商法 平成8年度第2問

問  題

 振出日欄が白地の約束手形の所持人が、その白地部分を補充しないまま、満期日に、振出人に対し、支払のためその手形を呈示した場合、その呈示は、どのような効果を生ずるか。 

答  案
(本試験再現、評価A)


一 本件呈示の効力を検討するに当たっては、本件手形が有効な手形か否かをまず検討する必要がある。なぜなら、有効な手形と認められれば有効な手形の呈示に認められる効力が全て認められることとなるからである。

二1 本件手形は振出日欄が白地である。振出日は約束手形の必要的記載事項とされている(手形法七五条六号)。そこで、振出日欄白地の本件約束手形は手形要件を欠き無効ではないか(七六条)が問題となる。

2 この点、振出日欄の記載は、流通する手形の大半を占める確定日払の手形においては意味を有しないとして、確定日払手形においては振出日欄記載は手形要件でないとする見解もある。

3 しかし約束手形においては表章する権利が金銭債権という抽象的なものであることから権利と証券の結合が権利発生面にまで及び(設権証券性)、その結果権利内容は証券上の記載により決められることとなっている(文言証券性)。
  したがって、権利内容の画定に必要な事項が必要的記載事項であると解する。
  振出日欄の記載は、手形のサイトの長さを通じて振出人の信用を測る手がかりを所持人に与えるものであり、実質的な権利内容の画定に必要な事項といえる。
  また、手形法記載事項を手形要件でないとすることは、手形制度全体の安定を損ね、手形の流通を害することとなり適当でない。

4 したがって、振出日欄の記載は確定日払の手形においても手形要件であると解する。

三1 右のように振出日が手形要件であるからといって、本件手形が常に無効となるわけではない。商慣習法上(商法一条)認められている白地手形として認められる可能性があるからである。

2 白地手形とは、白地部分の補充を停止条件とする手形上の権利と白地部分の補充権を併せ表章する有価証券をいう。白地手形と無効手形は補充権授与の有無で区別される。

3 それでは、補充権授与の有無はいかに判断されるのであろうか。
  思うに、白地手形と無効手形とは外見上は全く同一である。したがって、これを分けるのは補充権授与の具体的意思表示の有無によるしかない。
  しかし、具体的意思表示の有無は手形面上からは分からないのであり、この有無により白地手形か否かを決定したのでは取引安全を害する。
  そこで、補充権授与の具体的意思表示がなされた場合のほか、完成手形として補充されることが予定されている書面に、そのような書面であることを認識し又は認識しうべくして署名がなされた場合には、白地手形となると解する。

4 本件手形は振出日欄が白地の約束手形であり、完成手形として補充されることが予定されている書面といえる。したがって、本件手形は白地手形である。

四1 それでは、本件のような白地手形の白地部分を補充しないままの呈示は、いかなる効力を有するか。

2 手形は呈示証券であるから(手形法七七条一項三号、三八条一項)、呈示によって初めて請求としての効力が生じ、債務者を遅滞に陥らせることができる。
  しかし本件手形は完成していない手形ゆえ、完成手形による請求の効力としての付遅滞効は認められない。

3 同様の理由から、遡求権保全効(七七条一項四号、四四条一項)も認められない。

4 では時効中断効(民法一四七条一号)はどうか。
 請求としての効力を有しない以上、認められないようにも思える。
  しかし白地手形であっても消滅時効は進行しているのであり、これを中断させることを認める必要がある。また白地手形であれ支払のため呈示されたことによって権利の上に眠る者でないことが明らかになっている。
  したがって「催告」として時効中断効を認めるべきと解する。

以 上


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