経済紙(Wall Street Journal)元特派員による突撃レポート?読み始めたら止まらない面白さ。ミステリー小説もかないません。そもそも新米レポーターとして、ウクライナに駐在している著者、ギャングに襲われすんでの所で命が助かるというプロローグから始まります。あとは目出度くモスクワ駐在員となったブレジンスキーの現地報告。Wall Street Journalに多くの部分が掲載されたようです。名前で分かるように、彼はポーランド系カナダ人ですが、叔父がかのズビグニュー・ブレジンスキー。
カジノ・モスクワという題名ですから、コネ資本主義の中で、濡れ手に粟の儲けをする財閥連中の生態はもちろんテーマの一つですが、日常生活に密着した描写が巧みです。アパートのエレベータで、「シベリアの理髪師」撮影の為に、モスクワに滞在している、ジュリア・オーモンドにでくわしたり。舞台はモスクワに限られません。
ペテルブルク、サハリン、ウラジオストック、ヴォログダ、ドニエプロペトロフスク、チェルノブィリ、ウクライナ、白ロシアと、様々な地域の様子が描かれています。チェルノブィリでは、日本人国連幹部の記念演説にも立ち会います。おりしも突風がまきおこり、ガイガーカウンターの針が大きく振れて、式典も早じまい。サハリンでは、サンタホテルに泊まり、日本酒を飲んでいます。豊富に油を産出する地方がなぜ異様に貧しいのか、彼は原因追及を怠りません。軍需が冷え切った軍需工場に、石油採掘プラットフォームの仕事が転げ込み、職人たちは喧嘩をして仕事を奪いあいます。仕事の管理に駐在するアメリカ人、あるいは軍需工場を監視するCIAではないか?と懸念をもつ著者です。ところで、国連幹部の他に、日本人はたしかあと二度触れられています。サハリンで、熊に襲われて亡くなった写真家(星野さんでしょう)と、かの有名なNight Flightであっというまに四人の女性をみつくろって連れ去る日本人ビジネスマン。後者はどうも外国人による日本人像のステレオタイプのようです。
テロ、殺人というと、チェチェン人が疑われることが多いようですが、ラディソン・ホテルの支配人はウマールというチェチェン人。モスクワ市長に任命されて支配人をしているとあります。
Белое солнце пустыняという高級レストランで、特派員やら金融関係の知人と飲んでいて、隣のマフィアにいちゃもんをつけられます。最後は、機関銃を持った店のガードマンに追い出されます。「ここはロシアだ。アメリカじゃないぞ」と。名前を拝借したマカロニ・ウエスタンならぬロシアンウエスタン映画をもじった内装、服装の女性が現れる超高級レストランのようです。
ヴォログダのピオネールキャンプでの実験には圧倒されます。資本主義とはどういうものかを子供にゲームによる実践を通して教えようとするのですが。ゲームの為の偽札は作るは、摘発役の警官役は寝返るは、という具合で、現実ロシア社会の鏡像のような事態に発展し、とうとうゲームは終わりとなります。
やがてバブルは崩壊し、著者と妻は、(一時は権力の絶頂を極めた友人夫妻も)ロシアを脱出します。モスクワを去るべく空港のバーにいた彼がテレビで見たのは、モスクワ市長がおもむろに宣言する姿でした。「諸君、実験は終わった。」
後に残った著者の同僚は、Wall Street Journalモスクワ支局のロシア経済レポートによって、1999年ピューリッツア賞Pulitzer Prizeを受賞しています。目次は以下。
(01/09/01記)
2003/5/31に翻訳が出ています。
ロシア・アンダーグラウンド イーストプレス刊 1900円
(03/06/24記)
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