抗議と訂正記事の申し入れ

2001年(平成13年)8月27日

産経新聞社 御中

抗議と訂正記事の申し入れ

第2東京弁護士会所属 弁護士 丸井 英弘


 

第1。新聞記事の存在と読者の知る権利の侵害


 貴社は、産経新聞平成 13年 (2001) 8月23日[木]付けの朝刊の主張欄で「芸能人の感覚まひは深刻 【薬物汚染】」と題して、別記の記事(以下本件記事という)を掲載しましたが、以下に述べるように、その内容には虚偽の事実が含まれており、読者の知る権利を侵害するものです。
 さらに本件記事は、大 麻について、無害論や有益論があるのにもかかわらす、一方的に有害論の立場にたって報道したものであ り、放送法第3条の21項3号「放送は真実を曲げないですること」、放送法第3条の21項4号「意見が 対立している問題については、出来る限り多くの角度から論点を明らかにすること。」、放送法第44条1項3号「我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること。」及 び放送法第1条2号「放送の不備不党・真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確 保すること」に各違反しています。本件は、新聞報道ですが、新聞の報道においても放送法の趣旨は遵守すべきと考えます。
 また、本件記事は、日本新聞協会の新倫理綱領で指摘されている「正確と公正」「人権の尊重」「独立と寛容」「品格と節度」の諸原則に各違反していると考えます。



別記


 芸能人の感覚まひは深刻 【薬物汚染】  人気タレントのいしだ壱成容疑者(二 六)=本名・星川一星=が大麻取締法違反 で逮捕され、改めて芸能人の薬物汚染が 問題になっている。とりわけ、青少年に 悪影響を与えた罪は重い。  
 いしだ容疑者は大阪松竹座に座長とし て出演中、宿泊先のホテルで大麻(マリフ アナ)所持の現行犯で逮捕された。当然な がら公演は中止され、関係者の迷惑だけ でなく、ファンの夢を踏みにじり、若い 世代の薬物汚染を助長する恐れが強い。 スターの反社会的な行動を「カッコい い」と、無批判にまねする若者も少なく ないからだ。  それにしても、芸能界は薬物に対する 認識が甘過ぎる。過去に逮捕された芸能 人は枚挙にいとまがない。大女優の息子 が再犯で執行猶予の甘い判決を受け、更 生のためとはいえ、劇団の研究生に迎え られた例もある。  
 大麻を乱用すると、興奮して感覚が異 常になり、幻覚や妄想を伴う精神異常が 起こる。奇妙な行動が目立ち、仕事も勉 強もやる気のない無動機症候群が特徴 だ。生殖機能にも支障をきたし、不妊、染色体異常もみられる。もっとも、大麻は独特の臭いがあり、 日本で摘発されるのは年間二千人前後 で、覚醒剤の一割程度に過ぎない。しか し、最近はナイジェリア・ルートの密輸 が急増し、六月には横浜港で、四十五万 回分の使用量に相当する乾燥大麻二百二 十七キロが押収された。  
 大麻は世界の薬物中毒者一億八千万人 の七割以上を占める。中毒性が比較的低いとして、オランダ、フランス、ドイツ は十八歳以上が少量を使用しても罰しな い政策に転じつつある。 逆にいえば、まん延しすぎて取り締ま れない事情もあるようだ。十五−十六歳 で大麻の経験者は、米国41%、英国、フ ランス各35%に達する。
 薬物犯罪の最高刑を比較すると、米 国、英国、フランス、日本が無期懲役、 中国、韓国、シンガポール、フィリピン、タイは死刑だ。厳罰を科すアジア諸 国の中で、刑罰の軽い日本は密輸組織に 狙われやすい。 薬物汚染を防ぐには、密輸・密売を断 つとともに有名人の影響を受けやすい青 少年の自制心を呼び起こすため、アジア 諸国並みの最高・死刑が適当ではない か。日本の法制と判決の甘さは犯罪抑止 の役割を果たしていない。



第2。本件記事の問題点


1。本件記事では、「大麻を乱用すると、興奮して感覚が異 常になり、幻覚や妄想を伴う精神異常が 起こる。奇妙な行動が目立ち、仕事も勉 強もやる気のない無動機症候群が特徴 だ。生殖機能にも支障をきたし、不妊、染色体異常もみられる。」と述べていますが、この根拠は不明でありかつ次に引用する権威のある研究報告にも反しています。

^ ラ・ガーデア報告
 1938年9月13日ニューヨーク市における大麻問題について、当時の市長フィヨレロ・ラ・ガーディアが、ニューヨーク医学アカデミーに対して、ニューヨーク市における大麻問題について科学的、ならびに社会学的な研究を置くなうように、要請した。そこで、薬理学・心理学・社会学・生理学などの権威者たち二〇人が参加して『ラ・ガーディア委員会』が作られ、さらに警官六人が常勤者としてこれを助けて、系統的な大麻研究がおこなわれた。そして、1940年4月から41年にかけての研究の結果が1944年に発表された。そこでは、次のような結論が出されている。


  @大麻常用者は、親しみやすくて社交的な性格であり、攻撃的とか好戦的には見えないのが普通である。
  A犯罪と大麻使用との間には、直接の相関関係がない。

  B性欲を特別に高めるような興奮作用はない。

  C大麻喫煙を突然中止しても、禁断症状を起こさない。

  D嗜癖を起こす薬ではない。

  E数年に渡って大麻を常用しても、精神的・肉体的に機能が落ちることはない。
  (小林司著『心に働く薬たち』一七二〜一七三頁参照)
 
_ インド大麻薬物委員会報告
 1893年から1895年にかけて行なわれたイギリス政府のインド大麻薬物委員会の報告は、全巻、3,698ページからなっており、現在までに行われた大麻の研究の中でも群を抜いて完全で組織的なものである、といわれている。
 アメリカ政府の国立精神衛生研究所の主任研究員で臨床医でもあるトッド・ミクリヤ医学博士は次のように指摘されている。
 すなわち、「その内容の稀少性、そして多分その恐るべき膨大な規模のため、同報告の貴重な情報は、この問題に関する現代の文献の中に取入れられていない。これは実に不幸なことだ。というのも、今日アメリカで議論されている大麻に関する論争の多くは、このインド大麻薬物委員会の報告にすでに記述されているからだ。 
 イギリス人植民地官僚による文書の、時の流れにも色あせない明晰性に驚嘆するとともに、その努力を評価したい。もし現代において、この報告の中で実現されているような厳密さと全般的な客観性の基準に達する諸研究グループが出来るなら、どんなに幸いなことだろう。」
 そして、この委員会の報告は、結論として次のように述べている。以下は、ミクリヤ医学博士がまとめられた論文の訳である。
 『委員会は、大麻に帰せられる影響に関して、全ての証拠を調べた。その根拠と結論を簡潔に要約するのがいいだろう。時々の適量の大麻使用は有益であるということがはっきりと確証された。しかしこの使用は薬用効果として考えられている。委員会が今、注意を限定しようとしているのは、むしろ大麻の通俗的で一般的な使用である。
 その効果を、身体的・精神的・または倫理的種類の影響に分けて考察すると便利である。

 身体的影響
身体的影響に関して言えば、委員会は、大麻の適量の使用は実際上有害な結果を全く伴わないという結論に達した。中には特異体質が原因で、適量の使用ですら有害になる例外的なケースもあるかもしれない。恐らく例外的な過敏者の場合、いかなる物の使用も有害でないとはいえないのだ。また特別に厳しい風土や激しい労働と長時間太陽にさらされているような環境においては、人々が有益な効果を大麻の習慣的な適度の使用のためだと考えているケースも数多くあり、この一般の考えが事実に基づいたある根拠を持っていることを示す証拠がある。一般的に言って委員会の見解では、大麻の適度の使用はどんな種類の身体的な害の原因ともならない。しかし、過度に使用すれば害を生じさせる。他の陶酔物のケースについてと同様、過度の使用は体質を弱める傾向があり、また使用者をより病気にかかりやすくさせる。かなりの証人達によって、大麻が原因だとされている特定の病気についても、過度の使用によってもぜんそくを生じさせないことがわかった。ただし、前述したように、体質を弱めることによって間接的に赤痢を生じさせるかもしれない。そしてまた、主に煙を吸込む行為によって気管支炎を生じさせうるということもあるかもしれない。

 精神的影響
 大麻の精神的影響と言われているものに関して、委員会は、大麻の適度の使用は精神に有害な影響を与えないという結論に達した。ただし、特に著しい神経過敏な特異体質のケースでは、適度な使用の場合でも精神的損傷がもたらされることはある。というのは、このようなケースでは、ごくわずかの精神的刺激や興奮がそのような影響を及ぼすことがあるからだ。しかしこれらの極めて例外的なケースを別にして、大麻の適度な使用は精神的な損傷をもたらさない。これは過度の使用の場合とは異なっている。過度の使用は精神的な不安定の兆しを示し、それを強化する。

 倫理的影響
 大麻の倫理的影響に関する委員会の見解によると、その適度の使用はいかなる倫理的損傷ももたらさない。使用者の人格に有害な影響を与えると信じるに足る妥当な根拠は存在しない。他方で過度の消費は、倫理的な弱さや堕落の兆しを示し、強める。

  討  議
 被験者を全体的に観察してみると、通常これらの薬物の使用は度を過ごすことはなく、極端な使用は比較的少ないということを付け加えておくべきだろう。実際上、適度な使用は有害な結果を生み出すことは全くない。最も例外的な場合を除けば、適度な使用を常習的に続けても悪影響が出るいうことは認められない。
 過度に使用した場合でも、はっきりした悪影響が認められない場合が多くあるが、そうした使用はかなり危険だということをやはり認識すべきだろう。しかし、過度の使用が引き起こす悪影響はほぼ例外なく使用者自身に限られており、社会に対する影響を認識することはほとんどできない。大麻の影響を観察することがほとんどできなかったということが、今回の調査の最もはっきりした特色である。社会の各層から選ばれた人達の多くが大麻の影響を見たことが全くないと証言していること、そうした影響をきちんと説明できるほど記憶がはっきりしている者の数が非常に少ないこと、影響が認められるといわれたケースを調べてみると、直ちにそうでないことが判る場合が非常に多いこと、これらの事実を総合してみると大麻が社会に及ぼす影響はほとんどなかったということを最もはっきりと示している。」

 更に、大麻の管理政策のあり方について、次のような、貴重な提言をしている。
『インド大麻薬物委員会は、薬物規制政策における政府の役割に関して、哲学的または倫理的観点からの考察をふまえて、正面から取り組んだ。そして、薬物取締り法は、贅沢取締り法として位置づけられ、その実施の可能性と個人及び社会への影響という観点から考察された。 ある著名な歴史家(脚注:J・A・フロウドの英国史、第二版、第一章五七ページ)は「いかなる法も、一般大衆の実用レベルの上にあっては何ら役にたたず、そうした法律が人間生活の中に入り込めば入り込むほど、違反の機会が増える」と述べている。こうした表現が封建制度下の英国で真実であるならば、今日の英領インドにおいては更に真実となる。この国の政府は内なる勢力からうまれたものではなく、上から与えられたものであって、こうした父子主義に基づく政治制度は、世論が形成される過程や国民のニーズが年々はっきりと表されるようになってくると、全く観念的なものになってしまう。父子主義は一六世紀の英国や、インドのある地方における併合直後の初期の開発段階においてはふさわしいものであったといえるだろう。もちろんインドの立法府においても、幼児殺しやヒンズーの寡婦を火あぶりにする習慣に関する法律に見られるように、一般的には受入れられない倫理基準を時として予想することがあっただろ う。しかし、こうした法案は、政府の影響力の及ぶ事情において倫理に関する一般の考え方をどうしても変えなければならないという感覚と、時間の経過とともにこうした法案が社会の知識人から同意を得られるという確信から議会を通過してしまった。ミルはその「政治経済学」の中の一章で不干渉の原則を論じているが、それによると政府の干渉には二つのタイプがあるという。即ち、権力による干渉と勧告または情報の公表による干渉である。前者のタイプの干渉については、次のような所見が述べられた。即わち、「権力による干渉は、もう一方のそれと比べて合法的行為の範囲が非常に限られていることは、一見して明らかだ。如何なる場合においても、権力による干渉はそれを正当化する必要性が権力によらない干渉に比べより強くあるし、また人間生活においてはそうした干渉をしてはならないところが多くある。社会の団結に関していかなる理論を取ろうと、またどんな政治制度のもとで生活しようとも、いかなる政府も、それが超人間的存在のものであれ、選ばれた者のものであれ、一般人のものであれ、絶対に踏込んではならない部分が人間一人一人のまわりに存在する。思慮分別ができる年齢に達した人間の生活には、いかなる個人または集団からも支配されない部分がある。人間の自由や尊厳に全然敬意を払わない者が投げかける疑問などを相手にしない部分が人間の存在の中にはあり、またなければならない。要は、どこにそうした制限を置くかということだ。自由に確保されるべき領域は、人間生活のどれほど広い分野を占めるべきなのか。その領域は、個人の内面であれ外面であれ、その人の人生にかかわる全ての分野を含み、個人への影響は、規範や倫理的影響を通してのみにするべきだ、と私は理解している。
 特に内的意識の領域、つまり思考・感情・ものの善悪・望ましいものと軽蔑するものとに対する価値観に関しては、それを法的強制力か単に事実上の手段によるかは別にして、他者に押し付けない、という原則が大切だと私は思う。そして例外的に他者の内的意識や行動を規制する場合には、立証責任は常に規制を主張する側にある。また個人の自由に法律が介入することを正当化する事実は、単なる推定上のものであってはならない。自分がやりたいと考えていることが押えられたり、何が望ましいのかという自分の判断と逆の行動をとることを強いられたりすることは、面倒なことだけではなく、人間の肉体または精神の機能の発達を、感覚的あるいは実際的な部分にかかわらず、常に停止させる傾向がある。
各個人の良心が法的規制から自由にならなければ、それは多かれすくなかれ奴隷制度への堕落に荷担することになる。絶対に必要なもの以外の規制は、それを正当化することはほとんどない」この言及を長々と引用した理由は、この見解が、政府が大麻薬物を強権をもって禁止すべきか否かを決定するための指導原則をはっきりと説明していると、本委員会が信ずるからである。』
 私も、大麻規制のあり方としては、このインド大麻薬物委員会つまり、ミルの見解は、日本国憲法の基本精神と同じであり、それを具体的に表現したのが、第一三条の幸福追及権であると考える。なお、インド大麻薬物委員会は、薬物(具体的には、大麻のことであるが)の使用を贅沢と位置付けているが、この贅沢という意味は、精神的幸福感という意味である。
従って、大麻規制のあり方としては、ミルのいう政府の干渉の二つのタイプのうち、強制的な権力による干渉ではなく、勧告または、情報の公開という方法が、日本国憲法の趣旨に合致するのであり、現行の懲役刑という大麻の規制方法は、国民の幸福追求権を否定し、、更には、自由な精神のありかたすなわち、思想・良心の自由を否定するものである。

` WHOのレポート(No.478,1971年)
このレポートは、1970年12月8日から14日まで11人の世界的な専門家が討議のうえ作成したものである。そこでは、大麻の作用について、次のように報告されている。
  
@ 大麻を使っていると、それが飛び石になって、ヘロインその他の薬の中毒に移っていくという説 (踏み石理論)は、確かでない。なお、この踏み石理論は、アメリカで、禁酒法時代に、アルコールを取り締まる根拠として、詰まり、アルコールが、ヘロインなどの薬物中毒の原因になるとして、主張された理論である。
A 奇形の発生はない。
B 凶暴な衝動的行動は、稀である。
C 犯罪と大麻の因果関係は、立証されていない。
D 耐性の上昇、すなわち、同じ効果を得るのに必要な使用量の上昇は、ほとんど見られない。
E 身体的依存すなわち、その使用を止めると、汗が出るなどの禁断症状はない。
F 多くの常用者には、精神的依存が見られる。しかし、この精神的依存いうことは、例えば、珈琲や煙草、お酒、さらには、お菓子が好きな人が、また、飮みたいなとか、食べたいなと感じる気持ちのことであって、大麻だけの特徴ではないし、格別、刑事罰を持って規制しなければならない作用ではない。かりに、この精神的依存性が、刑罰を科する根拠にされることがあれば、例えば、ご飯が好きな人は、ご飯に精神的に依存しているということになり、ご飯禁止法を作らなければならないことになってしまうのであり、この考えが、極めて不合理なことは、明らかである。
(小林司氏『心に働く薬たち』 180〜181頁参照)

a 大麻と薬物の乱用に関する全米委員会報告
ニクソン大統領は、1971年に前年に議会を通過した薬物規制法に基ずき前ペンシルベニア州知事のロイヤルド シェイファを委員長とする大麻と薬物の乱用に関する委員会を設置した。この委員会は、保守派といわれる13人の委員によって、構成されており、1年に及ぶ調査の後、1972年3月に『マリファナ:誤解の兆し』と題するレポートを発表し、更に1973年には、最初のレポートと結論を同じくする最終報告を提出した。この報告の結論であるが、生田典久氏が、ジュリストのNo.654の42〜43頁で、次のように簡潔にまとめられている。
  
@大麻には、耽溺性がない。
A大麻使用と犯罪またはその他の反社会的行動との関連性はない。
B大麻使用は、ヘロインなど危険な薬物への足掛かりにもならない。
C長期間の大麻常用者には、ある程度の耐性が生じることがあり得るが、その程度は、煙草以上のものではない。
D大麻の使用者も大麻自体も公衆の安全に対して、危険な存在を成しているとはいえない。

b フランス国立保健医療研究所の報告
 1998年6月17日付けパリ発の 共同通信ニュース速報 では、「 題名 : 酒、たばこは大麻より危険  仏研究所が調査報告」との見出しで次のように報じている。
 『十七日付のフランス紙ルモンドは、国立保健医療研究所のベルナールピエール・ロック教授のグループがこのほど、アルコールやたばこは大麻より危険だとの研究報告をまとめた、と一面トップで報じた。
 同紙によると、これは「麻薬の危険度調査」で、調査対象の各薬物について「身体的依存性」「精神的依存性」「神経への毒性」「社会的危険性」など各項目ごとに調査した。
 その結果、アルコールはいずれの項目でも危険度が高く、ヘロインやコカインと並ぶ最も危険な薬物と位置付けられた。たばこは鎮静剤や幻覚剤などと並んで、二番目に危険度の高いグループ。大麻は依存性や毒性が低く、最も危険度の小さい三番目のグループに入った。
 調査は、フランスのクシュネル保健担当相の指示で実施された。同紙は「この研究結果は、ソフト・ドラッグ(中毒性の少ない麻薬)消費の合法化の是非をめぐる論争に火を付けるだろう」と報じている。』

c米国立保健研究所(NIH)と米科学アカデミーの報告
 1999年5月22日付けの朝日新聞は、次のように報じている。
「米政府は21日、マリファナを医療研究用に販売するためのガイドラインを発表した。マリファナは、エイズやがんの痛みなどにも有効とされ研究者は研究目的が承認されれば、購入することができるようになる。入手を容易して研究を進めるのがねらいだ。ガイドラインの発効は12月で、価格は未定という。マリファナは、カルフォルニア州など数州などは医療用の使用を認めているが、連邦法は禁じている。これまでは厚生省の厳重な管理の下、ミシシッピ大学で栽培され、連邦政府の予算で研究が認められてた研究者に無料で配付されてきた。今後は身元のはっきりした研究者であれば、購入できる。マリファナの有効性については、米国立保健研究所(NIH)が1997年8月米科学アカデミーが今年3月、エイズやがんに伴う痛みなど、ほかに治療法がないような症状に対して効果があり、かつ目立った依存性もないとの報告をまとめている。医療用のマリファナは、患者団体や研究者から解禁を求める声が出る一方、乱用のおそれもあるとして、議論の的になっており、政府は慎重な態度をとってきた。」

2。本件記事は、「大麻は世界の薬物中毒者一億八千万人 の七割以上を占める。」と報道しているが、この内容は大麻使用者をモルヒネ・コカイン・覚醒剤など薬物中毒者と同一視するものであり、大麻使用者の名誉や信用さらには憲法第13条で保障されている「幸福追求権」を侵害するものである。

^ そもそも、大麻は麻薬ではない。
 麻薬という言葉は、1924年(大正4年)にジュネーブで締結されたアヘン条約の批准に伴い、国内法令としての内務省例7号「麻薬取締規則」が昭和5年に制定された際にできた言葉であって当事業界紙で麻薬とは何だと騒がれたそうである。当時日本では問題になっていたのは、アヘン(その原料はケシ)、ヘロイン等のアヘン系薬物であり、「アヘン類似品」「麻酔薬」「危険薬品」という名称も使われていたのであって、「麻薬」という言葉は「麻酔薬」からでてきたものと思われる。
 つまり「麻薬」の「麻」はアヘン系薬物の「麻酔薬」の「麻」のことであり、「大麻」の「麻」は「アサ」のことであって両者は何の関係もないのである。
 
_さらに麻薬の薬理学的定義からしても、大麻は麻薬ではない。
 麻薬を薬理学的に定義すれば次の様にいいうるであろう。
 「強い精神的および肉体的依存と使用量を増加する耐性傾向があって、その使用を中止すると禁断症状が起り、精神及び身体に障害を与え、さらには種々の犯罪を誘発する様な薬物」
 しかしながら、大麻は以上に述べた研究報告から明らかな様に薬理的にも社会的にも麻薬では決してなく、また汚染と評価されるような有害なものではない。
 大麻が薬理作用の上でも麻薬ではないことは、医学博士の小林司氏が「心にはたらく薬たち」の3頁のまえがきで、「大麻(マリファナ)が麻薬だと誤解している人も多い。こんな人たちの疑問に答えたいと思って、私はこの本を書いた。」で指摘されているとおりである。
 この見解は医学者の常識であり、「マリファナ」レスター・グリンスプーン、ジェームズ・バカラー著 青土社発行の帯では、次の様にこの本(以下本書という)を紹介している。
「それでも マリファナは麻薬なのか?  医師としての厳正な目でマリファナの薬理を分析し、マリファナが安全な鎮吐・鎮静剤であり、ガン治療の副作用の緩和、緑内障の進行の抑止、アトピー性皮膚炎の治療などに著しい効果の認められる優れた医薬であることを実証して、その豊かな可能性を告げる、衝撃のドキュメント。」
そして、著者のグリンスプーン医学博士は本書のまえがきで次のように述べている。
「1967年にマリファナの研究に手を染めたとき、マリファナが有害な麻薬であって、多くの愚かな若者たちがその害にたいする警告に耳を傾けようとしない、あるいは、それを理解できないでいるのは不幸なことであるという考え方について、私はいささかの疑念ももちあわせていなかった。私は、科学や薬学の専門家の文献や、そうした専門知識をもちあわせていない人たちの手になった文献を詳しく調べていったのだが、3年も経たないうちに私の考えは変わりはじめた。アメリカに住んでいる多くの人たちと同じように、私もまた洗脳されていたのだという事実を理解するにいたったのである」
 本書は1993年にYale University Pressより出版された「Marihuana,theForbidden Medicine」の翻訳書である。本書はマリファナすなわち「大麻の薬効」について書かれたものであり、その歴史や、大麻を使った場合の利益と危険の比較考量、医薬品としての過去と、将来についての可能性を、患者や医師の体験談を交えながら詳しく説明している。 著者の医学博士レスター・グリンスプーン氏は、ハーバード医科大学精神医学科准教授であり、マリファナ研究の第一人者として広く知られている。特に1971年に出版された著書「マリファナ再考 (Marihuana Reconsidered)」は全米でベストセラーを記録し、マリファナの医学的、精神学的、社会的、人類学的要素、そして法律的な側面をとらえた最も権威のある研究であると高い評価を得ている。1977年に改訂され後、本書の出版に続いて1994年に第三版が出ている。
一方のジェームズ・バカラー氏もまた、ハーバード医科大学精神医学科の教師であり、「ハーバード・メンタル・ヘルス・レター」編集委員を務めている。グリンスプーン氏とともにマリファナをはじめとする「精神変容ドラッグ」の研究に従事しており、2人の共著には「サイケデリック・ドラッグ再考(Psychedelic Drugs Reconsidered)」、「コカインとその社会的変遷Cocaine: A Drug andIts Social Evolution)」、「「自由社会におけるドラッグ管理(DrugControl in a Free Society)」などがある。

3。さらに、本件記事は、続けて、「薬物犯罪の最高刑を比較すると、米 国、英国、フランス、日本が無期懲役、 中国、韓国、シンガポール、フィリピン、タイは死刑だ。厳罰を科すアジア諸 国の中で、刑罰の軽い日本は密輸組織に 狙われやすい。 薬物汚染を防ぐには、密輸・密売を断 つとともに有名人の影響を受けやすい青 少年の自制心を呼び起こすため、アジア 諸国並みの最高・死刑が適当ではない か。日本の法制と判決の甘さは犯罪抑止 の役割を果たしていない。 」と述べているが、本件記事は、薬物犯罪の薬物の中に大麻を入れているのであるから、この論述は大麻取締法違反事案を死刑にせよという主張であり、まさに大麻取締法違反事件の当事者の人権を否定するものである。

第3。結論

 以上のとおり、本件記事は、読者の知る権利と大麻取締法違反事件関係者の人権を否定するものですので、至急訂正記事を掲載していただきたい。

なお、本文書に対する回答を本文書配達後、1週間以内に下記イーメイルアドレスにいただきたい。

  is2h-mri@asahi-net.or.jp




[GO TO TOP]