おれは、たまらなくなると野原へ飛び出すよ、くもにだつて女性はゐるよ、一瞬の微笑みだけでいゝんだ。by 宮澤賢治
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香、なかなか手紙が出せなくてごめん。 一度電話したんだけど、安田さんに「気持ちはわかるけど、もういい加減にしてください」って怒られちゃったよ。
『デウスの棄て児』はおもしろかっただろうか? ぼくはまだ読んでないんだ(正直云うと買ってもない)。
ようやく青春小説特集の原稿書きは終わった。ブックガイドなので、あまり詳しくは書かなかったが、いろいろ考えた。驚いたのは、お前の嫌いな「勝手に美少女で癒されるなんて、てんでなってないわ」系の話がけっこう多かったこと(しかも、やっぱりそれで感動しちゃう自分!)。
だけど、(言い訳になっちゃうけど)ある種の青春小説が、大人たちの作った既成秩序への異議申し立てが大きなテーマになっているとするならば、その反対に位置する子どもたちに癒されちゃうという構造はしかたないのかなぁと思ったりもする。
ぼくなんかは、もう異議申し立てされる側になっちゃってるかもしれないけど、やっぱり、香に対してキャッチャーになりたいと祈っちゃうのは、自分でも、どうしようもないことなんだ。
そういえば、『8miles』を見た。トレーラーで暮らすような貧困の世界で音楽という夢を追い求める青年エミネムの物語。ラップ版成り上がり、よろしく。って感じの映画だった。
ストレートな青春映画。ぼくは、こちぇこちぇしたものが好きなので、デトロイトの街や建物の汚れた感じが印象に残った。
でも、ここでも、子どもに聖なるものを求める視線が登場してしまう。彼の妹は、何も知らず壊れた家庭の中の被害者として登場し、暴力をふるった後のエミネムにゆっくりと抱きかかえられたりする(暴力をふるって穢れたエミネムが、ピュアな妹を抱きかかえることでピュアにもどっていくってわけなんだよ)。
常にピュアな存在として妹が登場し、エミネムは、妹を守るために廃屋を焼いちゃうんだ。妹に対して、彼はキャッチャー・イン・ザ・ライなんだよ、完全に。
こっちは、じりじりと嫌な暑さになってきている。そっちにまた遊びにいきたいよ。そのあたりは、暑くなっても、爽やかだからね。夏になると、病室の窓からおまえと一緒に見た景色を思い出すよ。森の匂いと、セミの声。おまえが「あそこに落ちていったら気持ちよさそう」と、つぶやいた青い空。
じゃぁ、また手紙を書くよ。では、また。
P.S.
明日は七夕だ! 星を見るよ。
嶽本野ばら『デウスの棄て児』az/bk
DVD『8Mile』az
CD『8マイル~オリジナル・サウンドトラック』az
CD『ザ・エミネム・ショウ』az
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