2004年4月20日上程
2004年4月28日加筆修正
雑感目次へ戻る

雑感

元人質の人権を直ちに保障しよう!

 今回(2004年4月)のイラクでの日本人人質事件,人質となった人(被略取者)に救出費用を負担させようという声が一部メディアから出されており,外務省は日本への帰国費用と健康診断費用を請求する予定だという報道もなされているけれども,被略取者たちが費用負担する必要,全くないんじゃないか?

費用負担を求める根拠としては,政府が本人たちの事務を本人に代わって行ったという構成(事務管理という。)と,政府が損失を被ったことにより被略取者たちが不当に利得を受けた(不当利得という。)という構成が考えられる。事務管理に基づいてかかった費用を請求するためには,政府の行為が本人たちに有益であることが必要とされる。不当利得として返還を請求するためには,被略取者に現に利得が存在することが必要である。

 でも,飛行機の費用については,そもそも本人たちは帰りたくないのにほとんど無理矢理帰らされているのだから,被略取者本人たちに有益とは言えないだろう。

 また,帰国は彼らの当初の希望ではなかったのだし,彼らとしては現地での活動を望んでいたのだから,飛行機による送還によって彼らに利得が生じたとも言えない。

 その他の費用についても,政府が出した費用がどれだけ解放に有益なものだったか,因果関係が全く不明。軍関係の仕事をしていたイタリア人が殺されたことを考えると,人質となった人たちの職業や活動が解放に当たってのキーとなったんじゃないか,と思う。

 川口外相は,退避勧告を再三出していたっていうけど,イラクに退避勧告を出さなければならない状況を作ったことに日本政府も責任を負っているという点で,通常の,内戦が行われている国とは事情が違うんじゃないか?

 そもそも,自衛隊を派遣しなければ,小泉内閣がブッシュを支持しなければ拘束の理由は見つからなかったのだから,今回の誘拐を招いたことについて政府にも責任があるんじゃないか。

 そうすれば,政府が自ら招いた損失だから信義則上支払請求は不可能というものではないか。

 仮に政府に支払請求権が発生するとしても,憲法違反の公権力の行使=自衛隊の派遣が被略取者に損害をもたらしたとして,その賠償請求権と政府から被略取者への費用償還請求権と相殺していけるんじゃないか。

 政策に影響を与えるような行為をとることがけしからんという論調もあったようだけど,略取によって変更を呼びかけざるを得ないような政策を採ること自体問題ではないのかね。それに,イラクへの自衛隊派兵はイラク人のための人道支援という名目なのに,現地イラク人から撤退を迫られるというのは,イラク人のために行うものでないということをイラク人から見破られてしまっているということではないのか。

 話は変わるが,ネットで被害者の自己責任を唱える人たちの言動もひどいようだ。本名で発言している人はまだしも,匿名で被害者やその家族を誹謗中傷する人たちについて思う。自分の表現行為に自己責任を問われることをいやがる人は自己責任という言葉を他人に押しつける資格はないって。

 また,そもそも自己責任って何だ?という点ももっと考えられる必要がある。自己責任だ,って主張する人たちの中で,ではどうすれば「自己責任」に反しないということになるのかということを明示できた人は私の知る限りほとんどいなかった。退避勧告地域に行った以上は国に救出を求めるべきではないということなのだろうか。でも,邦人保護を押し進めたいのはむしろ政府の方なのではないだろうか。邦人保護を名目とした自衛隊派遣は保守勢力の念願だろう。現に,今回の事件と同時期に,サマワの自衛隊宿営地内のメディアの記者が自衛隊機でクウェートに退避するという事態が生じている。

 自己責任を唱える人たちの本音って,人質に取られている人たちが政府の政策に反対するようなことを声高に叫ぶことがおもしろくない,政府に対策を望む以上は政府の政策に逆らうな,ということだろう。しかしそれは筋違いな主張だ。

 被害者の人たちは,イラクで解放された時は元気そうな様子が映像で映されていたが,その後帰国したときは極めてやつれていた。きっと,親族が日本で受けた非難・いやがらせを聞かされたのではないか。また,外務省など当局による事情聴取のやりかたに問題はなかったのだろうか。今後,被害者に対しては,警視庁公安部や北海道警察による事情聴取も予定されているという。事情聴取が二次被害を生むのではないか,きわめて心配だ。幸い,弁護士がサポートについているようだ。事情聴取にも弁護士が立ち会って,彼らの人権が事情聴取や記者会見で損なわれないように配慮する必要があるだろう。マスコミも,しばらくは彼らの動向については静かに見守って,イラクで起きている事態を,政府当局の管理・監視をかいくぐってきちんと調査し,伝えてほしい。そして,自分たちの同朋のジャーナリストやボランティアが危険な地域に行っていることについて,敬意をもって接するとともに,彼らが行っている地域がなぜ危険なところなのか,その原因を(政府とのしがらみにとらわれることなく)伝えてほしいと思う。

※その後,外務省から家族に対して健康診断費用とバグダッドードバイ間の航空運賃の支払いが,外務省外郭団体からドバイー日本間の航空運賃の支払いが請求され,前者は家族が,後者は被害者支援団体が支払ったという報道がなされた。「自己責任」の大合唱の中で不条理が通ってしまったようで,残念なこととしか言いようがない(4/28)。

参考:日本人3人の人質解放に関する声明

←前次→


雑感目次トップページ