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Dealers of Lightning

邦題「未来を作った人々」


Dealers of Lightning

同じテーマを扱った本では、1988年に出版され、99/5に再刊されたFumbling the Future 邦訳名「取り逃がした未来」は、更にお勧め。


われわれが今当たり前のように利用しているパソコン、そのGUIインターフェース、アイコン、ウインドウ、電子メール、Ethernet、プリンタ、あるいはPostScript言語などが、実はXeroxのPalo Alto Research Center(PARC)で基本的な開発が行われたことは周知の事実です。
けれども、それがどのように発明されたのか、そしてなぜそれがXerox自身ではなく、Apple,あるいはMicrosoftあるいはAdobe, 3COMなどから製品化されるにいたったのか、という具体的な話はあまり知られていないようです。
この本は、その様子、背景を、豊富なエピソードで生き生きと再現してくれます。

PARCの中では、研究者が自分の研究テーマを同僚の前で説明し、同僚から容赦のない批判、質問が飛び交うのが通常という集まりがありました。カジノで、Dealerの手の内を読んで、ブラックジャックに必ず勝てるという方法を説明したBeating the DealerというMITの数学者が書いた本の題名にちなんで、この集まりは、Dealerと呼ばれました。
162ページには、ここたに集った研究者の優秀さを表現するァラン・ケイの発言として、The people here all are used to dealing lightinig with both hands.という言葉が紹介されています。書名はここからきているのでしょうか。

この本がかかれるきっかけについての説明が後書きです。著者はLos Angels Timesの記者ですが、1996年の9月スチーブ・ジョブスが同社にやってきたときの集まりに参加しました。Toy Storyの成功で有名になったPixar Studiosの幹部が同行していて、Microsoft対Netscape、アップル社の衰退等々についての質問が出たとき、「それは前世の話だよ。」「Pixarにいると、そういうことを考える必要がないのがありがたいね。」と彼は答え、話題はコンピュータの不思議な歴史や、コンピュータグラフィックスは、事実上ユタ大学で生まれたのだというテーマに広がりました。
そこで、ユタ大学の卒業生であるPixarのChief Technical Officer、Cutmullが、Silicon Graphicsの創始者ジム・クラーク、Adobe Systemsの共同創始者であるジョン・ワーノック、パソコンという概念を発想したアラン・ケイ、あるいはインターネットを生み出すべく資金をつけたボブ・ティラーも、みなユタ大学で数年過ごしており、さらにXerox PARCで研究を継続したといったのです。
そこで、ジョブスに、PARCで見たことを教えて欲しい、なぜXeroxはそうした技術を十分に活用できなかったのだろう?という質問をした結果、PixarもToy Storyも忘れて、ジョブスは、延々と持論を展開したのです。これが、この本が生まれるきっかけだったというのです。

ジョブスがPARCを見学して、その結果としてLisaが生まれ、Macinotshが生まれた、という話も周知のことですが、このあたり、いったい何をどう見たのか、章をひとつ設けて説明しています。真相は「藪の中」で、立場によって意見は異なるようですけれど。

バトラー・ランプソン、チャック・サッカー、チャールズ・シモニー、ゲーリー・スタークウエザーといったPARCで重要な貢献をした主な人物たちが、現在そろってMicrosoftにいるというのは、時代を感じさせる寂しい話です。こうした技術が一社に独占されなかったがために、現在があるように思うので。

ともあれ、ハイテク業界で暮らす人々には、強くお勧めしたい本です。
優れた発想をどのように製品化するべきか、それ以前に、優れた発想をする人々をどう集め、育てるかという点は、ハード一辺倒志向の日本企業の多くにとって、必要な視点、教訓だろうと思うのですが。

1999年5月3日記


毎日コミュニケーションから翻訳がでています。
「未来を作った人々」
ゼロックス・パロアルト研究所とコンピューターエイジの黎明

2001年10月2日記

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