映画感想

映画感想(鳩よ!原稿バージョン)




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劇場やテレビやビデオで観た映画の感想。具体的なシーンについて書いているネタばれな部分は背景と同じ色にしているので、すでに観た人は、カーソルでひっかいて反転させて読んでください。まだ観てない人は、反転させずに飛ばして読んでください。
マガジンハウス「鳩よ!」の映画コラムの原稿の初期バージョンを掲載しています。

「ワンダフルライフ」
 映画を観なくても死にやしない さ、と言う人がいるが、死ぬので ある。観ても死ぬから人間はやっ かいだが、考えようによっては、 どのみち死ぬのだから単純で良い のかもしれぬ。
 さて、死んだ。
 古い校舎のような場所。死んだ あなたは、こう言われる。あなた の人生の中から大切な思い出をひ とつだけ選んで下さい。そして、 その思い出をわれわれスタッフが 再現しフィルムにして上映会をい たします。その時の気持ちだけを 胸にあなたは天国に向かうのです 。
 「ワンダフルライフ」は、そう いった設定の映画だ。
 死んでいる。「ワンダフルライ フ」に出てくる人たちは、生きて いるという設定の登場人物はひと りもいない。だが、死についての 映画という印象は残らない。天国 に向かう前の人たちは、死者でも なく生者でもない。そういった何 か人生(というと生きている時だ けになるからダメだ、ええと、生 死を越えた永遠の時間)の上から ひょいと脇道にそれて、ちょっと 一休みしているのような、そんな 空間。長い長いレールの脇の原っ ぱで、今まで来た遠い道を眺め、 そして反対を向いて、まだまだ続 く長い道を望む。そんな優しい時 間を感じさせる。人と人とは、ど うやって関わっていくのだろうか ? 思い出というのは、来た道の 中にあるけど、望む道を見ること によって生まれてくる。人の時間 の一部を、こんなにも優しい時と して描いた映画があっただろうか 。
宮沢賢治が死を前にして書いた詩 「眼にて云う」の一節を思い出す 。
どうも間もなく死にさうです
けれどもなんといい風でせう
この映画は大切な人と 一緒に見て欲しい。そ して、見終わった後、 今までの人生の思い出 と、これからの人生の 思い出について語り合 えると良いと思う。そ んな映画だ。

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「I WANT YOU」
 光は波で、その波の違いで人は 世界を見る。人が見ている波長と 、 蝶が見ている波長は違う。人はお よそ400〜730ナノメートルのせ まい範囲しか見えていない。蝶の 可視領域はもっと紫側。蝶にとっ て人間は紫外盲であるらしい。人 間が綺麗だと思って見ている蝶の 翔も、蝶にはまったく違う模様、 違う色に見えている。人と蝶は異 なる光を見ている。異なる世界を 見ている。
 映画は光だ。「I WANT YOU」 の映像は、同一色に染められてい る。蒼い光の中で蜃気楼のように 揺れる蒼い男女の影。黄色い空と 黄色い浜辺の中を走る少年。
 主要な登場人物は、少年、姉、 女、男。4人の関係も過去も説明 らしい説明はない。徐々に色々な 事が見えてくるのと同時に、それ ぞれが抱えている闇が見え始める 。
 4人の抱える闇の違い。人が見 ている波長も個人差がある。人は 、 それぞれ微妙に違う蝶の翔を見て いながらコミュニケートしようと する。その微妙な差は埋められる ものなのだろうか? 4人の愛や 憎悪の微妙な差は、どうしようも ない差のように思えてくる。いや 、 この作品に登場する者たちだけの 話じゃない。わたしとあなたの世 界は、人と蝶が見ている世界のよ うに異なっているのかもしれない 。
そういった絶望(だが、しかしそ れは同時に希望なのかもしれぬ) が、説明ではなく、映像から伝わ ってくる。同一色に染められた世 界は、今まで自分の眼球に映し出 された世界と異なっているにもか かわらず、恐ろしいまでのリアリ ティを感じさせるよう に、4人は異なる世界 を見ていながらも、強 烈なパイプでつながれ てどくどくどくどくと 何か己の体液のような ものを交換しあう。
「I WANT YOU」は暗 闇の中で、希望、絶望、 愛、憎悪、そんなもの たちを同一色に染め上 げる衝撃的な光だ。



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「メイド・イン・ホンコン」
 メイド・イン・ホンコンという 映画である。試写場。途中のシー ンから隣の人が泣きはじめた。自 分は、この映画では泣けないな、 と思っていた。少年が主人公で、 恋した少女が死に至る病。臓器を 移植しなければ長くはもたない。 そういった設定が判明したときに、 おお、わたしはこのような設定で 泣けるほどピュアではありませぬ! と、引いた気分になってしまった。 主人公は魅力的に描かれており、 感情移入して見ていたのだが、す ーっと映画を客観的に見てしまう 位置に引いてしまった。だから隣 の人が泣いている様子を感じて、 あぁうらやましいなぁ、ピュアな 人なんだなぁ、と思った。映し出 される香港の風景は、自分が幼か ったころの風景のようで、けっし て嫌いな映画ではないが、のめり こんではいないな、などと考えな がら見ていた。
 最後まで冷静に見ていたように も思う。
 だが、ラスト近く、ぼくは、ぼ ーぼーと泣いていた。隣の人もい っそうぼーぼーと泣いている。
 映画が終り、試写場を出て、東 京の高いビルに囲まれた道を歩い ていると、またぼーぼーと涙が流 れてきた。恥ずかしいとか、そう いったレベルじゃなくぼーぼー流 れるので、なんだか逆に潔い気持 ちになって、ぼーぼー泣きながら 歩いた。こちらを見る人がいるが 気にもしなかった。
 電車に乗って、いくつかのシー ンを思い出すと、ぼーぼーと泣け てきた。いつまで泣けるんだ、と 自分でもあきれた。思い出すシー ンは、ラスト近くの泣かされたシ ーンではなく、引いた気持ちで見 ていたシーンだった。路地を走る 少年だったり、墓の上で叫ぶシー ンだったり、トイレで腕を切られ るシーンだったり、部屋を 覗くシーンだったり。
いくつものシーンが、自分 の中の風景とだぶっている 気がした。それが何層にも 積み重なって、こうやて気 持ちを揺り動かされている のだろう、と思った。たく さんのシーンを自分の中に 残してくれる映画を見るの はとても心地よいことだ。


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「エバー・アフター」
 貴婦人が、グリム兄弟を邸宅に 呼び「シンデレラ」の真実の物語 を語り始めるとゆーおいしい導入 からはじまるこの作品。
 魔法が出てこないかわりにシン デレラ自身が果敢に運命に立ち向 かう現代的な展開になっているが、 ヨーロッパの美しい風景とハマり すぎのキャストのせいで、贅沢な おとぎ話になっている。
 ドリュー・バリモアが演じるシ ンデレラは、怒ってしまえばグー ぱんちで、義姉をノックアウトさ せるような快活さ。王子様を待つ 可憐な少女ではない、暴れん坊娘。 ちょんまげだって似合いそうであ る。顔が、いやになるぐらいおね えさん顔で、眉間が広く、小鼻の 肉付きが良い。貴婦良妻の相だ。 このちょんまげおねえさんの素敵 な所は、表情や身振りが左右対称 で、いじめられていても抑圧され てない素直なヒロインであること が一目でわかる所だろう。
 一方、アンジェリカ・ヒュース トン演じる継母ロドミラは左右非 対称だ。にやりとねじまげる片方 の口端、片眉をあげてフンってな 感じで見下す目、左右非対称の表 情が作為の心持ちを的確に表現する。そのまま挿絵で登場できそう なイジワル顔。あぁ、思い出すだ けでも、そのイジワルっぷりに、 にやにやである! そう、いじわるっぷりが炸裂すればするほど、 素敵に見えてくる。こいつ良いキャラだよなぁ、と思ってしまう。
 義姉の顔は、重力に逆らって表 情筋が上に引っ張られているよう に見える。しかも鳥に似ていて、 いかにもヒステリックに鳴きそう である。素晴らしい! 魔法使い の替わりに登場するダ・ヴィンチ のステロタイプな造形といい、展 開はアンチおとぎばなしでありな がら、顔や映像はおとぎばなしリ アリティを追求するとゆー 芸で楽しませてくれる。
 って、顔のことだけで字 数が尽きてしまうぞ!
 夢をかなえるためのパワ ーが封じ込められた現代の シンデレラ物語。これは、 美しく華麗で魅惑的な新し いおとぎばなしだ。
 って強引にまとめてみま した、ではまた!