私とロータリー

ー第8話ー

胎動するRE



「未来のREのために、今こそRX−7を・・・」

沸き立つREへの思いが「行動」を決断させたあの正月。
あれからもう3年の月日が経過していた。

20世紀最後の年、2000年の2月。

あの頃よりもさらに進化しタフになった心臓と
とびきりしなやかな味わいの足を備え持つ、
新しいタイプRSが
私のもとへやって来ることになった。






シルバーストーンメタリックは
永年憧れていたボディカラーだった。

落ち着いた雰囲気だが、決して沈むことはない。

Rotary Best Pure Sportscar として
数々の「主張」が込められている、RX−7。
それらを黙して語らせるには
ピッタリの色だと密かに確信していた。



はたして、自分のチョイスに間違いはなかった。
物静かな佇まいと、
秘めたるポテンシャルの絶妙なコントラスト。
個性溢れるFD3Sのボディラインを
目立たせ過ぎず、しかし、覆い隠さず。





「RotaryEngine」抜きには決して語れない、超一流の
動力性能、コーナリング性能、デザインの融合。
スポーツカーの頂点を極めんとする孤高のクルマに
最高に相応しいボディカラーに思えた。

でもそれは、
あくまで個人的なクルマの嗜好の話。



今、新たに手に入れようとする相棒は、
3年間苦楽を共にしたこの4型RSから引継いで、
私のREへの想いを表現するキャンバスとなるのだ。
ならば、
RX−7が最も活き活きとするステージ、
そう、
「サーキット」において
一番映える色にしようと決めた。



98年の暮れにデビューした最新型RX−7。
このモデルを象徴する鮮やかな新色、
精悍な「
イノセントブルー」も
とても魅力的な選択肢ではあった。

しかし、私の選んだ答えは


ヴィンテージレッド」。

5型RS@東京モーターショー


その理由は至って明快。

イノセントブルーは、多くの5型RX−7ユーザーが
積極的にチョイスしている大の人気色であるから、
サーキットでもその勇姿を十分に拝むことができるのだ。

とくに、私が毎月参加している
MINEサーキットでのLEAD走行会では、
講師・従野孝司選手のドライブによって
イノセントブルーの物体は、いつも我々に
異次元の速さを披露し続けているのである。


そこで私は、スポーツカーの定番色でありながら
最近見かける機会のめっきり少なくなった、
ヴィンテージレッドの華やかさに注目した。
最新型RSの比類無い速さに乗せて、
あらためて今、サーキットのライバル達に
レッドのRX−7を印象付けようと企てたのである。

それともうひとつ。
あの正月の一大決心によって、
急遽手放してしまった
赤いランティスクーペ・・・。
アイツに乗る時にいつも感じていた、
「ワクワク」と、「ドキドキ」。
あの昂ぶる気持ちが忘れられなかった。




無論、この色の持つ「注目度」に不足はない。
だから、絵筆を持つ手にも力が入る。



このクルマをキャンバスに
これから私が描いていくモノ・・・











・・・ちょうどその頃、

同じような真紅のボディへの着替えを済ませ、
行く先々で衝撃と感嘆の渦を巻き起こしながら
欧米の大陸を駆け抜けるクルマがいた。

3ヶ月ほど前、1999年東京モーターショーで
一大センセーションを巻き起こしたクルマ、
「RX−EVOLV」である。





TOKYOで魅せた神秘的なシルバーと異なり、
このメタリックのレッドはさらに強烈にその存在を誇示し、
次なる新世代REマシンへの大きな期待を
抱かせてくれるものだった。



20世紀末に颯爽と登場し、
世界中の注目を集めたRX−EVOLV。
いまだようやく四半世紀を超えたばかりという
あまりにも若いRotaryEngineの歴史に、
無限の可能性を感じずにはいられない。

このクルマを単なるショーモデルのままで
終わらせてはならないのである。

ロータリーを愛する人々のためにも、
ロータリーエンジン自身のためにも。

MAZDAの持てる開発力を注ぎ込んで
これこそBESTと胸を晴れる、
最新REテクノロジーを我々に届けて欲しい。






そんな我々の期待に応えて、
新世代REマシンは着実に胎動していた。

20世紀最後のクリスマスプレゼントが
12月11日、MAZDAから発信された。

1月のデトロイト・北米国際オートショーで
RX−EVOLVの進化版モデルを披露するという、
プレスリリースがそれであった。






−第8話 おわり−