラインデータ(資源エネルギー庁8・30資料4-11、4-12頁)
  入ロ温度 出ロ温度 温度差 定圧比熱 流量
設計値  130℃ 190℃  60℃  4.309 22.6t/h
評価値  115℃  180℃  65℃  4.259 22.9t/h

これより得た熱量は
設計値 4.309×60×22.6×1000=5,843,004kJ/h=1,395,578kcal/h
評価値 4.259×65×22.9×1000=6,339,522kJ/h=1,514,169kcal/h
すなわち、評価値の方が股設計値より約65/60倍の熱量を抽出ラインから受け取ったことになる。