長野地方裁判所伊那支部 昭和60年(わ)第6号大麻取締法違反被告事件 公判資料

昭和61年9月10日開催の第10回公判調書 証人尋問速記録から

証人 市川 和孝 厚生省麻薬課長(証人尋問当時)

立証趣旨 大麻取締法の立法目的・理由

 

裁判長     平湯 真人

裁判所書記官  北原 由加利

裁判所速記官  生田 穣一

裁判所速記官  中倉 康夫

検察官     長崎 誠

弁護人     丸井 英弘

 

弁護人

 まず、地位の関係についてお聞きしますが、麻薬課長になられたのはいつからでしょうか。

証人

 昨年の8月27日付けでこざいます。

弁護人

 それでは、厚生省へ入省されて以降、麻薬課長になられるまでの経歴を簡単におっしゃっていただけますでしょうか。

証人

 私は、昭和39年4月に厚生省に採用されました。入りましてから以降、厚生省の薬務局それから環境衛生局それから外務省に出向致しました。その後又薬務局に戻りました。それから環境庁に出向いたしまして、その後生活衛生局ー環境衛生局と同じでございますが、名前が変わっておりました。ーへもどりまして、それで生活衛生局のほうから昨年の8月27日付をもちまして薬務局麻薬課に配置替えになったわけです。

弁護人

 今までのお仕事の中では主にどんな分野のお仕事をされて来られたのですか。

証人

 私は、食品衛生に関する仕事が比較的長かったと思います。

弁護人

 食品衛生といいますと具体的にはどういうことなんでしょうか。

証人

 私は、食品化学課というところにおりましたが、そこでは食品添加物だとか残留農薬の規制に関する仕事を主としてはやってまいりました。

弁護人

 麻薬課長は昨年からなられたということですが、この麻薬課長の所管内容はどういうことなんでしょうか。

証人

 麻薬課の所管業務としては、いくつかございますが、一つは麻薬取締官事務所というものがございますので、そこの事務所の業務の統括運営と申しますが具体的には予算関係、それから人事関係の処理その他事務所運営に関しますさまざまな、例えば共済の関係とかそういった業務の処理がございます。

 それからアヘンの関係でございますがアヘンを私共のほうで専売といいましょうか、現在のところ国で外国から買付を致しましてそれを医薬品の製造業者に売渡をするというふうな関係の業務が一つございます。

 その他麻薬関係の行政一般にわたりまして私共のほうで麻薬覚醒剤を含めまして取扱ってるということでございます。

弁護人

 全国に麻薬取締官事務所というのがありますね。

証人

 はい。

弁護人

 その統括をされているということですか。

証人

 はい、そうでございます。ただ、私共は捜査の関係については直接指揮等は一切致しておりません。

 あくまで事務所の運営に要する人件費から始まりまして設備整備費だとか、それから諸々の活動の為の旅費だとかそういった予算の関係を主として担当致しております。

 もう一つは事務所職員の人事に関することを担当致しております。

弁護人

 この大麻取締法等の規制に関与する麻薬取締官は、今何人くらいいるんですか。

証人

 現在取締官の定員と致しましては、170名ということでございます。

弁護人

 その取締官は大麻の取締だけじゃないんですね。その他のいわゆる麻薬取締法違反事件についても捜査をすると。

証人

 そうでございます。麻薬それから大麻、覚醒剤といいう範囲を所掌しております。

弁護人

 証人はこの大麻取締法違反事件で具体的にどういうような違反が多いのか、違反の内容とかそれから実際その違反者の中で精神的もしくは肉体的な被害が出たのかとか、第三者に被害が出たケースがあるのかとかいうことについての情報は御存じですか。

証人

 はい。実際に大麻取締法違反で検挙されるといような事例におきましては、やはり所持をしていたというような事例が多いのではないかと思いますが、具体的に今御指摘ございましたような被害の事例というのも例数はそう多くはございませんがやはりこれまでもございます。

弁護人

 次の質問に移りますが、現在の大麻取締法の制定に経過等についてお聞きしたいんですけれども、これは厚生省が所管の法律と考えて宜しいですね。

証人

 はい、結構でございます。

弁護人

 そうしますと、立法の際の提案者といいますかそれは厚生省で考えて宜しいですか。

証人

 ..........

弁護人

 政府提案の場合は厚生省のほうで原案を作られるということで宜しいわけでしょうか。

証人

 そうでございます。

 原案は厚生省で作りまして......。勿論法案でございますから各省の了解のもとで、ということは当然のことでございますけれども。

弁護人

 現行の大麻取締法ですが、途中で改正もあったようですが、これは昭和23年に制定されたものですね。

証人

 ええ、現行法は23年に制定されております。

弁護人

 それ以前は大麻規制はどのようになっていたんでしょうか。

証人

 これは私も文献的に調べる以外に手がないんでございますけれども、ずい分古いようでございまして、一番初めは大正14年に通称第二アヘン条約と言われます条約が出来まして、それで大麻の規制をしようという条約が出来ましたのを受けまして、昭和5年に当時の麻薬取締規則というものの中にこの大麻の規制が取り込まれたと。

 ですから昭和5年が一番初めということでございまして、それ以降昭和18年頃に薬事法という法律の中に法律が整備されまして取り込まれたというふうに文献は示しております。

 それ以降昭和20年になりましてポツダム省令で国内における大麻を含めまして、一切禁止の措置になったと。

 それでは産業上非常に困ってしまうということがありまして、昭和22年に大麻取締規則というものが出来たと。

 さらにその大麻取締規則が昭和23年に至って現行の大麻取締法というものに変えられたということでございます。

弁護人

 すると、昭和4年の麻薬取締規則は第2アヘン条約を受けてできたものであるということですか。

証人

 文献上そのような経過の記録になっております。

弁護人

 そうしますと、国内的にわが国で、当時大麻の使用によってなにか弊害というものがあったから出来たのか、それとも国際条約を批准したという関係から一応作ったのかその辺はどうなんでしょうか。

証人

 これは、多分当時国内において大麻の乱用がみられたということはなかったんではないかと思います。

 むしろその国際的な条約を受けましてそういう規定が出来たというふうに考えます。

弁護人

 昭和5年の麻薬取締規則で規制していたのはインド大麻と言われるものだけであったんではないですか。

証人 

 そうでございます。インド大麻というふうになっていたと思います。

弁護人

 規制内容は具体的にはどういう規則だったんでしょうか。

証人

 詳細については、私、記憶ございません。

弁護人

 規制内容としては、インド大麻を輸出入する場合にそれを内務大臣に届けるというような、いわば届出制のような規制じゃなかったんでしょうか。

証人

 大変恐縮でございますが、私その規制の具体的な内容につきましては............。

弁護人

 国内で栽培もしくは野生ではえておりますいわゆる麻ですけれども、これは規制の対象にはなっていたんでしょうか、昭和5年の規則では。

証人

 当時は規制の対象になっていなかったと思います。

弁護人

 ところで、昭和23年に現行法が出来たわけですが、これは具体的にはどういうようないきさつから立法されたんでしょうか。

証人

 ポツダム省令というものをうけ、22年に大麻取締規則というものが出来たわけですが、当時そういった法律を更に整備していくという過程の中で、法律化されたのではないかというふうに思うんでございますが、実はその規則ができまして、それが更に法律に形を整えられていったという過程の記録等につきまして、私今回かなりいろいろ課の者達に手伝ってもらいまして捜してみたんですが、その間の経過は記録文書上かならずしもはっきり御説明できるものが見当たりませんでした。

弁護人

 実は、私が読んだ資料の中では内閣法制局長官をされていた林修三さんが「法律のひろば」で大麻取締法の制定当時の事情を書いてる文献を読んだことがあるんですが、私の記憶ではいわゆる連合国占領国ですね、GHQの強い要望で出来たんだと、日本国政府としては特別に規制するという必要性というのは特別にはなかったんだ、というような趣旨ですけれども、その辺はどうなんでしょうか。

証人

 私も林修三さんという方が書かれた文章は読んだ記憶がございますが、戦後ポツダム省令等に基いて作られました各諸法令をさらに整備していくという過程の中で、大麻取締法という法律がいるかどうかということについての御議論があって法制局サイドではその必要性について若干疑問を持ったと。

 しかし、当時の厚生省はまだそこまでの踏ん切りがつかなかったということ、しかし今になってみるとそこまでしなかったほうが良かったんじゃないかと、いうような一つの随想といいますか、エッセイのようなものを読んだことは記憶がございます。

弁護人

 昭和20年から23年当時ですけれども日本国内で大麻の使用が国民の保健衛生上問題になるというような社会状況はあったんでしょうか。

証人

 20年代の始め頃の時代におきまして大麻の乱用があったということは私はないんではないかというふうに思います。

弁護人

 そうしますと、この大麻取締法を制定する際に、大麻の使用によって具体的にどのような保健衛生上の害が生じるのか、ということをわが国政府が独自に調査したとかそういうような資料はないままに立法されたと考えて宜しいわけですか。

証人

 これは推定するほかないんでございますが、そういう資料はなかったんではないかと。

 むしろこの法律そのものが出来て来る過程というのは、先程申し上げましたように昭和5年に遡るという歴史がございますから、それではなぜその前にそういった第2アヘン条約と言われるようなものが出来て来たかと、いうところにこの法律が出来て来た本当の背景があるんじゃないかというふうに私は考えております。

弁護人

 すると、証人のご理解では第2アヘン条約の批准がきっかけになっているというよな御理解ですか。

証人

 批准がきっかけになっているんですが、そもそもそういう条約が出来た背景にはやはり何かこれも文献的に見ますと、当時そういうものが乱用されてた国では乱用による弊害というものが、少なくとも経験的に認識されてこういうものを国際的に規制する必要があるんじゃないかという主張があり、そういう主張が各加盟国で合意されたという背景があるのではないかというふうに思います。

弁護人

 この大麻ですけれども、医薬品として認められていたということはなかったでしょうか。

証人 

 かっては、医薬品をして認められていた時期があったようでございます。

弁護人 

 それは、いつからいつまでですか。

証人

 私ちょっとその当時は明示出来ませんですが、1950年代か60年代の初めくらいまではそういうものが認められていたということは言えるかと思いますが、そのスタートがいつになってるか、私はっきり記憶ございません。

弁護人

 その医薬品として認められていたものは、インド大麻チンキと言われてるものじゃありませんか。

証人

 はい、インド大麻が原料で作られていたと思います。実際のものはですね。

弁護人

 そうすると、国産の麻は特に規制はなかったわけですから、特別に医薬品としてもし使うとしても民間の漢方薬程度で使っていたとこういう程度でしょうか。

証人

 それは戦前においてという意味でございましょうか。

 まあ、そう推定するほかはないと思うんです。現実にそういうものが国産のものが使われていたかどうかということは、私ちょっと承知致してしておりません。

弁護人

 証拠等関係カード、弁護人請求証拠番号16「心にはたらく薬たち(小林 司)」と題する書籍の192ページを示す。

 まず、証人はこの本を御覧になったことありますか。

証人

 ございません。

弁護人

 ここに『1895(明治28)年12月17日の毎日新聞にはこんな広告がのっている。「せんそくたばこインド大麻煙草」として「本剤はぜんそくを発したる時、軽症は1本、重症は2本を常の巻煙草の如く吸うときは、即時に全治し亳も身体に害なく抑も喘息を医するの療法に就て此の煙剤の特効且つ適切はすでに欧亜医学士諸大家の確論なり」』とありますが、今言ったような形で宣伝されて使われていたということは御存知ないですか。

証人

 私ちょっと承知しておりませんです。

弁護人

 で薬局方では、昭和27年頃まで、インド大麻は医薬品として認められていたわけですね。

証人

 .....................。

弁護人

 それで宜しいですか。

証人

 1950年代から60年代の初めくらいまではなかったかと思うんですが。

弁護人

 1951年の第5改正日本薬局方までは収載されていたというようなことはどうですか。

証人

 ...............。

弁護人

 それで第6改正日本薬局方おいて削除されたと。

証人

 ちょっとお答えになるかどうかあれですが、薬局方は最近では大体5年に一遍くらいずつ変えられてるようですが、歴史的に見ますと大体これは規定があるわけじゃないですが、当時は多分10年に一遍くらいずつ変えられていたと思います。

弁護人

 この第6改正日本薬局方で、インド大麻が削除された理由なんですけれども、それご存じですか

証人 

 私、直接承知致しておりません。

弁護人

 私、今引用しました小林司さんの記事ですと、効果はあるし身体に害もないんだというような記載になっているもんですから、こういうものを削除するには、それなりの理由があったんではないかと思いますがその辺はわかりませんでしょうか。

証人

 私、ちょっとそれはわかりかねます。

 ただ一般論で申しますと、日本薬局方これは私も直接日本薬局方の仕事を今まで担当したこともございませんので、一般的な知識で申し上げますと日本薬局方に収載される品目というのはそもそも医療の世界でかなり使用頻度が高い非常に汎用されるものだということが一つの条件でかつその有用性が高いともうしましょうかそういうものが重要な医薬品として日本薬局方に収載されるというのが一般的な考え方だと思います。ですから、新たに入って来るものも勿論ございますし、削除されるというようなものにつきましては大体有用性が低いということその有用性と申しますのは効果とか副作用をあわせまして評価した場合に有用性が低くなって来たと或いは使用頻度が非常に低くなって来たというような場合にはずされるというようなことは一般論としては申し上げられることと思います。

弁護人

 この薬局方で認められていたインド大麻草エキスとかチンキとか言われるものですけれども、喘息の薬とか鎮痛・鎮静剤で使われていたようですが、その使用による具体的な弊害というものが何かあったわけでしょうか。

証人

 そういう用途での弊害がどの程度あったかということについて、私今までデーターを見たことはまったくございません。

弁護人

 そうしますと、インド大麻草が医薬品として使われる際に副作用とかその乱用が問題となってこれは取り締まらなくちゃいけないというような証拠というものはないと考えて宜しいわけでしょうか。

証人

 当時医薬品として使われていたものが、正規の用途以外に横流れしまして乱用されたということはないんじゃないかと思います。もしそういうことがあったとすれば何らかの形でやはり一つの薬物乱用の歴史として残るんじゃないかと思うんでございますがそういうものを私今まで読んだことはございませんです。

弁護人

 このインド大麻チンキを治療で使ってる際にその為にその患者さんに悪い影響がでるといいますか禁断症状が出るとかそれを使った為に判断力を失って人に危害を加えるかもとかそういうような事例というものはあったんでしょうか。

証人

 私承知致しておりません。

弁護人

 ところで、昭和23年の制定当時の法律ですけれども、法規制の内容としましては罰金刑というものは当初ありましたか。

証人

 ありました。

弁護人

 内容は大体どのような............。

証人

 罰金刑といたしましては、栽培等については当時の法律では3000円か5000円以下の罰金という規定があったと思います。

弁護人

 所持とか譲渡の場合も大体同じですか。栽培・所持と輸出入と分けてますね。

証人

 ちょっと、私今...........。資料は持っておりますけれども。

裁判官

 資料御覧になりながらで結構です。

弁護人

 昭和23年の現行法の制定当時の刑の内容です。

証人

 23年当時というふうにおしゃられるんですが、今私が持って参りましたのは28年の改正分以降のものですから、ちょっと正確性に欠けるかもしれませんが所持・栽培につきましては38年の改正が行われる以前におきましては罰金刑がございまして、3万円以下ということが書いてございます。

弁護人

 あと懲役としては、どのような内容でしょうか。

証人

 3年以下の懲役または3万円以下の罰金に処するという規定でございます。この際には所持・栽培・譲り受け・譲り渡しというものがその対象になっております。

弁護人

 現行は所持・譲渡・譲り受け・これは懲役5年以下ですね。栽培・輸出入が懲役7年以下というふうにかなり重くなったわけですね。

証人

 はい。

弁護人

 昭和38年に罰金刑を廃止するとかつ懲役刑についても3年以下のものを5年とか7年にするというふうにかなり厳しくされたわけですが、これはどういうような理由からなんでしょうか。

証人

 この当時の法律改正の背景と致しましては、昭和30年代末期にわが国では御存知のとおり、ヘロインを中心と致します薬物乱用がずい分はやりまして非常に深刻な社会問題として受けとめられていた状況がございました。

 それで当時の状況を記録によって見てみますと、実にさまざまな対策がこのヘロインといいましょうか麻薬撲滅という観点から行われているわけですけれども、その一環として麻薬取締法の改正も行われました。

 罰則の強化だとか中毒患者につきましての措置入院の制度も作られるというような方策も講じられております。

 で、当時合わせて大麻取締法も改正されておりますが、私思いますのには、当時のそういった麻薬を中心とする薬物乱用乱用状況という物を背景にいたしまして、わが国から薬物乱用の問題を一掃しようという一種の国民的な世論の盛り上がり、そういう背景のもとに関連法規である大麻取締法についても罰則の強化がはかられた。

 当時は、大麻の乱用事例というのは私はそう多くはなかったと思いますが、罰則を強化することによって薬物乱用を一掃しようということで、この法律改正がはかられたというふうに考えます。

弁護人

 そうすると、昭和38年当時に大麻使用による具体的な弊害というようなものはあったんでしょうか。

証人

 具体的な弊害がどの程度あるかということについては私は承知しておりません。

弁護人

 乱用の事例があったということですが、乱用というのは要するに法律に違反するような事例があったということですね。

証人

 そうですね。法律に違反するような使用があったと、それから医学的目的と申しましょうかそういう用途以外の用いられ方で使う場合も私共乱用というふうに考えておりますけれどもそういうものがあったということだと思います。

弁護人

 では、38年当時そのような乱用によって具体的に保健衛生上の害が起こるというようなことはあったんでしょうか。

証人

 それは、ちょっと私具体的にはつかんでおりませんです。承知致しておりません。

弁護人

 大麻取締法は立法目的が法文上は明記されておりませんが、厚生省としてはどのようにお考えになっているわけですか。

証人

 厚生省としましては、この大麻取締法というものは国民の公衆衛生の向上ともうしますか、保健衛生上の危害の防止ということが主たる目的だというふうに考えております。

弁護人

 そうしますと、今言われたような立法目的に反するような弊害というものが昭和38年当時及び立法当初の23年当時にはあったんでしょうか。

証人

 当時、多分、日本ではこういう大麻の乱用というものはほとんどなかったと思います。これは麻薬の場合でも私まったく同じだと思うんでございますけれども、例えば麻薬の規制というものはわが国では明治の比較的初めからアヘン吸煙ということを禁止する規制を作っておりますけれどもそれでは当時国内にどれだけそういうものが使わていたとかいうことになれば多分これも記録がほとんど出て来ない。実際に明治の初年時代においてわが国内にアヘンを吸うというようなことはまずほとんどなかったんじゃないかと思います。しかしその弊害というものは経験的に他の国から伝わって来るものを踏まえて規則が作られたんじゃないかというふうに思います。

弁護人

 特に懲役刑というのはかなり厳しい規制の仕方だと思いますけれども、昭和38年段階において懲役刑だというような規制の仕方については具体的な根拠というものはないままにされたというふうに考えてよろしいわけですか。

証人

 根拠がないという意味がですね.........。ですから、大麻なら大麻の乱用を防止する為の一つの手段として、この法律があるわけでございますから、これによってその一般的な予防効果もはかられるわけでございますから、そういう意味で法律の規定を厳しくより一層薬物乱用というものの広がることを未然に防止しておくという考え方があったんではないかと思います。

弁護人

 38年当時は先程の証言ですとヘロインの問題で麻薬取締法を強化するんだとそういうことを言われましたね。

証人

 そうでございます。

弁護人

 逆に言えば、大麻自身の乱用による弊害というものが格別なかったんということですね。

証人

 38年末の時点で大麻の乱用がヘロインの乱用と同じように社会問題になっておったかということでございますれば、それは、そういう状況ではなかったと思います。

弁護人

 ところで、この大麻によって具体的にどのような保健衛生上の害があるのかということについて厚生省として調査研究はされているんでしょうか。

証人

 厚生省として今まで大麻の保健衛生上の危害ということについて特別に研究したということはあまりないと思います。ただ、私共のほうでは、海外で行われてる研究レポートと申しましょうか時々いろいろな形で研究をレビューしたものといいましょうか、出てまいりますのでそういったものでフォローしているということでございます。

弁護人

 大麻の具体的な作用についてお聞きしますけれども、人間の身体及び精神に与える影響という観点から見まして、アルコールと比較した場合にアルコールよりも身体的及び精神的に害があるんだと、したがって強く規制しなければいけないんだというようなことは言えるんでしょうか。

証人

 私、ものの害というのを比べる時にそれぞれの物質というのは確かにその作用が同じような場合もありますけれども違う場合の方が多いわけですから、これより害があるとかいうことをそのものとの比較で言うのは、ちょっと難しい面があるんじゃないかと思います。

弁護人

 摂取した場合のまず、身体に対する影響例えば肝臓とか内蔵が弱るとかそういう問題、あと致死量ですね、そういう薬としの強さですね、こういうものを比較した場合はどうでしょうか、大麻とアルコール。

証人

 例えば、アルコールと大麻と比べた場合に大麻は吸煙といいましょうか、そういう形での使用法でしょうし、アルコールの場合にはそういう使用法はないわけでして、一般的には経口的に摂取されますから摂取量としてもアルコールのほうがずっと多くなるといいましょうか、あるものの重さという形で比べて煙でという場合には量的には限界が出て来るとおもいますんですけれども、いずれにしましてもアルコールの場合には動物実験等で致死量というようなものはわかるかと思うんでございます。で、大麻の場合にはそういう意味でこれまでの文献なんかを見てみましても致死量というような記載はあまり見当たらないというふうに思います。

弁護人

 たばこですね、ニコチンはどうですか。

証人

 ニコチンは文献上の話で、私自身は、そういった研究やったことなどもちろん一度もないんですが、ご存じのとおり非常に毒性が強い。

 ニコチンそのものは極めて毒性の強い物質でございまして、かなり少ない量で呼吸筋を麻痺するとか或いは呼吸中枢を麻痺するとかそういった作用のある物質でございます。

弁護人

 あと催奇型性とか、いわゆる染色体に対する問題ですけれどもアルコールとかニコチンはこういう催奇型性等があるんだといいう疑いが出てるんじゃないんですか。

証人

 ちょっと、私、催奇型性がアルコールなりニコチンの作用であるとかどうかということについては承知しておりません。

弁護人

 大麻はどうですか。

証人

 大麻についても催奇型性があるというようなことは少なくとも証拠は得られてないんじゃないかと思います。

 ただ、催奇型性というのは、一般論で言いますとかなりある意味では薬物の濃度なんかに影響される作用と申しましょうか、薬物が本来もっている作用である場合もありますし、それから薬物の濃度によって出て来る作用でもございます。

 又、胎内における発育阻害というような形でも出てくる問題でもございます。

 催奇型性があるとかないとかという場合には本来的にそのものが持っている性格というものもございますが、もう一つはその量の問題といいましょうか、そういう問題もかなり関与してるんじゃないかと思います。

弁護人

 そうしますと、身体的な作用の内容としましては、アルコール、たばこと大麻を比較しますとアルコールやたばこつまりニコチンですけれども、よりも、その弊害が少ないということは言えないんでしょうか。

証人

 これは、ちょっと比較は先程申し上げましたように、私、非常に難しいと思います。

 ニコチンの場合でも、これは私も専門ではございませんから、申し上げるのもいかがと思いますが、ニコチンというのは非常に耐性というものが出来易い物質でございますので、普通にたばこを吸うというような人の場合には、非常に耐性が出来ていてそういうものの影響というものは受けにくくなるともうしましょうか、そういうことが言われております。

 ただ、たばこの害というのは単にニコチンの害というだけでとらえられてるわけではないと思いますので、勿論煙そのものによる気道に対する影響、それから煙の中に入っているタール分とかそういったものの影響とかいうこともございますので、そういう点で比較すると、これも比較的新しくアメリカあたりで出されてる大麻の関係の報告書なんかによりますと、特に大麻がたばこに比べて安全という話ではなくて、むしろかなり肺機能に対しては低下せしめる作用があるとか、それから大麻のタールの中の芳香族の炭化水素の含有量は、たばこの場合よりもかなり多いとかいうようなことが報告されておりますので、それが直ちに人の場合に、じゃどのくらい影響を及ぼすかということは、明確には、分からないにしても、たばこと同じような意味での危害といいましょうか、は、あるというふうに考えております。

弁護人

 それは、煙として吸うということにおいてのどを刺激すると、もしくは煙の中に有害物質が入っている可能性があるとそういうようなことでしょうか。

証人

 煙として吸った場合にそこから炭素の微細粉末がとび出して来て、肺に沈着するとかいうことも含めまして、肺活量がすみやかに低下してしまうというような問題だと思いますが。

弁護人

 それは、当然煙草でも起こるし、場合によれば魚なんかを焼いてこげたものを食べると発ガン性のものが入っているというようなこと言われますね。

 そういうような問題ではないんですか。

証人

 そうだと思います。

 煙の中の芳香族の炭化水素がたばこよりもやや多いというようなことがあるといってもそれは燃焼する過程で出来て、それが身体の中へ入って来るわけですからそういう意味ではたばこと同質の問題というのがあるというふうには思います。

弁護人

 そうしますと、アルコールやたばこと比較しまして、大麻のほうが特に保健衛生上の害があるというような証拠というものはあるんですか。

証人

 私、特に害があるとかないとかいうことよりも、むしろ大麻の場合にはアルコールだとかたばことはやや異質な作用があるんじゃないかということが一つの問題であろうというふうに思います。

弁護人

 それは何ですか。

証人

 それは、大麻そのものの使用目的でもあろうかと思いますが、私がここで申し上げるまでもなく、さまざまな文献上にこれは載っていることですが、精神変容作用と申しましょうか、いうものが大麻にはあるということでございまして、それは多分かなり特徴的な作用だというふうに思います。

弁護人

 そうすると、逆に言えば、精神変容作用があることが大麻取締法により規制してる根拠だというふうに考えられるということですか。

証人

 現在の大麻取締法に関して申し上げれば、私は、こういうことが言えると思うんでございます。

 これは、私の説明としてお聞きいただきたいんですございますが、 元々こういうものがどうして規制を受けなければならなくなって来たのかという点に関しては、先程来申し上げました、他の国での使用経験と申しましょうか、からこういうものは、規制の必要があるんだということが国際的にかなり古い時点で認識されたわけですが、実際のその大麻の生物学的或いは心理学的と申しましょうかそういったものについて、個別具体的にどういう作用があるかというものの研究が行われるようになって来たのは、時代としてみれば比較的近年になってからではないかと。

 そういう中でさまざまな作用がはっきりして来ましたし、それから今後なお解明すべき問題というものも非常に多いということも又研究の結果とし、てはっきりして来てるということかと思います。

弁護人

 証人のお考えでは、精神変容作用があると、これが問題であるということですね。

証人

 これまでに、大麻について明らかにされて来ている問題というのはそれだけではないですね。

 例えば、呼吸器官に対してはどういう作用があるかとか、それはけっして、人間の身体にとってよい方向でのかならずしも作用というふうには考えられませんし、それから、最近ではまた、例えば生殖系統に対してどういう作用があるかというふうなことも、新たに報告されるようになって来ておりますし、それから精神科の領域におきましては、私はこれは別に専門家というわけではございませんが、大麻を使うことによって報告によればかなり少量でも非常に感受性の高い人は幻覚が出るとか、そういった作用を起すことがあると、更に大量に使っていった場合には、大麻の中毒性の精神病を起すことがあるという報告が現にあるわけでございますから、そういう意味で大麻が国民の健康にとって現在の時点で好ましいものだというふうな理解はとうてい出来ないわけでして、これは、やはり人間の身体にとってさまざまな角度から見ても、今わかってる範囲内で見ても、けっして影響がないということにはならないと思います。

弁護人

 一般的に食べ物でも食べ過ぎれば有害になるわけですから、そういう一般論ではなくて具体的に比較したいんですけれども、アルコールでも今おしゃったような同様な弊害はありますね。

証人

 (うなづく)

弁護人

 例えば、精神が変容すると、いわゆるアルコールの酔うということは、まさに精神が変容することですし、酔った結果として人身事故等多数出てるわけですし、又、その染色体とかそういうものへの影響についても大麻以上に明確にその影響があるんだというような報告もあると思うんですね。

 そういうことからして大麻のみを厳しく規制している立法根拠もしくは行政上の必要性というものは、何でしょうか。

証人

 私はそこに至までの背景には薬物というものに対して、これは一つの社会の規範作りというか、法というものは規範作りという意味を持ってるわけですから、そういうものが社会の中でどう受けとめられてるか、ということがかなり大きいと思います。

 したがいまして、アルコールの場合でも、これは厚生省の見解としての見解ということではございませんが、私、個人の意見として申し上げれば、仮りの話でアルコールなりたばこというものが、まったく新たに一つの対象物質としてこの世の中に誕生したとなれば、私は今のたばこなりアルコールの受け入れられ方と同じであるかどうかということについて、かなり疑問は持っております。

 そういう意味で例えばアルコールに関してどうかと、或いは、たばこに関してどうかという点になりますれば、それはある意味では長い間人々に使われて来て、で、それなりの社会的効用というようなものがあって、そういう中で社会的に認知されて来てるという意味で社会の中における存在形態というのは違うと思うんでございます。

 で、本当の意味で公衆衛生の観点だけから議論し出したとすれば、先程申しましたように、私はそういうものが新たにこの世の中に誕生して来た時に、それじゃ、今と同じようなことになるかどうかと言えば、私はかならずしも、そうではないんじゃないかというふうな感じは、私は、しております。

 しかしながら、今の状態で考えれば、やはりたばこ、アルコールというものの社会における受けとめ方、大麻の社会における受けとめ方というのは、そこに明確な差があって今まで法律的な規制を加えることについて、昭和38年の改正の時も同じことでございますけれども、当時も、この法律改正については国会の全会一致で改正がなされてるという経緯をみますれば、新たにそういったものをわが国の社会に持ち込むことは、防ごうという社会的な合意というものがあったというふうに考えざるをえないのでございます。

弁護人

 社会的な、そういう合意という問題ですけれども、インド大麻草の場合は、インドから日本に輸入するわけですから、外から持ち込むわけですけれども、麻一般につきましては、国内で古い昔からむしろ人類が発生する以前からあるようなものですね。そういうものを特に規制するという場合はなんか特別な弊害がないと規制する必要はないと考えるんですが、その点はどうなんですか。

証人

ちょっと、おしゃられる意味があれなんですが..............。

弁護人

 例えば、麻以外にも、食べれば毒になるものはいくらでもあると思うんですね。

 量によってもそうでしょうし。砂糖でも食べ過ぎれば弊害がありますし、それからヨモギか、なんか、そこら辺にある草を食べたり、吸ったりしても、気持ち悪くなることもあるかもしれませんし、そういうことは無限の可能性があると思うんですね。

 そうすると、大麻だけを選んで特に規制して行くという必要性というのは、なにか具体的にあるのかということなんですが。

証人

 私は、今、先生御指摘のような点というのは一般論としてはあり得ると思います。

 どういうものがどういう作用持ってるか、ということが調べ尽くされてるわけじゃございませんから、当然あり得ると思うんでございますが、実際の法律で規制するというのは少なくともそういうものについて具体的なものについて、国内であれ、外国であれ、乱用されてる実態があるとか、或いは、そのことによってわが国にも波及するおそれがあるとか、そういう一つの具体性があって、始めて規制として意味をもつものではないかというふうに思います。

弁護人

 わが国の状況ですけれども、大麻のいわゆる使用人口は、かなりいるとは思いますが、具体的な大麻使用による弊害、国民の保健衛生上の弊害というような事例というものは法制定当時から現在に至まで具体的にありますか。

証人

 既に発表されているデーターでございますけれども、麻薬中毒者の報告というのがございまして、そういう中毒者が発見された場合には、都道府県知事が国に発生件数だけでございますが、報告するようになっておりまして、今般ちょっとチェックしたんでございますが、昭和40年からのデーターを私見てみましたが、40年から60年までで、大麻の関係では、私共に報告あったのは25例でございした。

弁護人

 20年間で25例ですか。

証人

 そうでございます。で、本年に入りましてから2例別に報告がございました。

弁護人

 それは、どういう内容なんでしょうか。

証人

 今、もうしましたように、私共のほうには件数だけしか、実はあがってまいりませんので、お医者さんが発見された場合に、そういうものを具体的には保健所でございますけれども、に、件数だけ報告する形ですので、個々の具体的な内容というのは私共直接にはつかみにくいでございますが、ただ、いろいろな私共の内部の会合の場等で、お医者さんが具体的な例について、報告されたようなことはございます。

弁護人

 大麻中毒者といっても抽象的なもんですから、具体的にどういうような現象が起こったのか、そしてその大麻との因果関係ははっきりしてるのか、その辺はどうですか。

証人

 これは私ごとであれですから、御説明して宜しいかということになろうかと思いますが、たまたま私が今の職を拝命してから今年の6月初めくらいだったと思いますが、1例その中毒者がでたので、措置入院をしたいということで、実は、私共のほうは、入院措置をした場合の費用の予算措置を講じてるものですから、その関係でその件数といいますかが、あがって来るわけでございますが、この場合には症状があがって来るんではなくて、こういう患者を措置入院するから、との措置に要する経費を支出してくれという形で私共のほうへあがって来るわけですが、そういう事例でございました。

 その時に私はたまたま東京都内のある病院でございましたのでお医者様がそのように診断、そのように申しますのは、これは大麻による精神病であるという診断をされた事例でございましたので、私出来るだけそういう特殊な事例を含めまして、患者さんにインタビューさせてもらえる機会、もしあれば、と心掛けて来ておりますので、6月の時もほんの短時間でございましたが、患者さんと面会させていただく機会がございました。

 その時に得た印象としては、この事例はですね、確かタイから送還されて来たような方、若い方でございました。

 けれども、その方の場合には症状として申し上げれば、一般によくこの大麻の精神病の場合に伝えられるものとまったく同じ教科書どおりといいますか、そういう感じでございまして、ぱっとお見受けしましたところ、茫洋として、とらえどころなし、という感じでございまして、いくらこちらが質問を語りかけても答えがない。

 で、大きな声で夜よく眠れますかというような質問をしますと若干反応がありまして、夜になると皆が私の悪口を言っているんですとか、なんか、その当時立会っておりました医師は、この患者は幻聴が出てるんですという解説をしておられましたが、そういう症状の患者さんと面会する機会がございました。

 で、その方に関して申し上げれば、その後一ヶ月くらいで退院されたというふうには聞いておったんですが、実は、昨日私、こちらへ来るに先立ちまして、その同じ方ですが、又同じような状況になっているようです。という話だけは聞いて来ましたですが。

弁護人

 そうしますと、今、おしゃった患者さんの症状が大麻使用によって起こったんだということは、証拠というものはあるんですか。

証人

 それは、それまでの間にお医者さんが苦労して、患者さんから聞き出されて、それで、その患者さんは、実際には他の薬物も、確かに使ってるようでございますが.........。

弁護人

 どんなもの使ってるんですか。

証人

 ヘロインというようなものも一部その方の場合には、使ったことがあるようでございます。

 しかし、そのヘロインでは、説明がつかないというようなことから、そのお医者さんは、これは大麻の精神病であるという診断を、私は、くだしておりますと。

 と申しますのは、その方は、別に、それが初めてのケースではございませんで、その前にも、何件か御経験があるものでございますから、そういうことでそのようなお話をしておられました。

弁護人

 私も、文献的知識ですが、弁護側証拠として出しました「別冊サイエンス、心理学特集、不安の分析」という本の中の「マリファナ」というところに、ハーバード大学のグリーンスプーンという方の論文があって、大麻精神病についての記載があるんですが、因果関係がはっきりしないと。

 大麻によって精神病が起こったのか、前からそういう精神病素質のある方がたまたま大麻摂取によって誘発されたというようなこともあり得るし、又、他の薬物による影響も考えられるとか、その他、その人の持ってる人間関係とか、社会関係から起こる場合もあるというようなことで因果関係がはっきりしない、というような意見もあるようですが、証人が御覧になった例の場合、そういう点から見てはどうなんですか。

証人

 私は、そういう点について、専門的な診断がまったく、正直申しまして出来ませんで、あくまで、その方について、たまたま、どういう症状になっておられるのかということと、それを医師がどうしてそのような診断をされたかという状況、それから私がお伺いするまでの病状の変化がどういうふうであったか、ということを参考までに伺わせていただいただけでございます。

 今、御指摘になられましたような点は、私もアメリカの報告書では読んだことがございます。

 私が読んだ報告書は、アメリカの厚生省と申しますか、保健教育福祉省が出している年次報告書と申しましょうか、二年に一遍くらいずつ新しい文献をレビューして、それを報告書にまとめて出版しておりますが、それの1980年版で読んだ記憶がございますが、そこでもやはりその大麻精神病というものの解明、原因をそこへ決めつけるということについては、まだアメリカサイドでも、確定は別にしてないわけでございます。

 ただ、その報告書が投げかけてる疑問というのはアメリカで見られないけれども、そういう報告というものは、主としてアジアとかアフリカに多いと、これは、これまでも、いろいろな報告書も確か指摘してると思いますが、そういう報告を見るとアジア、アフリカが多いと。

 そういうところと、アメリカでの使用の方法といいましょうか、或いは、使ってるものの中身ですね、同じ大麻といっても、どうも、その例えば、一つの精神活性のある物質であります、テトラヒドロカンナビノールの濃度が違う、アメリカの場合と、アジアの伝統的な使用とは違ってる、というようなことも含めて、やはり検討すべきだということを言っております。

 ただ、そういう現象が大麻使用者に起こって来る場合があるということについては、ある程度これまでの、きわめてさまざまな報告から見ても、そう疑いはないんじゃないか、その原因がだから、どこにあるのか、ということについては、先生が、ただ今御指摘のような御意見があることはあります。

弁護人

 或いは、あと、こういうような批判はないですか。例えばですね。

 人口1000人当り何人くらいの人間が精神病になるのかというような社会的なデータがあるとしますね。

 で、大麻使用者1000人とって、それから何人くらいの人が精神病になるかと、大麻使用してない方、1000人とって何人くらいになるか、というふうに比較をした場合に、大麻を使用してる人のほうに、精神病の発生率が多い、というようなデータはないと、むしろ少ないんじゃないかというような意見も、私、読んだような記憶があるんですが、その点はどうですか。

証人

 そういう記載があることも事実だと思います。

 ですから、発生頻度が非常に低いような場合には、そういうデータだけで、つかめるのかどうかという点、疑問は残ると思います。

 ですから、やっぱり、個々の症例というものを十分に見極めてそれでその中に他のものと違う病態というものがあるか、どうか、例数は少なくともですね、いうようなことから見い出して行くというようなのが、一つの方法かと思いますが、御指摘のような報告書の記載も、私、読んだ記憶がございます。

弁護人

 アルコールを原因としまして精神病院に入院するというような事例というのはどの程度あるんですか。

証人

 まあ、あるということは、私、十分承知は致しておりますが...............。

弁護人

 いわゆるアルコール中毒者というのは、日本では何人くらいいるというふうに、厚生省のほうは判断しておりますか。

証人

 私、所管、まったく違いますので、承知致しておりませんが。

弁護人

 精神病院に入院しなくちゃいけない程度のかなり強度のアルコール中毒患者が、多数日本にいる、というようなことは言えるんでしょう。

証人

 これは、言えると思います。現実に、病院には入っておりますんで。

弁護人

 どのくらいの単位ですか。100万人くらいの単位とか、10万人くらいの単位とか。

証人

 アルコール依存症とかいうような形で、アルコールなしではいられないというような人であれば相当な数になると思うんですが。

弁護人

 数百万とかの単位ですか。

証人

 数字的なことは、ひかえさせていただきたいと思います。

弁護人

 アルコール症の数からすれば、大麻によるいわゆる依存症というんですか、中毒的な依存症というのはほとんどないと言ってもいいんじゃないですか、わが国の場合ですよ。

証人

 数は、少ないと思います。

弁護人

 大麻の作用がはたして、懲役刑をもって規制する程度のものなのかどうかという観点から少しお尋ねしたいと思いますが、今までの証言をお聞きしてよくわからないんですが、端的に言って、どういう点が一番問題なのでしょうか。

証人

 大麻の害は、先程来申し上げましたが、かなり、さまざまな作用を持つていまして、人間の体に対しては、生物学的な影響それから心理学的な影響と申しますか、そういった作用を持っているわけでございます。

 従いまして、私共の考えといたしましては、こういう物質を、特に一般が使用するということは、国民の保健衛生を守るという立場から見た場合には、乱用というのは排除していかなければならないという考え方に立っているわけでございます。

弁護人

 具体的な弊害というのは、どういうものがあるんですか。

証人

 具体的なものというのは、私はむしろこれまで、さまざまなところから出されているレポートでごらんいただいた方が宜しいかと思うんですが、私の記憶の範囲内で申し上げれば、繰り返しになるかもしれませんが、たとえば呼吸器系に対する害がある、好ましくない作用がある、それから最近では、生殖系に対しても害がーーー懸念されている、というふうにいうべきかもしれませんが、懸念されている、それから更に精神的に見ましても害が見られるーーー害が見られるという言い方では充分じゃないかもしれませんが、精神的に見ますと先程申し上げましたように、急性の症状としては非常に感受性の高い人ではかなり少量でも幻覚等の作用をもたらすことがある、また短期的にはその間におけるいろいろな記憶傷害というようなものをもたらすことがある。

 それから、そういうひとつの酔いというんでしょうか、大麻の作用が精神的に脳に働いている時間、あるいは、それを超えて何時間か経ってとしてもなお、その間において、複雑な作業をやる能力が損なわれるというような報告もございますし、従いまして、そういう機会において非常に高度複雑な機械の操作というものについては、危険性が予測される、あるいは非常に長期間そういうものを使っていた場合にはかなり重篤な精神傷害をもたらす事例があるというような観点から好ましくないと考えらるわけでございます。

弁護人

 精神作用について、少し内容的にお聞きしますが、幻覚が生じるというふうにおっしゃいましたがけれども、それなどういうことなんでしょうか。

証人

 これは、私はレポートの記述を申し上げているわけでありまして、具体的に、じゃ幻覚の何が中身かということについては、私は承知をいたしておりませんが、報告に上ではやはり幻覚が生ずる、またもっとその前段においては、一般的に感覚、たとえば、視覚だとか、聴覚あるいは味覚、そういったものが非常に過激な状態になるというような作用がまず出てくる、それから非常に鋭敏な人では、そういった幻覚のような症状が出てきて精神的な一時的な混乱を生ずることがある、しかもそういった作用は用量というものにどうも依存していく、用量と相関性があるということが報告されているところだと思います。

弁護人

 その精神作用のいわゆる感覚に対する影響ということですがね。これはたとえば、気持ちがリラックスするとか、音楽がよく聴こえるとか、そういうことを私の経験ではよく聞くんですが、そういうような内容のことではないんですか。

証人

 そういうことが、感覚鋭敏化のひとつだと思います。

 それから、同時に私共よく聞く話ではそれは使う人の心理状態が非常に反映されるというような話を聞くわけですが、従っていい音楽を聴きたいという気持ちで、準備をしてきけばそうなる、と。

 そういうものが十分整っていないと、非常な不安感と申しましょうか、恐怖感と申しましょうか、そういうものにさいなまされるような状況になっていくということを聞きました。

弁護人

 私は、今まで10年以上にわたって、数十件担当しましたし、関係者を見れば大体正確に見れると思っているんですけれども、大麻を使用して、そのために幻覚が生じたり、また極度に不安な状態になるというような事例は見たことはないんですけれども、証人はそういうものを具体的に御覧になったことがありますか。

証人

 私、ございません。そういう状況の人というのを、私共行政に場において直接に見る機会というのは、まず、殆どないわけでありまして私共、大麻の関係で面会する機会を得たのは、先程申し上げた事例だけでございます。

 併せて申し上げますれば、私共専門家からこういうことをお伺いすることがあるわけです。

 つまり、例えば、覚醒剤だとかいうようなものの場合には、必ずその物の薬理作用だけで説明できる症状が出てくるということをいうのでございますが、この薬物の場合には非常に性格が変わっていると言いましょうか、薬物の作用が極めて多様性というんでしょうか、つまり、使うサイドの心理状況と言いましょうか、そういうものとかなり相関して作用が現れてくるということを教えらるわけでございまして、単純に覚醒剤の場合のように投与すれば必ず中枢興奮作用として説明できる症状だけが生じてくるということではないようでございます。

 それがこの薬物のある意味では特長なのであるというふうに指摘する専門家がおられることは確かでございます。

弁護士

 私の経験ですと、たとえば逮捕されると身柄拘留されますね。そうすると周りの友人は自分も捕まるんじゃないか、というようなことで不安感が生じる。

 つまり法律に違反しているんだという意識、捕まるんじゃないか、という意識が不安な状態にさせると言いますか、そういうことは見聞きしているんですが、大麻を使用して不安感が出てくるというのは、要するにそういうことじゃないんですか。

証人

 それはちょっとそのためかどうかということは、私、なんとも判断つきかねます。

弁護人

 自分の心の中に罪悪感があるとそれが表面に出てくる。

 その罪悪感というのは、法律に違反しているという意味での罪悪感ですがね。

証人

 私はただそういうことだけで説明できることではなくて...........。

 これは私がその患者を診て申し上げていることではなくて、アメリカあたりで出版されてくるアメリカの厚生省と申しましょうか、そういうところの報告書を見ましても、たとえば先程申しました中毒性の精神病といいましょうか、そういうものが、アジア、アフリカ地域において多いというようなことが書かれていますが、アジア地域などで、どうしてそういう報告が多いのかということを考えてみますと、必ずしもそこで捕まえられるからそいうものが多くなるとか、そういうことで中毒性の精神病の報告が多くなるということとは、直接結びつく説明ができないんじゃないかと思いますが。

弁護人

 今私が言っているのは精神病との関係ではなくて、大麻を吸引した場合に、当初の精神状態として感覚が鋭敏になる。

 加えて不安感が生ずることもある、というような御証言があったんで、その場合の不安感というのは、そういう自分の心の中にある。

 例えば法律に違反しているというような罪悪感から出てくるのではないか、と。

 だから、そういう罪悪感がなければそういう不安感は、出てこないのではないかという趣旨ですけれどもね。

証人

 私、ちょっと法律が関係してそういう症状が起こるかどうかということについてはわかりかねます。

弁護人

 むしろ、捕まるんじゃないかという、そういう環境が不安状態にさせるのではないかと。

証人

 私、ここで、証言という形で、申し上げられることかどうかわかりませんが、よくこの関係の文献にはセットとか、セッティングと言うことが出て参っておりますが、何か一つの心理的な状況あるいは環境的な状況がこのものの作用と非常に大きな因果関係をもっているんだということが、これまでいろいろな経験から報告されているんだと思います。

 ただその時に捕まるかもしれないということから、使ったときに悪くなるとかいうだけの関係がある、というふうには何も証明が得られてないんだと私は思います。

 いわゆる、バッドトリップとかいうものがどういうものか、私、全く体験したこともございませんので、わかりませんが、それが先生、今、ご指摘のように捕まるかもしれないという恐怖でバッドトリップになるということは、何ら今の段階で証明されていることではないと思います。

弁護人

 次に幻覚ということですけれども、かなり大量に吸ったら幻覚が生ずることがあるということですね。

証人

 はい。

弁護人

 幻覚の内容として、証人はどのように理解されていますか。

 例えば精神が落ちつきますと、たとえば弓の名人なんかが的が大きく見える、すると的中率が高くなるということがあるようなんですが、この的が大きく見えるということは幻覚なのかどうか、ということがあるんですけれども、そういう状態は幻覚といえるわけですか。

証人

 一般的にはそういうことを幻覚というふうに私は言うとは思えませんが。

弁護人

 そうすると、証人が使う幻覚が起こるというのは............。

証人

 私は申し上げましたように、そのような文献上の記載がある、報告書にそのような記載がありますよということを申し上げているわけでありまして、その中味についてどういう幻覚かということはまさに個別症例に当たらなければ出てこない話だと私は思います。

弁護人

 日本では毎年1000人以上大麻取締法で逮捕されていると思いますけれどもね。

 その中で幻覚が生じた例というのはありましたですか。

証人

 個別症例の中味について、個々の臨床上の所見がどうであったかということまでは把握しておりませんので、中味については承知しておりません。

弁護人

 先程、乱用という言葉を使われたんですけども、この乱用というのはどういう意味で使われたのか、厚生省が乱用という場合にはどういう意味なのかおっしゃっていただけますか。

証人

 私共、乱用というふうに一般的に使う場合、これは法律上定義があるということではないんでございますけれども、社会的に正当と求められている目的外に使うことを、私共は通常乱用という言葉で呼んでおります。

弁護人

 具体的に言えば医療用の目的以外に使う場合を乱用と。

証人

 薬物の場合ですと、一般的にはそのようにご理解いただいて宜しいと思います。

弁護人

 そうすると、大麻について言えば大麻を使用して、具体的にそういう弊害が出るのかということとは関係なしに、要するに法律があって法律に反している、従ってこれは乱用であると、そういう形式的な定義の仕方と考えて宜しいですか。

証人

 私共、大麻の場合、そのような形で乱用という言葉は使っておると思います。

弁護人

 次に1961年の麻薬に関する単一条約の件について伺います。

 この条約は第2アヘン条約ーーーわが国の大麻規制の出発点ともなった第2アヘン条約をいわばまとめたものと考えて宜しいですか。

証人

 それまでにあったいくつかのこの関係の条約をとりまとめたものだ、というふうに理解しております。

弁護人

 そうしますと、1961年の麻薬に関する単一条約は、わが国の大麻取締法の上位法に当たると考えて宜しいでしょうか。

証人

 条約でありますから、批准するとなれば少なくとも条約に盛り込まれていることは一応遵守しなければならない。

 ある意味ではミニマムと申しましょうか、ということにはなると思います。

弁護人

 この1961年の麻薬に関する単一条約は、日本国政府としては、既に批准しておりますね。

証人

 批准しております。

弁護人

 批准したのは昭和39年の12月13日と考えて宜しいですか。

証人

 ...............................

弁護人

 では、厚生省薬務局麻薬課発行の「大麻」というパンフレットがありますが、その中の79ページにこういう記載があるんです。

 この1961年の麻薬に関する単一条約について、「本条約は麻薬全般についてその取り扱い、国際的取引等を規定するもので、わが国は1964年7月13日この条約を批准している」という記載がありますが昭和39年の7月13日に批准しているということで宜しいですか。

 それで国内法としての効力が発生したのが12月13日と、そういうふうに考えて宜しいですか。

証人

 宜しいと思います。

弁護人

 ということは、この1961年の麻薬に関する単一条約は国内法的にも有効である、というふうに考えて宜しいですね。

証人

 はい。

弁護人 

 そうしますと、大麻取締法と単一条約との関係ですが大麻取締法にいう大麻の定義とこの単一条約で規定している大麻の定義が違いがあるようなんですがその点は証人はご存じですか。

証人

 はい。知っております。

弁護人

 どういうふうに違うんですか。

証人

 わが国の大麻取締法では、成熟した茎とその製品、樹脂を除きまして、それを適用除外としておるんでございますが、条約の場合には、花または果実のついた枝端で、樹脂が抽出されていないもの、ということで、枝端から離れた種子および葉を除いていますから、種子はもちろんわが国でも除いているわけですが、葉を除くというところが違いがあるというふうに思われますね。

弁護人

 そうすると、条約の上では大麻植物の花または果実の部分、いわゆるトップといわれている部分、この部分だけを規制しているというふうに考えて宜しいですね。

証人

 条約でいう大麻とはそういうものだと思います。

弁護人

 ところで、条約の上でこのような定義になった理由はご存じですか。

証人

 私、承知しておりません。

弁護人

 先程の証人の証言ですと、アメリカにおけるいろいろな大麻の作用の研究の中で、アメリカではまだ弊害というのははっきり証明されていないけれども、アジア等では、かなりTHC成分の強い大麻を使っているから、またその現れ方も違うんじゃないかというような証言をされましたね。

証人

 そのような、一つの、これは推測をしておるということだと思います。

 もっとほかにも要因がもちろんあるわけでございまして、濃度が関係しているかもしれないということも言っていますし、それからそもそも消費量、使う量が関係しているかもしれないということも言っております。

 それからまた使用の時期も確か言っていたと思います。

 と申しますのは、アメリカの場合にはこういうものが使われ初めてから、たかだか20年くらいだろうと。

 しかし、伝統的に長く使っている国では、子どもの頃から使い始めている。

 で、非常に高齢化するまで使っている人もいるというふうに、期間の長さも違うだろうと。

 だから様々な要因がそこに関与してきている可能性を示唆しているわけでございまして、だから、どれが原因であるかということは、これからの問題だというような指摘じゃないかと思います。

弁護人

 ところで、インドとかその他ネパールなどで大麻といわれているものは、条約で規制しているいわゆる、トップの花をとった部分ですね。

 この花穂部分が成分が多いということで、その部分を生成するというか、固めたものがハッシシとかガンジャといわれているものじゃないんですか。

証人

 そうだと思いますね。花の比較的上部のところ、それからその近辺の部分というものを........。

 ただそれぞれの製品というんでしょうか、大麻と一言にいっても様々な製品があるようでございまして、写真で見ますと液状のものから、固形の固めたようなものから、明らかに原形をとどめていると思われるものまでーーーいかにも草そのものというような感じのもの、それをすりつぶして原型はちょっとわからないけれども、漢方の生薬みたいに粉末にしてあるものとか、様々な形状のものがあるということは承知しておりますが、それぞれの製品においてどこの部分をどういうふうに使っているかということは、実際のところちょっと判別はつかないと思います。

弁護人

 昭和5年に麻薬取締規則が出来たときのきっかけになった第2アヘン条約で、規制していたのは印度大麻草だけでしたね。

証人

 はい。

弁護人

 印度大麻草というのは、インド産の大麻の中のいわゆるトップの部分、花または果実のついている部分を精製したものを言っていたんじゃないですか。

証人

 条約上、そのことが明らかになっているかどうかと言うのは、ちょっと私確認させていただきたいと思うんです。(持参の資料を見て)

 ここでの大麻は「印度大麻とは商業上いかなる名称をもって指示せらるるを問わず大麻(カンナビス・サティ・バエル)の雌草の乾燥したる花または果実のつく枝端にして未だ樹脂を抽出せざるものをいう」という、こういう定義でございます。

弁護人

 そうしますと、第2アヘン条約の定義上は、大麻のうちその雌でかつ花または果実の部分というふうに考えて宜しいわけですか。

証人

 そのように規定されています。

弁護人

 どうしてそういう規定になったのかはご存じですか。

証人

 これは実際に当時使われていたものが実態としてこういうものであったということではないでしょうか。

弁護人

 大麻のうち雄とか葉の部分は作用が低いということで、特に規制する必要はないというようなことじゃなかったんでしょうか。

証人

 いや、私は、これは別に証明する手段はございませんが、これが使われていたということではないでしょうか。

 一般的に、当時大麻として広く使われていたものが雌の花になり果実のついている枝、こういうものが使われていたというふうに考えられます。

弁護人

 1961年の麻薬に関する単一条約もほぼその第2アヘン条約の定義ですね。

証人

 そうでございます。

弁護人

 現行の大麻取締法ですけれども、これはこの定義からいきますと非常に広い定義になっていますね。具体的には雄も葉の部分も含まれるということで。

証人

 はい。ただ、単一条約でも別に雌とかいう規定はございませんですね。

弁護人

 単一条約との違いで言えば、葉が含まれるかどうか、ということですね。

証人

 そうです。

弁護人

 すると条約をわが国政府が批准している以上条約の定義に従って大麻取締法もきめ細かく規定するという、そういう必要性はないんでしょうか。

証人

 これは条約でございますので、一般的に申し上げれば、これを批准するということは、一応この条約に規定されていることは少なくともやらなければいけない、というのが一つの国際的な義務になると思います。

 しかし、条約でございますから国内法規で、むしろそれよりも厳しくするかということは、確か条約上も可能な筈でございますし、そういうことは有り得ることだと思います。

弁護人

 わが国の実状として大麻使用による保健衛生上の弊害が特にあるならば別ですけれども、それが特にないということですと、もう少し規制の仕方について、たとえば条約の定義の範囲内で規制するとか、そういうふうに行政の運用を変えることは、可能性はないんですか。

証人

 現行の大麻取締法の定義は確かに条約上の規定とは違っておるわけでございますけれども、こちらに合わせて法を執行するということは、現在の法の規定から見て運用の問題としてそれを処理するということは、難しいのではないかと私は思います。

弁護人

 たとえば野生の大麻の葉を一枚採ってきても現行法では逮捕されますね。

証人

 そうでございます。

弁護人 

 かつ懲役刑のみしかないという現状があると思いますが、こういうような非常に厳しい取締行政の仕方については厚生省としてはやむを得ないと考えているんですか。

 それとももう少し柔軟にやる必要があるという、そういう考えもあるんですか。

証人

 私は葉っぱ一枚であるから云々という点につきましては、むしろ規定はございますが、実際の裁判の過程でそれぞれの事犯の態様に応じた取り扱いというものが、これまでもなされておるんではないかと理解しておるんですけれども、厚生省としてどうかということでーーー

 厚生省としてというのは非常に大きな枠組みで、私がお答えできるかどうか別としまして、私は現在の職を拝命して以来やはり薬物の乱用というものは、基本的になくしていかなければいけない、なくすように努力することが私の義務だというふうに考えておりますので、私は現在の規定について特にそれがきつすぎるとかいうことは考えておりせん。

 むしろそういうようなお考えの場合には、是非ともそういうふうにお考えになるよりも、その乱用をやめていただきたいというふうに私は考えております。

弁護人

 私は法律家として10年以上いろいろなケースを見てきましたけれど、やはり、当事者を説得する資料がないとーーー

 説得する材料がなくてただ、守れというだけでは、これは法律の権威の上からいっても問題があると思うんですね。

 そこで、大麻使用の例を見てみますと、気持ちが穏やかになるとかリラックスする、ということはあるんですけれども、それ以上のことはないものですからね。

 そういう現実を私、見ておりますので、そういう観点からすると、もう少し実態を見ていただいて、法律の運用をそれに添って検討するということも必要かと思うんですけれどもその辺はどうですか。

証人

 これは、くり返しになりますが、私の意見にしかすぎないと思いますが、薬物乱用の問題というのは非常に世界的にも大きな問題になっております。

 で、先程ちょっとご引用のありました麻薬に関する単一条約というものが1961年にできて以来ことあるごとに国連であれ、あるいは麻薬に関するあらゆるレベルの国際会議におきまして、単一条約というものを積極的に受け入れていくというのが、一つの流れでありまして、そういう中で批准する国がどんどんふえていきまして、現在では117国くらいに達していると思いますが、そういうひとつの国際的な流れを見ましてもこの条約の中で、大麻をそれでは適用除外しようかというような国際的な世論が出てきたというふうなことについては、全く承知しておりせんし、そういう話を聞いたこともございません。

 で、国際的にもそういう状況でございますし、それから現にこの問題でいろいろ悩みを抱えている国もあるわけでございまして、わが国としても、そういった国の実状を見るにつけ、やはり私共としては少なくともわが国は薬物の乱用ができるだけ少ない国にしたい、というふうに考えるわけでありまして。

 そういった意味で法律の運用を緩める、ということについては私は適当じゃないと思います。

弁護人

 その国際的な慣行ですけれどもね、確かに条約上の定義としてはトップの部分だけ規制してますよね。

 そこら辺のところを規制していこうというのが国際的なひとつの常識なんじゃないですか。

証人

 その植物のどこの部分を規制するか、というのは私が思いますにはまさにその部分が一般的に使われている、というところから発したものだと思うんでございます。

 じゃあ、ほかの部分に同様の成分がないか、といったらけしてそういうわけではありませんから実際問題としては植物全体を規制するといいましょうか、日本で言えば成熟した繊維をとるための茎だけは、これは関係ないわけですから除外しているというのはまことに理由のあるところだと思うんですが、葉を含めて規制することについて、特にそれがとびぬけて厳しくなってしまっていると、いうふうには一概に言えないんじゃないかと思います。

弁護人

 国際的な大麻の使用の状況ですけれども、証人は台湾の状況を知っていますか。

証人

 私、わかりません。

 台湾は特に私共薬物に関係しまして、いろいろな情報がよくわからない国のひとつでもあります。

弁護人

 これは、私、伝聞なんですけれども、台湾では大麻をスープにして飲む習慣があるようですね。そういうことを聞いたことありませんか。

証人

 ございません。

弁護人

 私の知り合いの友人が台湾の医者をやっているんです。

 けれどもその方のお話ですと、台湾ではちょうど今頃ですかね、大麻をスープにして飲む習慣があって、お月見とか、いろいろな会合でそれが出る。

 地元の警察署長とか地元の名士の方がそれを楽しみにしていて、みんな参加する習慣があるということを聞いたんですけれども、そういうことはお聞きになったことはありませんか。

証人

 私は全く聞いたことがございません。

弁護人

 インドとか、ネパールでは国民が国内で使うことについては規制がないんではないですか。

証人

 伝統的に使っている国では必ずしもそういう規制をしてはいないようですが、これは私がたまたま聞いた話ですから、証明はできないんでございますが、この8月の中旬にマレーシアで国連主催の麻薬セミナーというのがございました。

 私も出席させてもらったんですがその際インドの方だとか、バングラデッシュの方だとかおりまして、いろいろな雑談の合間に伺いますと確かに彼らの中では非常に大昔から伝統的に使っている部分がある。

 しかし少なくともバングラデッシュの方がおっしゃったのは、そういう状況できわめて定着しちゃったような扱いをしているんだけれども、政府としてはこれは是非廃止の方向にもっていきたい、できることなら、2、3年のうちにーーー現在は何かバングラデッシュの場合ですと、政府が一週間に一人35グラムくらいを販売しているという状況があるようですが、こういうことをできればここ2、3年のうちにやめたいということを述べておりました。

 基本的には伝統的に使っている国でありますが、できるだけそういうものをなくすような方向へもっていきたいというふうに、少なくとも政府の関係者は考えているようでございます。

弁護人

 スペインでは2年程前に、大麻使用については成人が自宅でもっている程度は処罰しないというふうに法の運用が変わったんじゃないですか。

証人

私、承知しておりません。

弁護人

 オランダの事情はどうですか。

証人

 承知しておりません。

弁護人

 オランダでは法律があるけれども政府の方で場所を指定してその場所で、ーーー具体的には若者が集まる公民館みたいなところですがね。

 そういうところでは販売していいんだと。

 私、実はオランダのアムステルダムでそういうところへ行ったことがありますけれどもね。

 で、特別に弊害は起こっている様子はないということですが、そういうことはご存じないですか。

証人

そのオランダの状況につては私、承知しておりません。

弁護人

 あと、アメリカですけれども、アラスカ州では自宅で大麻を栽培したり、所持しているものについては規制をしていない、という取り扱いになっているんじゃないですか。

証人 

 ええ、そのように聞いていおります。

弁護人

 それはどういう事情からそうなったかご存じですか。

証人

 アメリカの場合には1970年代の始めでしょうか大麻の乱用というものが拡がりまして、その中で種々論議が行われ、いくつかの州で、少量所持と申しましょうか、そういうものについて州法の改正が行われるという中で、アラスカ州ではこのような改正が行われた、というように聞いています、

弁護人

 そのきっかけになったのは、裁判で無罪を言い渡される、というようなことがあって、それがきっかけのなったんじゃないですか。

証人

 そのきっかけについては、私、詳細には承知しておりません。

弁護人

 証人は職務の中で食品添加物とか農薬等の規制を担当されているとおっしゃいましたですね。

証人

 はい。

弁護人

 食品添加物や農薬もひとつの薬物と考えた場合、大麻とくらべて特に大麻のほうが害があるというようなことは、言えるでしょうか。

証人

 それは食品添加物とか農薬の規制の考え方と申しましょうか、実際に規制の仕方が違うと思います。

 と申しますのは、食品添加物とか農薬を規制する時の考え方というのは、これはもう意図的に人が加えるわけで、しかも産業上何らかの必要性があって添加されるわけですから、添加する上において、元の食品の毒性を少しでも高めるものであってはならない、という考え方をとっておりまして、現在の規制においては、食品添加物の場合ですと、人に投与するレベルの100倍とか1000倍とかを動物に投与いたしまして、それで動物の一生涯にわたる期間の毒性実験をやりまして、それで全く影響がない、動物には全く影響がないというふうに見られるレベルをまず見きわめまして、それに対して少なくとも100倍以上の安全率をもって、人に対する安全率とする、というような形でやっておりますので、現実の食品添加物なり残留農薬の規制値というのは少なくとも動物実験で見られるさまざまなイフェクト、というものがあるわけですが、そういうものにくらべますと、実際には極めて低い量になっておりまして、私共、実際には食品でいろいろ分析したこともございますが、動物での無作用レベルーーー動物で作用のないレベルにくらべますと、普通の場合でも500分の1とか、極端な場合には1万分の1というレベルになっています。

 従って通常の食品を摂取する過程での安全性というものはもともと人に対する作用というのは、全くありえない。

 生理学的な作用、或いは生物学的な作用、というようなものはありえないレベルで規制しているというのが実情でございます。

弁護人

 大麻についても実際の作用を具体的に厚生省として調べるというようなご計画はないんですか。

証人

 私共麻薬課としてもいろいろ研究は進めておりますが、私共現状で申しますと、研究のプライオリティというのは覚醒剤の問題においておりまして、ここ2、3年を見ましても覚醒剤中毒患者のケーススタディだとか、覚醒剤の脳内での作用のメカニズムの研究だとか主として、覚醒剤の問題を現状では取り上げているというのが実情でございます。

 やはり予算というものがある規模で決められているわけですから、やはりプライオリティの問題があるわけでございまして、私共現在は覚醒剤の問題に力を注いでいるというのが実情でございます。

弁護人

 厚生省としては年間1000人以上もの逮捕者が出ていますし、これに要する税金ーーー法を執行するための費用ですね、というのも警察官の人件費から始まって多大な支出になると思うんですが、そういう税金の適正な執行という観点からしまして、たとえば、アルコール、タバコ並の規制に変えるとか、そういう観点からする調査というものをされる予定はないんですか。

証人

 現在のところそういうことは考えておりません。

 これは私の個人的な意見にわたるかもしれませんが、やはり薬物の乱用というのは、非常に国際的に問題になっている、ということを申し上げましたが、それはアルコールであれ、あるいはタバコであれ、けっして人間の体に害がないものではないわけです。

 それはそれで害があるわけどすけれども、だからと言ってそういうものが規制されていないからこれを緩めるということではなくて、むしろ新たにそういう人間の体に、あるいは公衆衛生上害が予測されるものについて、これをわれわれの生活の中にとり込んでいくというような考え方はとるべきじゃない、というふうに私は思っておりまして、従いまして現在の規制を緩和するというよりも、むしろこういう厳しい規制の中で、国民の方がこういう薬物の乱用に手を出すことを防ぎたい、使わないでいただきたいというふうに、私は願っておるわけです。

弁護人

 ところで、大麻の作用の中で有益な作用として、医療上の治療効果があるんだというような報告はございませんか。

証人

 私が読んだ文献の中で、それに触れておりましたのは、1982年アメリカの科学アカデミーのインスチュート・メディシンが出したレポートの中でそのことに触れたレポートを読んだことがあります。

 その中では、確か吐き気の防止だとか緑内症の時の眼圧上昇の防止に有効性があるのではないかという記述がありまして、他方やはりそれに伴って起こってくる副作用と考えられます精神作用、その他の生物学的な副作用は必ずしも好ましいものじゃないということから、その有効性については、まだアメリカの科学アカデミーの意見としては決めかねるという実情にあるような理解を私は致しました。

 で、確かWHOの方でもこの点について評価していますが、薬品としての有効性と公衆衛生上の危害というものをはかりにかけた場合公衆衛生上の危害というものがをはかりにかけた場合、公衆衛生上に危害というものが十分に評価されていないから、まだこのものも薬品としての有効性あり、とするには若干早いんじゃないかという評価をしているということを文献上読んだ記憶があります。

弁護人

 証拠関係カード記載の弁護人請求番号16小林 司著「心にはたらく薬たち」192ページ12行以下193ページ1行目までを示し、かつ読み上げた。

 「1974年にはフレデリック・プラントンが、大麻を使って眼内圧を下げ。緑内障の治療をした。二年後には、ミシシッピー大学でも、緑内障に有効なことが確認され、フロリダ、ニューメキシコ、ハワイ、インディアナとイリノイの各州では、マリファナを医学に使うことが合法化された。

 またその後ガンに対するかがく療法に伴う副作用としての嘔吐を押さえるために、大麻が一番有効なことが確認されている。米国保健・教育・福祉省の『マリファナと健康』第5リポート(1976年)によるとマリファナは、眼内圧降下、気管支拡張、坑けいれん、腫瘍制御(坑ガン作用など)、鎮静睡眠、鎮痛、麻酔前処置、坑うつ、坑嘔吐、などの作用をもっており、アルコールや薬物依存などに有効だ、という。アルコール依存に効くのは、マリファナがストレスを減らし、怒りにくくするかららしい」

 こういう記載があるんですが、この内容については正確だと思いますか。

証人

 私、この第5レポートという、ここに引用されている1976年のレポートは目を通したことございません。

 今、私が申し上げたのは、1982年の科学アカデミーがアメリカの厚生省の依頼を受けて関係学者を集めてまとめたレポートでございまして、そこでそのようなことを読んだ記憶があります。

弁護人

 大麻について、第5改正日本薬局方に収載されていた、という記載もあるようですけれども、とりあえず医薬品として認めて、医師の処方のもとに使ってその中でデータを集めながら、法の運用を考えていくというような考えについて、厚生省ないしは証人としてはどう思いますか。

証人

 私の所管外のことをお答えするような形になりますが、一般論として申し上げれば、近年医薬品の承認ということは、わが国では過去にいくつか薬害、と呼ばれるような大きな災害を経験しておりまして、ここ20年くらいの間だと思いますが、医薬品の安全性というものに対する考え方は、わが国はある意味では世界に類例がないくらい厳しくなっていると思います。

 特に新しい薬を評価する場合に、そのものが持っている効果と、そのものが持っている副作用というものをどう評価するか、ということが一番のポイントでございますけれども、本当に他に変わるべき薬剤がなくて、救命上どうしても使わなければならないような薬の場合には、相当な副作用があっても、許可せざるをえない場合がある、まさに抗がん剤というようなのはそうでありまして、抗がん剤というのは、一般には極めて副作用が強いわけですけれども、それを使わないと、今のがん療法の上ではどうしよもないという場合にはそれを使う場合があるわけですけれども、今、ご指摘のようなものについて、たとえば、そういう一種の精神作用が副作用として出てくるというようなものについて、どのものの持っている効用の側面と比較して、本当に医薬品として認知されるかどうかというのは、私はなかなかむずかしいんじゃないか、たとえば、緑内障の治療の時に投与しました、その時に精神作用が出てきます、というようなことでありますれば、今に新薬審査の過程では、この作用がどうして出るのかどういう頻度で出るのか、臨床上絶対にその患者にとって問題にならないか、ということは徹底して審査の対象になる、というふうに私は思います。

 ですから、私、今のご質問の薬として認可してどうかということに関しましては、もう全く仮定でしかないわけですけれども、そういうものが、簡単に認可の対象になるというふうには思えませんです。

弁護人

 たとえば、私の知っている例では、アルコール中毒とか、睡眠薬中毒が治った、ということを聞いたことがあるんですが、そういう薬物中毒とか、不眠症の人に対する治療、そういうまさに精神作用上の効果に着目した形での使い方、そういうものを精神科の医者が使うというような可能性はないんでしょうか。

証人

 ちょっと私、いずれにしてもそれは文献上の記載として読んでいるだけでございまして、実際効果があるないというのは、本当にどの程度、どういう状態で効果があったのか新薬のいわば..........

弁護人

結構です。

被告人

 厚生省の発行した「大麻」なんかでも、ものすごく悪いようなことが書いてあって、幻覚があるとか、公衆衛生の問題があるとか、いろいろ書かれていますけれども、僕が体験した中では僕自身酒なんかもやめたし、人と仲良くなるようなことがあっても人に迷惑かけたり危害をおよぶすようなことはなにもしていないんです。

 だから今日来ていただいたわけですけれども、はっきり言って、どこがどういうふうに悪いのか何一つ出し切れていないように思うんで、もう一度どこがどういうふうに悪いのかはっきり言ってほしいんです。

証人

 どこが悪いということについて、私としては先程来申し上げたわけですけれども、それは私の一種の記憶の範囲で申し上げていることでございまして、実際にはもっと詳しいさまざまなーーーもちろん確定しているもの、確定していないもの含めてですが、多くの文献というものが、日本国内では比較的少ないですけれども、特に多用されている外国では出ているわけでございます。 

 私はそういうものにもとづいて、自分の理解している範囲でご説明したつもりでございます。

 日本国内でも一部の先生方、主として基礎の分野で研究していらっしゃいますが、そういう研究を通じても、普通の動物とは違った形の反応を起こす薬物であるということが証明されておりまして、そういうものが人間の体にどういう影響を及ぼすかということは、なお解明を要する点はあると思いますし、当然そういうものが今後の課題ではあると思いますが、私のほうとしては、主として諸外国で出版されている文献について私なりの説明をさせていただいたというふうに考えております。

被告人

 刑事罰でもって、規制するというのは、内容にくらべて厳しすぎるんじゃないか、実際、たばこよりも害がないし、酒よりも害がないし、農薬なんかに比べたらはるかに安全だと思うんですが、法律でもって懲役刑という形になっているわけで、ちょっと厳しすぎるんじゃないか、僕だって職を失ったり、そういうことからいけば、誰にも迷惑をかけていないし刑事罰でもって規制する程のものじゃないんじゃないかと思うんで、その辺、立場を抜きにしてどう思われるか。

証人

 くり返しになるかもしれませんが、私は、薬物の乱用というものは、人々の健康を守ろうという上においては、やはり、なくす必要があるという考え方をもっております。

 これは、私独りの考え方というよりも、私は、国会の先生方に代表されるような国民の意見だというふうに理解しております。

 そういう意味で、これまでに作られた法律がどの程度の罰則をもって、そういうものを禁止するかということはーーーーーどのレベルが適当かということについては、それぞれの方によって、お考えが違うかと思いますが、現在はご指摘のように、懲役刑というものをもってこれは、ルール違反になりますよということを決めているわけでありまして、私としては、これは厳しすぎるというよりも、むしろ、是非こうした薬物を使わないでいただきたいというふうにお願いしたいのでございます。

弁護人

 1977年にアメリカのカーター大統領の教書が出ていますけれども、その中で、薬物規制の考え方として、その薬物が与える害よりも大きな害を与えてはいけない、というような一般原則が示されていると思いますが、これはご存じですか。

証人

 アメリカの報告書の中で、読んだことはございます。

弁護人

 そうすると、例えば、人に危害を加えるとか、そういう具体的な被害というものがあれば、それに応じて規制するということはわかるんですけれども、大麻の場合は、アメリカの全米委員会の報告にもあるように、犯罪の原因にもならない。

 また、具体的な犯罪行為には何ら結びつかないというような報告もされているんですね。

 そういうような観点から、規制のあり方を考え直すという点については、どうお考えですか。

証人

 私は、そういう規制のあり方をつまり規制のレベルをどこにおいて予防を含めて効果を確保していくかということは、やはり、それぞれの国の考え方があるのではないかと思えます。

 確かに、アメリカのその報告書、カーター時代でございますか、ありますけれども、それじゃそれによってアメリカが全部そうなったかと言うは、それは必ずしもそのような改正が全部の州でなされたということではございませんし、現在でも、私の極く限られた知識でも、ほかの薬物で申しましても、無期懲役までの国もあれば、死刑まで採用している国もあるというような実情でございまして、それは、それぞれの国が立法の過程において、どういうレベルで規制をはかるかということは、考える余地が当然残されているんじゃないかと思います。

弁護人

 一点確認しておきますが、全米委員会の薬物乱用に関する報告書というのがありますね。

 これが1972年と3年に出ていますが、その中で、マリファナの作用は、暴力的であれ、非暴力的であれ、犯罪の原因とならないし、犯罪と関係することもないと指摘されているのは、事実ですか。

証人

 そのような記載があったことは記憶にあります。

検察官

 先程、弁護人からの質問で、大麻中毒者が20年間に25例報告があったという証言がありましたが、その他の薬物中毒、たとえば、ヘロイン、コカイン、モルヒネ、アヘン、覚せい剤について症例数は、何例報告になっているか、資料がございますか。

証人 

 資料ございます。

検察官

 では、ヘロインについては、過去20年間に何例にお報告がありましたか。

証人

 (持参の資料を見て)合計が出ていないので年度別に申し上げますが、ヘロインについては41年65例、42年204例、43年10例、44年3例、45年6例、46年なし、47年38例、48年54例、49年41例、50年35例、51年8例、52年4例、53年9例、54年1例、55年3例、56年なし、57年5例、58年1例、59年1例でございます。

検察官

 コカインについては、どうですか。

証人

 コカインについては、40年以降60年に1例だけでございます。

検察官

 モルヒネはいかがでしょうか。

証人

 モルヒネは、40年は報告ございません。41年114例、42年63例、43年46例、44年25例、45年10例、46年14例、47年2例、48年7例、49年なし、50年1例、52年1例、53年1例、54年1例、55年1例、54年1例、54年1例、55年1例、56年1例、57年0、58年2例、59年1例、60年0でございます。

検察官

 コカインは、中毒者の報告は1例のみ、ヘロイン、モルヒネについては最近10年間をとってみれば減少傾向にあるということでしょうか。

証人

 そうでございます。参考までに、アヘンは41年3例、42年5例、43年5例、44年なし、45年1例、46年なし、47年1例、48年1例、52年1例、55年1例、60年1例、60年1例というような状況でございます。

検察官

 そして、大麻については、先程ご証言があったように60年までの20年間に25例の症例報告があったということなんですね。

証人

 症例と言いますか、中毒者としてまず、報告がございまして、そこで鑑定が始まりますので、措置をして入院させなければならないかどうかは、また別です。

 今申しましたのは、中毒者がいましたと報告があったものという意味で私は申し上げました。

検察官

 証人は、大麻性精神病の患者さんに面接した機会があったわけですね。

証人

 はい。

検察官

 その際にでも、特に、大麻性精神病について臨床学的に研究なさっている医師というのは御存じないでしょうか。

証人

 私がたまたまその節お目にかかった方は、東京の桜丘保養院の.....副院長先生でございます。

検察官

 証人の記憶では、その方が大麻性精神病について比較的詳しく研究なさっている。

証人

 研究と言いますか、臨床経験がある、実際に患者さんを扱った経験があるということです。

検察官

 証人は、その先生から、大麻性精神病の特徴というか、何か聞かれたことがありますか。

証人

 その節、教えていただいたことは、大麻精神病の患者さんというのは、たまたま私が1例だけ面会いたした事例と同じでございまして、実際、とらえどころのない状態というんでしょうか、文献上もよく出てくるんですが、アモティベイショナルシンドロームというような言葉で表現されていますが、まさに、そういう状態がこの患者さんの状態ですというお話がごさいましが、実際に茫洋とした感じでどこを見ておられるのかよくわからない、いくら話しかけてもこちらを見てくれるんでもないし、反応も全くないというような状態でございまして、そういう感じが初期の、入院時の感じとしては、割合共通しているということをおしゃっていました。

 その時のお話では、その先生は、過去数例そういう患者さんを経験されたことがあるというようなお話もあわせて伺いました。

検察官

 1961年の麻薬に関する単一条約に関する質問がありましたが、要するに、この単一条約で規定されている大麻とわが国の大麻取締法にいう大麻の定義が異なっていても何らの矛盾はないんだというご見解なんでしょうか。

証人

 はい。定義が異なると言っても、どこまでの部分を規制するかという意味での定義で、条約上の規定というのは、これはミニマムでして、これ以上広げて国内法で規制するということが条約に抵触するとかいうことにはならない、というふうに理解しておりまして、そこの部分は特に条約上に矛盾はないのではないかと考えております。

裁判官

 先程の25例ですけれども、これは、全部鑑定した、といいうことになりますか。

証人

 はい。都道府県でやられたということです。

裁判官

 その結果、全部が措置入院になったかどうかはわからない。

証人

 は。そのとおりでございます。全部が措置ということではない筈です。

裁判官

 それは、制度上そうとは限らん、ということでしょうけれども、内容的に全部措置入院になっていないということまでは、おしゃっれないんでしょう。 

証人

 それは言えると思います。

裁判官

 それは、つかんでいるんですか。

証人

 ある程度、私共の方ではわかりますので、ただそのうち、じゃいくらがそうだったのかということには直ちには.....。

裁判官

 措置入院の必要までは、なかった事例もかなりあるということですか。

証人

 措置というのは、必ずしも病状で措置することができる、という規定ですから病状だけではございませんで、実際には同意入院という形でやる場合もありますので.................。

裁判官

 その報告があった25例について、それがたとえば大麻をどの程度使用していた人なのか、あるいは、鑑定の結果どうだったのか、そういうことまではつかんでいるんでしょうか。

証人

 それは、私共の方には報告は参りません。

 あくまで、こういう事例がありましたからという報告一件上がってくるわけです。

裁判官

 別の角度からですが、麻薬取締官の方で、大麻の違反例というのを把握する、キャッチするわけですね。

証人

 はい。

裁判官

 その内容がどういうものだったかということは、集約されているんですか。厚生省では。

証人

 違反の態様ですか。

裁判官

 それが、過去どのくらい使用していたかとか、その量とか。

証人

 それは、その後の裁判に過程で出されるための調書とか、そういう類いの中では、あるいは聞くことはあるかもしれませんが、私共の方には全く参りませんので、私共は個々のそういう事例の中身について承知することというのは、特に何か大きな事件があったというような場合には、私共が聞くことによって内容を処置することはありますが、通常はそういうことはありません。

 従って、そこら辺の詳細については行政サイドではわかりません。

裁判官

 アメリカの政府の動きなんかを見ますと、大麻使用の実体とかあるいは、具体的な使用者に出てくるいろいろな身体的、精神的な症状であるとか、そういうデータを取締機関とか医師とか、そういうところから積極的に集約して、今後の方針に役立てようと、かなりしているようですけれども、日本では特にそういうことはしていないわけですか。

証人

 そうですね。大麻については、そういうことをしたということはありません。

 もちろん外国のそういった報告については、全部フォローはしているつもりです。

裁判官

 フォローというのは、具体的には、文献を集めて内部で翻訳して読むということですね。

証人

 そうです。私共、そういう意味での研究をやっているのは、むしろ覚醒剤...........。

裁判官

 覚せい剤を今優先的にやっているということでしたけれども、大麻についてはなさっていない。

証人

 はい。

裁判官

 厚生省で、過去、「大麻」というパンフレットを作ったことがあるようですね。

証人

 はい。

裁判官

 これは時期は昭和20年代ですか。

証人

 そんなに、古くはないと思いますが.................。

裁判官

 厚生省薬務局麻薬課発行「大麻」昭和51刊を示す。

証人

 これは、初版が43年となっていますですね。

 43年に「大麻」という小冊子を作成して関係機関に参考として配付したと、しかしその内容が、年の経過と共に古くなり、不正確な部分があることが関係者から指摘されて改訂にふみきった、という記述がございますので、改訂は51年でございますから、今から10年前ということになります。

裁判官

 この51年版の内容は、今でも維持しておられるというか、改訂に必要についてはないというお考えですか。

証人

 私共一応計画としてはーーーーー私、今10年というのはちょっと記憶になかったんでございますが、かなり経っているから、10年も経てば学問も進歩していますから、改訂の計画もしなければいけないという声は、実は、課内にはございまして、今後のひとつの予定事業としては考えれおります。

 しかし、具体的に今すぐそれに着手できるかといえば、今すぐいつからということは、私申し上げかねますが、そのような声はごさいます。

裁判官

 そうすると、改訂作業のために、外国の文献だけでなしに、日本での大麻の使用の実態といいますか、そういうものをある程度把握しておかなければいけない、ということはないんでしょうか。

証人

これは、私、大麻に限らず、一般論で申し上げますが、どういう段階でいろいろな薬物の使用実態というものをーーーー実態と申しましても、いろいろあると思いますが、こういうものについての疫学的な調査というのは、今の段階でできませんので、そうではなくて、個々の事例について、どういう期間、どういう量使っている者かどうかとか、いうような情報というのは確かに必要だとは思います。

 今までは、そういうデータを系統立てて集めたというのは、私共としてはないのでございますが、しかし、今後そういうデータがどういう形かで集められればいいなというふうには私は考えております。

 そういうものも事件の処理というだけでなくて、やはり、あった方がいろいろな意味で参考になるのではないかというふうには考えております。

裁判官

 成年が少量を使用するというふうな場合には格別弊害もないんではないか、というような議論がよくされていると思うんですが、今の使用の実態との関係で、そういうような使われ方の場合にどの程度マイナスがあるのか、あるいはその規制についてどの程度どういう形で規制なり処罰をするのが望ましいのか、こういうふうな使用実態に即した検討と言いますか、つまり大量に長期間用いた場合の弊害というのと、また別にそういうふうな角度からの検討というのはーーーーーこれはアメリカの動きの中心にはなっているようですが、日本では具体的に格別にはしておられないということでしょうか。

証人

 はい。私共、これまでそういう視点での検討というのはしたことございません。

 若干申し上げれば、これは私の個人的な意見にわたる部分もあるわけですが、確かに、アメリカでは過去いくつかの州で法律を変える、というふうな動きがあったことは事実でございますが、そういう形を採ることによって、アメリカがめざそうとしたものは一体何だったんのかということに疑問を感ずるわけでして、犯罪としてそれと取扱うかどうかという側面以上に、基本的に薬物乱用というものをなくしていこうという視点に立った時に、私は若干疑問を禁じえないわけです。

 よく、こういうものを使えば、次の薬物に移行するとか、しないとか議論があるわけですが、それは、別にしましても、やはりひとつの社会的に薬物乱用というものを、許容する土壌を広げることによって得たものというのは、やはり、私は今のある意味での米国の現状ではないかというふうにも思うわけでございます。

 それは、必ずしも大麻を使っていた方がヘロインを使い、あるいはコカインを使ったとか、そういう証拠はないようでございますし、それにつながるということではございませんけれども、やはり社会的な意味で薬物乱用を許さない、という風土と言いますか、そういうものを醸成するということは、非常に重要なファクターじゃないかというふうに、私は思っておりまして、今、アメリカは一生懸命世界中に向かって薬物乱用をなくすように協力してくれということを叫んでおりますが、そのようになってはーーーーーーそのようになるという意味じゃありませんが、そのように日本がなっては大変だということを感じるわけです。

裁判官

 日本とアメリカとでは、事情というか、前提が違うというだけではなくて、アメリカ自身にとっても賢明な選択ではなかったのではないかというご趣旨の意見。

証人

 はい。あくまでも私の個人的な意見ですが、そのように感じております。


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