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Victorian Internet


Victorian Internet

副題は、The Remarkable Story of the Telegraph and the Nineteenth Century's On-Line Pioneers。
一言でいうなら電報の歴史。今インターネットの効用、影響が色々あげつらわれているが、ビクトリア女王の時代、電報は当時のインターネット的な存在だった、というものです。 クロード・シャップの腕木信号から始まって、ホイートストンやモールスの電報が出現し、電話、テレプリンターにその地位を譲った歴史を簡潔にまとめています。

発明者の苦労は、新規な発想を現実のものにするという問題解決もさることながら、むしろ(軍事、郵便、鉄道、金融など)広範囲に活用できることを説得して、資金支援をえる努力こそが、実に大変だということを浮き彫りにしています。技術そのものより、現実と戦う発明者たちの姿が生き生きと描かれています。エジソンや、ベルの逸話もなかなか楽しめます。

電報オペレーターは、仕事の無いときには、今でいうチャットをして楽しみます。
電報は、競馬賭博や浮気に使われたするり一方で、凶悪犯逮捕に活用されたりもしています。
モールスの電報装置を習熟して使うのにはかなり熟練が必要であったものが、やがてより便利な装置が出来て、だれでも簡単に使えるようになってゆきます。 しろうとが参入するさまを、厳しくみる熟練職人たちの姿は、学術世界に始まったインターネットが、一般に普及し始めた時のUNIXを駆使してきた人々の反応とよく似ているようです。

「電報で結ばれることによって、世界は平和になる」という論議とよくにた説が、今でも見られます。 電報が戦争のツールとして重用されたことを見れば、インターネットの出現がすぐに平和をもたらすようなことはあるはずもないでしょう。

電報を活用したクリミア戦争報道などにみる、イギリスのマスコミと、政府との対立事例は、湾岸戦争の「管理された戦争報道」を思いおこさせます。さらに、無罪の軍人がスパイのぬれぎぬを着せられた有名なドレフュス事件も、電報と密接に絡んでいたのです。
インターネットの歴史を描いたWhere Wizards stay up lateと好一対。大勢に抗して初志を貫く人々の群像ということでは、Defying the Crowdを思い出しました。

ところで、かの有名なダン・ブリックリン(表計算ソフト、ビジカルクの発明者)さえも、推薦の弁を書き込んでいます。
原文はアマゾンコムで読めますが、要約すると下記のようなことが書いてあるようです。

新技術の導入についての貴重な教訓。
本書は、新しい技術の導入に関心をもつ人々にとっての必読書だ。
自分自身、表計算ソフト、ビジカルクを含む新技術の発明者として、「古い」技術である電報普及の様子と、新技術のそれとのあまりの類似に驚いている。 新技術に期待しすぎてもいけない、ということも指摘している。今から見れば当然に思えるような、1800年代の事例開発をあげている。

たしかITUから、From Semaphor to Satellite Communicationsという通信の歴史の本が昔でていたと記憶しています。日本語は「腕木通信から宇宙通信まで」だったでしょうか。図書館にいかなければ読めない本ですが、本書の読者には必読書かも。

(1999年1月12日記)

本の画像、あるいはAmazon.comをクリックして、本書を直接購入することもできます。


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